秘密のコクミンSHOW
「あ、坂本さん。ボタンが取れかかってますよ」
夕食後の自由時間にて。
上官たちのために緑茶のカップを運んできた芳佳は、美緒の胸元を指差す。
縦に並んだ金ボタンの一つがグラグラ。今にもポロッと取れてしまいそう。
「ん? またか……扶桑海軍の士官服はヤワでいかん」
「坂本さんが酷使しすぎるのよ。私のはそんなにすぐ磨耗しないもの」
一週間前にも外れたとぼやく美緒へ、対面に座った醇子が突っ込む。
ウィッチの軍服は魔法繊維で頑丈に作られている。ボタンを縫い付けている糸も同様で、ちょっとやそっとでは緩んたりしない。それをこうも早いサイクルでとなると使用者に何らかの問題があるはずだ。
「はっはっは、竹井は傷む前に繕うからな。私もリバウでは世話になったものだ」
「竹井さんが坂本さんの繕い物をされていたんですか?」
芳佳は驚いて目を瞬く。
リバウでは醇子のほうが上官だったという。その行為自体は大したものでなくても、なんだか不思議に感じる。
「だって、坂本さんったら色物の糸を持ち出してくるのよ? この真っ白な生地によりにもよって!」
醇子は自らの上着をたたき、憤まんやるかたない様子で身を乗り出す。
立ち振る舞いの優雅さに定評のある彼女にしては珍しい。
「縫えてさえいれば糸なんて何色でもいいだろう」
「よくないわよ。見栄えが悪いでしょ」
「ええと、それは確かに……」
らしい無頓着さに半笑いし、芳佳は醇子に同意する。
刺繍などの特別な目的でないなら白地には白糸を使うのが大原則だ。
言うべきことを言ってすっきりしたのだろうか。醇子は洗練された仕草でカップをすくいあげ、緑茶を一口。
「それで見るに見かねて私が繕ってたんだけどね。他の子たちにはうがった目で見られるし、おかしな噂はたつし、散々だったわ」
「ですよね……お察しします」
芳佳は、溜め息をつく醇子と首を傾げる美緒の間に、煎餅を盛った皿をおく。
これは扶桑海軍艦隊からのありがたい差し入れである。異国の地でのささやかな贅沢だ。
「あら、ありがとう宮藤さん。お煎餅なんて懐かしいわ」
「やはり緑茶には煎餅だな。ところで噂とは何のことだ、竹井?」
「あ、やっぱり気づいてなかったんだ。まあ、昔のことなんてどうでもいいじゃない」
「それもそうか」
あっさり頷く美緒。前向きな性格なので昔話は苦手だ。
本当に困った人だと、醇子は苦笑する。それでもこの僚友から距離をおこうと思ったことはない。
芳佳は美緒の胸元をチラチラ。別におっぱいを盗み見ているわけではなく、取れかけのボタンがどうにも気になっている。
「あの坂本さん、私がボタンを付けましょうか?」
「いいのか、宮藤?」
「はい。こうみえても針仕事は得意なんですよ」
「はーはっは、さすがは私が見込んだ扶桑撫子だ。では頼むとしよう」
申し出をうけた美緒はからからと笑う。
パッと顔を輝かせた芳佳が、裁縫道具をとりにサロンを出ていく。
残された上官たちは、まったりと茶をすすり、少女が戻ってくるのを待った。
針に糸をとおしてチクチク。
本人が言ったとおり危なげなく、あっという間にボタンが縫い付けられていく。
集中する視線。リーネ、ペリーヌ、ミーナ―――後からやってきた者たちも加わり、興味深げにその様子を見守る。
「これでよし、っと」
生地の裏で結びをつくり、はさみでチョキン。
芳佳は預かった士官服に引き攣りがないのを確認し、持ち主に返した。
「どれどれ……うん、しっかり縫いつけられているな」
「それだけじゃないわよ。縫い目も目立たないようにしてあるわ」
さっそくの出来栄えチェック。
