U-501
「今夜はウナギです」
料理当番の芳佳はそう言って、皆に丼を配った。
甘辛いソースにたっぷり浸かった謎の食材が、ご飯の上に乗っている。
「芳佳ぁ、これ何?」
「ウナギだよ、ルッキーニちゃん」
「さっき近くの川で捕ってたあの細長くてヌメヌメしたやつ?」
「うん」
「へえー」
不思議そうに目の前の鰻丼を見るルッキーニ。
「……しかし、何でこう扶桑の食材は不気味なものが多いんだ? タコと言い、納豆と言い」
幻滅しているシャーリー。
「まあ食べてみて下さいよ。鰻は栄養が有って良いんですよ? 目にも良いし」
芳佳の説明を聞いて、ふと思い出す隊員一同。
「そう言えば……」
「肝油もヤツメウナギとか言う魚から……」
全員が芳佳を見る。
「大丈夫ですよ。美味しいですよ」
「皆何を心配している? 鰻と言えば蒲焼き、そして丼に鰻重だ!」
一人美味そうに食べる美緒。
「しかし宮藤は何でも出来るな。鰻までさばけるとは。板前にでもなったらどうだ?」
誉める美緒、恐縮する芳佳。
「いえ、全部見よう見まねで……結構失敗しちゃって」
「問題無い! 夏はやっぱり鰻だな! 皆もさあ食え!」
美緒にけしかけられ、恐る恐る口にする。
「あら、美味しい」
ミーナは一口食べて微笑んだ。
「まあ、ソースも甘めだし、悪くないかな」
「身はまあ良いとして……皮の部分が何かゴムっぽいぞ」
「悪くはないですけど……小骨が」
反応が微妙に分かれる。
「じゃあ、もう一品用意しました。うどんです」
丼に小分けされた、暖かいうどんを持ってくる芳佳。
「今度はヌードルカヨ。 でも何で魚にヌードルナンダ?」
エイラに聞かれた芳佳は当たり前の様に答える。
「今日は土用丑の日ですから」
「何それ」
「扶桑では、夏のこの日に『う』の付くものを食べると、夏を元気に過ごせるって言い伝えが有るんですよ?」
「『う』、ねえ」
「だったら他のモノでも良いじゃないカー」
「『う』……他に何が?」
「うーん……」
「とりあえず用意されたモノは食べろ! 冷めるぞ!」
美緒は箸の進まない皆をけしかけながら……、うどんもさらっと食べきると豪快に笑った。
食後、シャーリーとルッキーニはミーティングルームでのんびりくつろいでいた。
しかし疑問が残ったのか、ルッキーニはシャーリーの膝の上にぴょんと乗っかると、聞いた。
「う、だって。シャーリー」
「う、ねえ……」
「扶桑のことわざっておもしろーい」
「ことわざじゃないだろ。言い伝えだってさ。……しっかし謎だよな、扶桑の風習って」
「だから芳佳と少佐も面白いんじゃない?」
「おいおい、それを言っちゃあ……」
辺りに美緒と芳佳が居ないか気にするシャーリー。
「大丈夫だな。あんまり変な事言うなよルッキーニ」
「ほえ、何で?」
「いや……」
「そう言えば!」
ルッキーニは何かを思いだしたかの様に、シャーリーを見るとにやっと笑った。
「どうした、ルッキーニ?」
「シャーリーの使い魔って?」
「あたしの? ウサギだけど……おい、まさか」
「ジャジャーン! いっただきー」
ルッキーニはシャーリーの胸に飛び込むと、シャツのボタンを外し、露わになった肌にちゅっとキスをする。
突然の事にびっくりして尻尾と耳が出るシャーリー。
「ちょ、ちょっとルッキー、やめっ、あはぁっ……」
人目もはばからずいちゃつくルッキーニとシャーリー。
「ねえエイラ、私の本名覚えてる?」
「へ? いきなりどうしたんだサーニャ?」
部屋に戻るなり、突然の質問に驚くエイラ。ええっと、と一言呟いてから、答えを言う。
「アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャク、だったよナ?」
「そう。当たり。で、エイラ。気付かない?」
「何ヲ?」
「う、が付いてる」
「だからどうしたんだ……ってまさかッ!?」
言うよりも早く、エイラの腕を取り、まるでダンスを踊る様にくるっと回り、そのままベッドに倒れ込む。
「エイラ……」
「さ、サーニャ……」
言われるがまま、されるがまま、エイラはサーニャの頬に、肩に、胸にキスをした。
「エイラが元気でますように」
サーニャは顔を紅くし、微笑む。その姿がまたたまらなくなり、エイラは欲情に流されるがまま、サーニャとキスを交わす。
土用丑の日は、こうして普段と余り変わらず過ぎて行く。
end