One-man AirForce


「えっと……天気図は貼ったし、資料は配ったし……」
私、ジェーン・ゴッドフリーは今日も今日とて朝からバタバタと
基地を動きまわっておりました。
今日は朝のブリーフィングと一緒に、定例の戦況報告もあるから大忙しです。

「ジェーン、お茶とお菓子、用意しておいた」
「あ、ありがとうです、ルチアナ」
このすらっとした黒髪のウィッチはロマーニャのルチアナ・マッツェイ少尉。
最初にあったときは無口で何を考えているのかよくわからない人だなぁと
思いましたけど、優しくてすごく気がきく、お姉さんみたいな人です。
「そろそろ始まるよ。もう、みんな会議室にそろってる」
「うちの大将は?」
「見てない」
はぁ……予想はしてたけどやっぱりですか。
たまにはいい意味で予想を裏切ってほしいです。
「わかりましたです。連れてきますんで、先に行っててください」
こくんと頷くとうなづくルチアナとわかれて私は浜辺に向かいます。

宿舎を抜けて急いで浜へかけていくと、やっぱりいました。
砂浜にぼけーっと座って、風船ガムを膨らました我が大将、ドミニカ・ジェンタイル。
戦果はきちんとあげてるし優秀なウィッチだから私と同じ大尉ではありますけど、
集団生活が苦手というか、一匹狼というか……。
もうすこし協調性というのか、全体を見ることも覚えてほしいです。
「ドミニカ!こんなとこでなにやってるですかっ!」
ドミニカは気怠げに私のほうをちらっと見ると、またアドリア海を眺めて風船ガムをぱちん。
「もう会議始まりますよ!早く来る!」
「……やだ」
「やだってなんですか!やだって!」
「だって、めんどいもん。ジェーン、代わりに聞いといてよ」
「なっ……」
きっと、このときの私は頭から湯気が上がりそうなぐらい真っ赤になってたと思います。
「ドミニカ!あなたは大切なブリーフィングを一体なんだと思ってるんですか!
もう少し、軍の規律だとか、自分の立場だとかをよく考えないとだめですっ!」
「……まぁ、でも、要は勝てばいいだけだし」
「そういう問題じゃないです!」
「うるさいなぁ。お前は母親か」
ようやくドミニカが、裾の砂を払いながら立ち上がります。
「わーったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「なんですか、その態度は!」
手をひらひらと振って、呼びに来たはずの私よりも先にいってしまったドミニカを、
私は急いで追いかけました。

「――というわけで、高度18000付近で乱気流がある以外は気流も安定していますが、
明後日以降は大きく乱れるとの――」
ふあぁ……。早起きして準備していたので、さすがにちょっと眠たいです。
大将にああいった手前、ちゃんと聞かなきゃいけないのは当然ですけど、
さっきから細かくて難しい話が多くて……。
「次に、ネウロイの出現予想ですが――」
ドミニカはどうしてるかなとちらっと盗みみると、ガムをくちゃくちゃと噛みながら
ぼんやり窓の外を眺めています。
……あいつ、やっぱり話きいてないです!
「――ということで、本日の哨戒はロマーニャ空軍が担当。
マルチナ、ルチアナの2名は待機、他のものは準待機とします。解散」

他の隊員に混じって、さっさと会議室を出て部屋にもどっていくドミニカを追いかけて
私も会議室を出ました。本当は片付けもあるんですけど、まずはバカ大将に一言いってやらないと
気が済まないです。
「ドミニカ!」
「……何だよ」
立ち止まったドミニカが苛立たしそうに返事します。
「あなた、さっきからの話、全然聞いてなかったですね!そんな態度では軍務に支障が……」
「ジェーン」
不意に、ドミニカがはっきりとした口調で私の名前を呼びました。
「すぐ飛ぶよ。悪いけど、ジェーンと二人分、許可とってきて。高度15000ft、グリッドE4からW6まで」
「えっ……」
突然何を言い出すですか、この人は。
……でも、目はすごく真剣で、ふざけて言ってるんじゃないっていうのはすぐわかりました。
「……出撃、ですか」
ドミニカが力強くはっきりとうなづきます。
「予想じゃネウロイは出ないっていってるけど、ここ数回の出現パターンから考えて、
そろそろ偵察に来てもいい頃。明後日から天気が乱れるとしたら、今日偵察して明日攻撃にくる。
さっきから見てると、高層の雲の動きが速くて不安定だから、18000ftの気流は思ったより乱れてる。
敵も飛行体なら高度下げてくるはず。それに、海岸線は安定してるけど、沖のほうは波が
高そうだから、この天気も午後には一度崩れる。としたら、敵が仕掛けてくるのは午前中。
今から上がってれば先手を打てる」
……まったく、本当何なんですか、この人。
ぼーっとしてるような顔しながら私よりもずっと真剣に戦況読んでて。
全然聞いてないふりしながら、大事なところは絶対聞き逃さないで。
上の見解と食い違おうがなんだろうが、自分が間違いなく信じる結論を導きだしてくる。
そして、信じたものは絶対曲げなくて、揺らがなくて。
……こんなとき、どっちを信じるべきなのか、私はちゃんと知ってます。
どういうわけか、それは毎回、軍の規律を乱すことになるんですけど、
でも、誰も守れない規律よりもみんなを守れるわがままのほうがずっといいです。
「二人だけで大丈夫ですか?」
「あんまり大勢上がると敵に警戒される。気づかれる前に叩く。ジェーンなら大丈夫だよね」
「当たり前です」
私を誰だと思ってるですか。リベリオン最強のワンマン・エアフォース、
ドミニカ・ジェンタイルの相棒ですよ?
「先にハンガーに行っててください。急いで許可とってくるです」
「了解」

その後。ドミニカの予想通りロマーニャ空軍の防衛網をかいくぐって
中型偵察ネウロイが出現して、私たちはまたひとつ、共同撃墜スコアを伸ばしました。

fin.


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