美緒は合わせの強度を確かめ、ボタンに顔を近づけた醇子がしきりに頷く。
手放しの賞賛を贈られた芳佳は耳まで赤くなる。
「そ、そんな。大したことありませんよ、これくらい―――あいたっ?!」
針山に刺そうとした縫い針が、左手の親指をグサリ。
指を押さえて飛び上がった芳佳へ、近くに控えていたリーネが駆け寄る。
「大丈夫? 芳佳ちゃんっ」
「う、うん。ちょっと突いちゃっただけ。はあ~びっくりした」
まじまじと見やる視線の先に小さな紅玉。
悲鳴のわりには軽症。不意をうたれた驚きが勝ったのだろう。
思わず腰を浮かせてしまったペリーヌはそれを誤魔化すように鼻を鳴らす。
「…まったくもう、この豆狸は。調子にのっているからですわ」
「宮藤さんの治癒魔法は自分自身に使えないから気をつけてね」
隊長であるミーナは釘を刺すことを忘れない。
回復担当の芳佳は部隊の命綱であり、その安全には誰より気をはらわねばならなかった。
「はい……すみませんでした」
「まあまあ、そう落ち込まないで。じゃあ、左手を心臓より高く上げて」
「そこまでするほどの怪我でもないだろう。どけ、竹井」
ぱくん。
時が―――止まる。
「さ、ささささか、坂本少佐っ?! な、なななにを」
ショックのあまりペリーヌの眼鏡もクルクル。
かろうじて繋ぎとめた意識へ鞭打ち、憧れの人に真意をただす。
芳佳の手首をガッシリと掴んだ美緒は、奇声の上がった方向に目をやり、ふくんでいた指を解放する。
「なにって手当てだが? お、血が止まったようだぞ宮藤」
「は、はい。その……ありがとうございました、坂本さん」
「はっはっは、なんだこれしきのことで」
帯電していく空気に気づかない扶桑師弟はほのぼの。
もじもじしていたリーネが一念発起し、芳佳に擦り寄っていく。
「あの、芳佳ちゃん。私でよければいつでも」
「竹井さん、ちょっといいかしら―――扶桑ではああいった治療が普通なの?」
「え? ……そ、それは、親しい間柄ならまあ」
笑顔のミーナに圧力を感じた醇子は、目を泳がせつつ必死のフォロー。
美緒が絡むと、どうあってもこうなる役回りだった。
XXX
「あ~やっと終わった。自由時間をまるまる使うなら何日かに分けてくれればいいのにさー」
「愚痴はよさんか、ハルトマン。あちらだって何度も謝っていただろう」
ゲルトルートは大きく伸びをするエーリカに喝。
長々と取材をこなした二人は、乾いた喉をうるおすべく廊下を急ぐ。
「そういうトゥルーデだってずっと仏頂面してたくせに」
「なにを言う。私はもともとこんな顔だ」
にやつく僚友に、ゲルトルートはしかめっ面。
頭の後ろで手を組むエーリカが笑う。あいかわらずカッチカチだが、501JFW配属当初に比べれば随分まるくなったものだ。
開いていた食堂のドアをくぐる。すると、部屋の中には少女がひとり。
「宮藤!」
ぎょっとしたゲルトルートが声を荒げる。
ぐらぐらする丸椅子にのり、皿やカップを天井棚に押し込んだ芳佳は、背後からの大声にバランスを崩す。
「わ、わわっ?!」
「危ない―――――!」
間一髪。
雑多物を弾き飛ばし、走りこんだゲルトルートが小柄な体を抱きとめる。
「バ、バルクホルンさん?! ありがとうございます」
「ありがとうございます、ではない! 安全意識が欠落しているぞ! こんな不安定な足場に身を任せるなど以ての外だ!! 私がここへ来なかったら一体どうなっていたことか」
「すっ、すみませんっ」
芳佳はゲルトルートの怒気に身を縮こまらせる。
腕に当たる色よし張りよしな膨らみが心地良いだなんて、とても口に出せない。
