スースーさせたのは誰?


映写機は光を吐き出すのを辞めた。
華やかな画面は、ただの白い布にへと戻っていく。
「どうだった?」
「どうも何も嫌な思い出しかない」
「やっぱそう?」
つい今しがたまで流れていた映像は、例の連続ズボン盗難事件ないしスースー事件の記録
フィルムである。この映像を見るために、席は二つ用意されていた。部屋は未だに暗い。
そのような中、右側の影は立ち上がる。
「私は結構楽しかったけどね」
その言葉に左の影は大きくため息をつくと「当たり前だろ」とげんなりした調子でつぶやいた。
「だいたい、事件の黒幕というか、騒動を引き起こした張本人じゃないか」
左の影は恐らく非難めいた視線をエーリカ・ハルトマンに投げ掛けた。
しかし、エーリカはそれを無視して壁の方向にへと進む。背中に当たる視線に全く気を止めない。
「でもさ、あの事件の原因って私かな」
エーリカの言葉を耳ざとく拾うと「はっ? 当たり前だろ?」影は何の迷いも無く、そうエーリカに投げ掛けた。
ただ、エーリカはその言葉に答えるわけでもなく、自分のペースで話を続ける。
「一番の原因はさぁ、私のズボンが無くなったからだよね」
「・・・まぁ、そうだな。でも、それだって自分の整理整頓が悪かったからだろ? あの
 部屋じゃズボンの一枚や二枚が無くなっても不思議じゃない」
「確かにそうだけどさぁ、やっぱり変だよ。だってさ、何で無くなるの?」
「何で無くなるか? どういう意味だ?」影はエーリカの背中に質問をぶつける。
「私のズボンは私の寝ている間に無くなったんだよ。寝ている間にズボンを脱いだんだと
 したら、ベッドの周りにあるのが普通でしょ」
「寝惚けたまま脱いで、寝惚けたままどっかに片付けたんじゃないのか? それで、朝起き
 たら、しまった場所がわからなくなった。これなら辻褄があうだろ」
エーリカの自説を半ば遮るように、影は結論めいた言葉を述べた。しかしそれは、
「いくら、寝惚けてても、私が片付けなんかしないと思うんだ」と簡単に覆され、
そのバカバカしい根拠に部屋にはまた一つため息の音が流れた。
「で、結局何が言いたいんだ?」
「私も被害者なんだと思う」
「被害者ぁ? 何の・・・あぁ、ズボンを盗られたってことか。でもさ・・・誰に?」
「それはさ・・・」壁際に来たエーリカは、電灯のスイッチをひねった。
「エイラじゃない? 私はそう思ってる」
煌々と電灯に照らされたエイラは、椅子に座ったまま振り向いたエーリカの顔を何も言わずにじっと見つめていた。


「どうして私が中尉のズボンを盗んだんだと思うんだ」
「一つは、いつまでも寝てたことだね」
エーリカは再び椅子に腰を下ろした。
「あの日、エイラだいぶ遅くまで寝てたでしょ。私のズボンを盗るのに、朝早くや夜遅く
 に行動してたら、誰かに見られるかもしんない。だから、行動を起こすとしたらみんな
 寝静まる2時や3時―」
「そんな時間まで起きてたら、寝てから起きる時間も人一倍遅いってことか」
「そゆこと」エーリカは覗き込むようにして、左にいるエイラに笑顔を向ける。
「でも、それだけで私が中尉のズボンを盗った証拠にされてもな~」
エイラは、腕を後ろに組んで椅子を揺らす。
「動機もあるよ」エイラは半ば見下す形でエーリカの瞳を見つめる。
「どんな?」
「嫉妬だね」
「嫉妬?」
「うん、私がサーニャと仲良くしているから妬いたんでしょ。それで、腹いせに私のズボ
 ンをこっそり忍び込んで持ち出した。で、事件の後にこっそり部屋に戻した。これが真相じゃない?」
「・・・真相も何も、全部中尉の憶測じゃないか。それに、もし本当に私が中尉のズボンを盗っ
 た犯人だとしたら、中尉は私をどうしたいんだ?」
「別に何もしないよ。もう前のことだし、やり返してもエイラが喜ぶだけで意味ないし」
「お、おいっ、なんで私が中尉にズボン盗られて喜ばなきゃいけないんだよ」
「だって、どうせ代わりにサーニャのズボンを盗むんでしょ」
エーリカはあっけらかんとそうつぶやく。
「す、するわけないだろ! そんなこと!」
「どうかな~」エーリカは狼狽するエイラの顔を見ながら、キシシシと笑いをもらす。
「あっ、そうだ。サーニャに言っておかないと、サーニャのズボンが無くなったら、犯人は間違いなくエイラだって」
「人の信用を落とすようなこと言うなよ!」
「ついでにエイラのズボンが無くなっても、自作自演だから同情する必要ないよって、むしろズボンを・・・」
「もういい!」エイラは頬を膨らましながら憮然として立ち上がる。
「サーニャに言っておかないと、中尉が私を貶めようとしてるって」
エイラはわざとらしくズカズカと足音を鳴らしながら、部屋を出ていった。
「ちょっと困ったな・・・サーニャにエイラの言ってることは本当か? って聞かれたらなんて答えよう・・・まぁ、なんとかなるか」
エーリカは気楽な顔のまま立ち上がり、出入口にへと近づいていく。
「サーニャはエイラのこと信用してるにエイラはサーニャのこと信用しないんだ、ぐらい
言っておいても良かったかな・・・それはちょっと意地悪過ぎるか」
そうつぶやきながら、電灯を消した。部屋は真相と共に闇に包まれた。

Fin


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