Kaffee-Kantate
――さーにゃん、最近よくコーヒー飲むようになったね。
金色の髪をした私の友人がほがらかに微笑みながらそういった。
そんなこと、誰かにいわれるまで全然気がつかなかったのだけれど。
オラーシャにいた頃は、ほとんどコーヒーを飲まなかった。
留学先のオストマルクでコーヒーを知ったけれど、それでも私は紅茶のほうが好きだった。
コーヒーを飲むことを覚えたのはこの501に来てからで、
私の祖国と同じく紅茶文化のこの国でコーヒーの味を覚えたのなんて、
間違いなく北欧から来たあの人のせいだった。
あの人には好き嫌いはないし、リーネさんの入れる紅茶だっていつもおいしそうに飲むけれど、
それでも二人だけのときには、それは見事な淹れ方でコーヒーを振舞ってくれるのだった。
銀色のケトルから挽きたての豆に熱いお湯が注がれ、香ばしい独特な香りが部屋を包みこんでいく。
一滴ずつ、ゆっくりと、マグカップに注がれたそれは夜の闇のような色をしていて、
そのなかにあの人は、真っ白なミルクと砂糖をたっぷりと入れて、私の前に置く。
初めてあの人の淹れたコーヒーを飲んだときに、苦いといって顔をしかめた私のために、
あの人が特別に作ってくれる、私だけの特別な飲み物。
その特別なコーヒーを本当に嬉しそうに飲む私に、そんなに甘いものよく飲めるよなと
ちょっと苦笑しながら、あの人はいつも砂糖もミルクも入れないコーヒーを飲む。
作って、作ってと子供みたいにせがむ私に、あの人はいつだって嫌な顔一つせずに
私のためだけにコーヒーを淹れてくれて。
そのうち、あの人が任務でいないときに、あの優しさやあったかさを思い出したくて
自分で淹れるようになって。
気がついたら最近は、紅茶よりも飲む回数が増えてきたかもしれない。
入れる砂糖やミルクの量も、少しずつ少なくなってきた。
――きっと、エイラのおかげだね。
すてきだね、好きな人の好きなものをいつの間にか好きになってるのって。
私の目の前の友人は、そういってまた、からかうように笑うのだった。
でもね、ハルトマンさん。あなただって、自分のことには気づいていないじゃないの。
空いたカップを手にして嬉しそうに洗い場に向かう背中に、私はこっそりつぶやいた。
fin.