「どっちかっていえば、トゥルーデが急に大声だしたせいだと思うけどね」
マイペースさを発揮してテーブルにつくエーリカ。
聞きとがめたゲルトルートがギロリ。
「それは引き金にすぎん。宮藤が万全の態勢でのぞんでいれば防げたことだ」
「あ~もういいや。かわいがっている宮藤に怪我がなくてよかったねー」
「か、かわいがっているっ?! な、ななななんの根拠をもってそんな! ちっ、違うぞ、私は上官としてだな」
「隠さなくてもいいじゃん。もうみんな知ってるんだし」
慌てふためく堅物と、にやにやする黒い悪魔。
エースとしての威厳は影も形もない。
「あの、お二人ともお茶でも淹れましょうか? あと、そろそろ下ろしていただけると……」
いまだ抱きかかえられたままの芳佳が控えめに上申する。
当事者なのに、なぜか傍観者の有様だった。
ようやく解放されて、しばし。
上官たちのためにコーヒーをいれようとした芳佳は、目にした赤にハッとなる。
「バルクホルンさん、指から血がっ」
「なに、血だと? ……ああ、どこかに引っ掛けたか」
視線を落としたゲルトルートが鼻を鳴らす。
短めに整えられた爪のひとつに血が滲んでいる。どうやら爪の端を割ってしまったらしい。
「すぐに治療します!」
「宮藤。前々から思っていたのだが、お前は魔法に頼りすぎだ。こんな小傷、ウィッチなら1日で治る」
ゲルトルートは固有魔法を発動しかけた芳佳を押し留める。
治癒魔法の安易な使用は推奨できない。術者自身の負担になるばかりではなく、当人が備える自然治癒のリズムまで狂わせてしまう。
きっぱり拒否をされても、頑固なところのある芳佳は納得しない。
「でも、私のせいで怪我をしたのに」
「勘違いするな、これは自分自身の不手際だ。まあ、お前がどうしてもと言うなら、魔力を用いない普通の治療にしてくれ」
ここで無難な折衷案を提起。
テーブルに頬杖をついたエーリカが微笑む。なんだかんだと言ってゲルトルートは芳佳に甘い。
芳佳はかざしていた両手をもどかしげに下ろす。このうえ主張を押し通すなら、それはただの自己満足だ。
「…わかりました。では」
はむっ。
時が―――とまる。
「……み、みみみみ宮藤、なななななにを」
「ひゃい? ひゃにほっへ……魔力を用いない治療ですけど?」
ちゅっと音をたてて含んでいた指を解放し、芳佳は首を傾げる。
ピュアな瞳に二の句をつけないゲルトルート。そんな上官を不思議そうに見やり、芳佳はまた指先を口に含む。
ちろりちろりと舌が傷のあたりを這うにつれ、ゲルトルートの顔がメチャアクチャアになっていく。
「宮藤ぃ。傷口には唾をつけとけって扶桑では言うらしいけど、あれって迷信なんだぞー」
「ええっ?! 本当ですか、ハルトマンさん!」
「まあね~、うちの父様は医者だし。かえって雑菌が入るから良くないんだってさ」
すまし顔のエーリカが傷を舐めるという民間療法をただす。
固定観念をくつがえされた芳佳はおろおろ。
「そ、そうなんですか。すみませんバルクホルンさん、すぐに消毒薬をとってきます!」
「…待て宮藤。それには及ばん」
ゲルトルートは、踵を返した芳佳のセーラーカラーをつかむ。
「でも傷口からバイキンがっ」
前へ進もうとする靴の裏が甲高い音をたてる。
しかし、部隊一の力自慢に首根っこを押さえられてはどうしようもない。
「ひ弱な菌ごときが、この私の体内で好き勝手できるわけなかろう。よしんば侵入したとしても電撃戦で葬りさってくれるわ」
「あ、あの、バルクホルンさん……」
靴底が床を離れる。
ぶらんと吊り下げられた芳佳の視界が180度ターン。
