it's raining
ざーざー。ぽたぽた。ざばざば。
雨音と一口に言っても、降り方、ものへの当たり方、風……様々な要因でその音は聞こえ方が違う。
よく聞くと、ひとつも同じ雨音なんて無いんだよ。
サーニャの優しい父はそう言って、幼いサーニャの為に即興でメロディをつけて、微笑んだ。
「お父様」
ぽつりとサーニャが言った。流れる一筋の涙。
彼女の寝顔をのんびりと眺めていたエイラは慌てふためいた。
起こすか、起こすまいか。
とりあえず、ハンカチでサーニャの涙を拭ってみる。
皮膚に触れた感覚で、サーニャが薄目を開けた。
「エイラぁ」
胸に飛び込まれ、余計に慌てるエイラ。
でも何となく察しが付いたので、エイラは息を整えるとそっとサーニャを抱き、優しく髪を撫でた。
銀の髪がさらさらと指の隙間からこぼれ落ちる。
サーニャの呼吸が少し落ち着いたところで、エイラは囁いた。
「夢、見たノカ?」
「うん。お父様の……」
「サーニャ、泣いてタ。悲しそうダッタ」
「悲しくは、ないよ」
「でも、泣いて……」
「久しぶりにお父様と、夢の中で会えて……でも、夢だと分かって、醒めたらまた居なくなるって分かって……」
「それで悲しくなったノカ?」
こくりと頷くサーニャ。
エイラはカーテンで閉じられた窓を見る。微かに漏れる光は鈍く、さーっと微かに雨音が聞こえる。
「雨、降ってル」
「うん」
「前にサーニャ言ってたナ。雨の音で……」
「即興のメロディね」
エイラの胸に埋もれたまま、サーニャはそっと目を閉じる。
雨音が、確かに、微かだが聞こえる。
でも、それよりも力強く、そして暖かく聞こえるのは……
「エイラの、鼓動」
「えッ?」
「エイラの肌、暖かい」
「えッ、う、ウン。こんな私で良けれバ」
「私、歌うのは好き。音楽は好き」
「サーニャ……」
「でも、エイラの胸の音、聞いていると何か、ほっとする。そして絶対に離しちゃいけない、そんな大事な感じ」
「サーニャ、それっテ」
「一番大事なひとだから、エイラ」
「私だっテ、サーニャが一番大事ダゾ? だから泣かないデ。私もサーニャの悲しい顔見るのハ、辛いヨ」
「ごめんねエイラ、心配させて。でも、もう大丈夫」
サーニャはそう言うと、エイラをしっかりと抱きしめ、頬を撫で、緩くキスをする。そして囁く。
「エイラが居るから、私は大丈夫」
「サーニャ」
二人は見つめ合い……サーニャの瞳は少し潤んだ感じで……、唇を重ねた。
「雨、まだ止まないね」
「いつになったら止むんだろうナー」
「でも、雨は嫌いじゃない」
「ソッカ」
「雨は必要だから。でも一番好きなのは」
サーニャはエイラに寄り添い、頬に軽くキスをする。
「こうやって、エイラと一緒に居る事。愛してる、エイラ」
エイラはサーニャのはにかんだ笑顔を見て、
「私も、愛してル、サーニャ」
そう返し、サーニャの頬に同じ事をした。
止まない雨は無い。しかし、しばし降り続く雨も、二人を癒す為には必要なもの。
しっとりと全てを濡らし、優しいノイズで辺りを覆い、二人を包み込む雨。
その中で、ふたりは肌を重ね、何度も口吻を交わした。
end