no limit
MG42を構える。首をこきりと軽く鳴らした後、軽いピクニックに向かうかの如く、おぞましい弾幕に一人飛び込んでいく。
彼女を貫き砕かんとする禍々しい光線が、針の山の如く眼前に広がり、その身に迫る。
エイラの頭中には“次に取るべき”行動が瞬時に描かれ、それに合わせ自然と身体が動く。軽くフリップ、次にスライド、ロール……
身体に染み込んだ空戦機動が次々に繰り出され、シールド無しで全てのビームをかわしていく。まるでビームの方が遠慮して避けているかの様に。
周囲の地形も全てエイラの手の内に有るよう。山の頂をふわりと掠め、谷間を踊る様にすり抜ける。
不可能な未来、“自分が居ない”未来など、有り得ない。“自分が居る”未来のみを自分で知り、動き、切り開き、掴み取る。
瞬間瞬間に見えては消える膨大な“未来”の奔流を無意識に近い感覚でひとつひとつ丹念かつ、超高速で選択し、行動する。
その結果が、恐ろしいまでの回避運動。
ぴたりと核心(コア)の前に辿り着いたエイラは銃口を向け、トリガーを引いた。
間も無く、周囲に白銀の欠片が舞い降りる。
「エイラ……」
無数に散らばる破片の中、寄り添うサーニャ。
「ナ。見たダロ? 私は絶対に当たらないヨ。だから大丈夫」
MG42を肩に担ぎ、おどけてみせるエイラ。
「でも、エイラ一人で行くなんて……」
「心配ないヨ。だってサーニャが近くで見ていてくれたカラ」
「えっ、それってどう言う……」
「いや……」
二人のもとにシャーリーが近付いてきた。
「戦闘終了とは言え、油断禁物だぞ二人共。……あー、司令所へ、ネウロイの撃破を確認、これより基地に帰還する」
無線で通信を終えたシャーリーは、エイラとサーニャに笑顔で言った。
「さ、みんなで帰るぞ~」
「リョ、了解」
基地へ帰還した後、報告を手短に済ませると、エイラとサーニャはサウナでひとしきり汗を流す。
二人は近くを流れる小川に向い、足を浸け、火照りの余韻を味わう。
「ねえ、エイラ」
「ン? どうしたサーニャ」
「さっきの、続きなんだけど」
「続き? 何ノ?」
とぼけているのか素で忘れているのか判断しかねたサーニャは、エイラの手を握った。
「エイラ」
呼ばれてぎくりとする。
「忘れたの? さっき、私が『どうして一人で行ったの』って聞いたのに」
「そ、それは……サーニャが近くで見ていてくれてカラ」
「その言葉は聞いた。その次」
「次?」
「教えて。続きを」
「ウーン」
エイラは困った顔をして、言葉を選ぶ。流石に、サーニャに関する未来予知は苦手なのか。
「じゃあ。言うケド、笑うなヨ?」
こくりと頷くサーニャを前に、エイラは言葉を続けた。
「私は未来予知の魔法が使えるダロ? だから絶対にやられたりしないヨ。私には『これは大丈夫』みたいな予知って言うか、
そう言う間近の事が正確に分かるんダ。だから……」
「当たらないって、事?」
「そうそウ。間近の事なら絶対に分かル。言わば私は既に未来を掴んでいル、と言えるナ」
誇らしげに言ってから、サーニャの顔を見て照れるエイラ。
「ゴメン、ちょっト、かっこ付け過ぎタ」
「じゃあ、エイラ……」
エイラの手を自分の胸に当てる。びっくりしたエイラの身体にそっと腕を回すサーニャ。
身体が固まり掛けたエイラに、サーニャは言う。
「エイラ。貴方は未来を掴んでいるんでしょ? これからも、掴み続けるの?」
「それ、は……」
「私は? 私の未来は?」
サーニャがエイラの頬にキスをする。エイラの手はサーニャの胸の膨らみの上。声がうわずり、うまく言葉に出来ないエイラ。
「お願い、エイラ」
サーニャの潤んだ瞳を見つめ……エイラはサーニャの肩に手を触れ……じわじわと接近し、距離が縮まり、やがてひとつになる。
軽く触れる事から始まる、長く、濃いキス。
二人の未来は、二人を照らす夕日の如く手、紅く、美しく輝く。
end