「それともなにか、お前が送り込んだ雑菌は私の強靭な免疫に打ち勝つとでも? そんな取るに足りない幻想に浸っているなら早々に扶桑に帰ったほうが身のためだぞ―――――ハアーハハハッ!!」
正面にもってきた少女に顔を近づけ、そりくりかえって高笑う。
そうしてようやくゲルトルートは芳佳をわきへ下ろし、開いたドアからギクシャクと出て行った。
ぽかんと呆気にとられる芳佳、腹を押さえてテーブルに突っ伏すエーリカ。すると今度は大小のお騒がせコンビが駆け込んでくる。
「なあ、バルクホルンのやつ、どうしたんだ?! 頭でもやられちまったのか??」
「こぉ~んな茹で蛸みたいな顔してね、ハアーハハハッって笑ってるんだよ! 気持ちわる~い」
「ええ?! や、やっぱり今からでも消毒したほうが良いんじゃ……どう思いますか、ハルトマンさん?!」
ひたすら真面目なその表情。
さすがは扶桑の魔女だと、エーリカは我慢しきれず噴き出した。
XXX
「はあ~あ、疲れた」
醇子は首をコキコキさせて、静まった廊下を歩む。
すでに消灯時間を大幅にすぎている。サロンから退散しようとしたところを囲まれ、今の今まで聴取にあっていた。
扶桑独特のウェットな付き合いを欧州人に理解してもらうのは難しい。それぞれの意中の人が絡んでいるなら尚更である。
「美緒にも宮藤さんにも困ったものね……」
朴念仁すぎる二人は騒動の種だけをまき、さっさとどこかへ。
ふぅ~と、ひとり溜め息をつく。弟子は師に似るというが、そんなところまで似なくてもいいのにと思う。
つらつらと考えているうちに食堂前にさしかかる。聞こえてくる話し声に首を捻り、ひょいと中をのぞきこんだ。
「あら、エイラさんにサーニャさん」
「なんだ竹井大尉か。デイシフトはもう寝る時間だぞー」
「エイラ、目上の人に失礼よ」
ざっくばらんな言動をたしなめるサーニャ。よく睡眠をとったのか、その目はパッチリと開いている。
上下意識が希薄な扶桑海軍所属の醇子は、特に気にしたふうもなく微笑む。
「二人はこれから夜間哨戒?」
「はい。フライトまで少し時間があるので飲み物でも、と」
「大尉も一杯やるか? カハヴィを飲んでシャキっと―――あ、だからって哨戒には同行しなくていいんだぞ。私たちだけで十分だからな」
しっかり予防線を張るエイラ。二人きりの夜間飛行を邪魔されてはたまらない。
醇子は深く追求することなく室内に歩を進める。
「じゃあ、いただこうかしら。ちょうど喉がからからで」
「すぐに用意します。お待ちください」
「あ、サーニャ! 私がやるって」
「いいから。私の分はエイラが淹れてくれたでしょう?」
ごく控えめにサーニャは微笑む。
そんな可憐さと、厨房に立つ後ろ姿に見とれていたエイラは、隣の椅子がきしむ音にハッとなる。いつもは物音をあまりたてないのに珍しいなと思い、観察してみるとやけにどんよりしたそのオーラ。
「なあ大尉、悩み事があるなら相談にのるぞ。なんならタロットで占ってやろうか?」
「はい?―――悩み事? 占うってなにを?」
「…なんだ違うのか。紛らわしいんだよなぁ、もう」
きょとんとした茶色い瞳に脱力し、艶やかな金髪に手を突っ込んでクシャクシャ。
そんなエイラに首を傾げていた醇子は、思考をめぐらせてみてやっと、気遣ってもらったという事実に思い至る。
「心配してくれてありがとう、エイラさん。ちょっとボーッとしていただけよ」
「べ、べつに心配なんてしてないぞ。それより、きついなら訓練を減らしてもらったほうがいいんじゃないか」
「うふふ、坂本さんにそんなこと言おうものならメニューを倍にされちゃうわ。それに今回は訓練と関係ないのよ」
「…なにかあったんですか?」
ポットを火にかけたサーニャが会話に加わる。
集中する視線。頭の中で話の流れを組み立てた醇子は、事の経緯について語り出した。
「ふ~ん、そのせいか……廊下ですれ違ったツンツンメガネの髪が逆立ってたのは」
「他の皆も、なんだかおかしかったです」
聞き終えたエイラとサーニャは納得顔でうなづく。
ペリーヌ、ミーナ、リーネをはじめ、なぜかゲルトルートまで普段と様子が違った。
椅子に背をあずけた醇子は、眉尻を下げて天井を見上げる。
「説明を求められても国民性の違いとしか答えようがないのよね……こうして母国の外に出て思うんだけど、やっぱり扶桑って極東の島国なんだわ」
「どうしたんだよ、大尉。溜め息なんてついて?」
「なにげなくする行為にこれほど驚かれるのは、世界スケールでみた扶桑人が相当変わっているからよ。私はあまり突飛なことをしないよう気をつけているけど、坂本さんと宮藤さんはあの調子だし」
「私は……変わっていることは悪いことじゃないと思います。芳佳ちゃんも坂本少佐も竹井大尉も、扶桑の人はみんな魅力的です」
恥ずかしそうに頬を染めながら、サーニャはそう言い募る。
複数人がいる場では話だけ聞くことの多い彼女にしては珍しい。
年下の少女にこんな事を言われてはクサってもいられず、醇子はだらんとしていた上体を起こす。
「ありがとう。私もね、サーニャさんのこと、かわいくて魅力的だと思うわ」
「そ、そんなこと……」
てらいのない返しに赤面するサーニャ。
「…気をつけてるなんて嘘だろ」
半目になったエイラがぼそり。
やっぱり扶桑人は油断ならないと、監視の目を強くする。
コンロの火をとめ、シュンシュンと音を立てるポットを手に、サーニャはテーブルへ。
「お待たせしました、竹井大尉。砂糖とミルクはどうされ―――熱っ?!」
らしくないミス。
サーニャは蒸気穴にかぶせてしまった指を引く。
ガタンと椅子を蹴倒し、エイラが弾かれたように立ち上がった。
「だ、大丈夫かサーニャっ?! ヤケドしたのか? すぐ宮藤を連れてくるからっ」
「待って、エイラ! もう消灯時間をすぎているのよ。それに、一瞬だったから大したことないわ」
無事な手で空色の背中をつかみ、振り返った心配そうな瞳に微笑む。
反対側に回り込んだ醇子は、細い手首をそっとつかまえ、握りこまれていた拳をひらく。
「指が赤くなってるわね……サーニャさん、手をこっちへ」
ぴとっ。
時が―――とまる。
「…あ、あの、竹井大尉?」
「ここは人体のなかでも体温が低いのよ。熱いものを触ったときは活用するといいわ」
醇子は、まじまじと見つめてくる翠の瞳へ薀蓄をたれる。
上官の耳たぶに指を添える現状に、当のサーニャはパニック。しかし、指の上から手を重ねられているので、どうすることもできない。
「な、なにやってん―――わあっ?!」
突然上着を放されたエイラは、つんのめって床にダイブ。
さすがの未来予知でも、扶桑人のイレギュラーな行動を100%予測するのは難しいらしい。
「どう? まだ熱いなら反対側にかえましょうか?」
「は、はい……お願い、します」
近すぎる距離、見つめあう瞳と瞳、重なる手と手。
完全に思考停止したサーニャは、醇子の提案に上気した顔でうなづく。
「あーもう、なんだよ、なんだよっ! 竹井大尉だって宮藤や坂本少佐のこと言えないじゃないかあああぁーっ!」
ひとり蚊帳の外におかれたエイラは地団太。
無自覚に他人を惹きつける―――そんな扶桑の魔女たちほど、厄介なものはなかった。