fifty-fifty


 ふと目を開けるトゥルーデ。窓の外が明るい。もうすぐ日の出か。
(そろそろ少佐は朝の訓練に出ているだろうな)
 ……と、霞が掛かった頭でぼんやり考える。
 もぞもぞ、とトゥルーデの胸を這い、肩に回る腕を感じる。同じベッドで眠るエーリカのものだ。
 普通ならここで「起きろハルトマン、朝だぞ」となるのだが、昨晩の行為の疲れが取れていないのか、
はたまたエーリカの肌が恋しいのか……何も言わず、そっと片方の腕でエーリカの身体を抱く。
 ふわふわした髪。
 ぷにぷにした肌。
 控えめな胸。
 少し小さめだが、艶っぽい唇。
 うぅん、と小さく呻き、ぎゅっとしがみついてくる。
(抱き枕にされているみたいだ……)
 無意識に抱きついてくるエーリカを優しく受けとめ、思う。
 エーリカの温もり。
 夜明け前の静けさ。
 覚めない眠気。
 トゥルーデは起こしかけた身体をもう一度ベッドに沈め、エーリカを抱いたまま、ゆっくりと目を閉じた。

「トゥルーデ、ちゃんと起こしてよね」
「すまん、つい」
 二人背中合わせの格好で、いそいそと服を着る。
「いつもなら『カールスラント軍人たるもの~』とか言ってるくせに」
「こ、こう言う日だって、有る」
 口ごもりがちなトゥルーデ。エーリカはベッドの傍らに置かれた目覚まし時計に目をやった。
「目覚ましも鳴らなかったよ。どうして?」
「私がいつも鳴る前に起きているからな」
「だから止めてたって? トゥルーデらしくないなあ」
「だ、だって! 仕方ないじゃないか! ……あ、いや」
 握り拳をもって何か訴えかけたトゥルーデだが、はっと正気に戻った素振りをみせ、制服に腕を通す。
「トゥルーデ、はっきり言いなよ」
 先に着替え終えたエーリカが、トゥルーデの肩に腕を回し、顔を近付けて来た。
 間近で聞こえ、顔をなぞる愛しのひとの吐息に負け、トゥルーデは白状した。
「お前が……抱きついてくるお前が、とっても気持ち良かったから」
「何それ。私、抱き枕?」
「それはこっちのセリフだ!」
「ふふ、でも良いよね。こうしてゆっくり睡眠を満喫出来るってさー」
「と、とりあえず、行くぞ」
 わたわたと着替えを済ませたトゥルーデ。
 エーリカは、ひとつ忘れ物だよ、と小声で言った。
 振り向いたトゥルーデのほっぺたに、軽いキス。そのまま、唇を重ねる。
 数秒の緩い口付けだったが、それでも二人の気持ちを伝え合うには十分。
「行こう、トゥルーデ」
「ああ」
 エーリカに手を引かれ、二人は部屋を出た。

「珍しいな、バルクホルンが遅れて来るなんて」
 驚きと呆れが混ざった顔を作るシャーリーを前に、トゥルーデはもそもそと朝食を食べた。そして言い訳をする。
「たまにはそう言う日も有って良いじゃないか。と、前にお前も言っていたよな?」
「それはそうだけど。……まあ、大体理由は分かるけどね」
 何か言いかけたトゥルーデに手を振り、ニヤニヤ顔のシャーリーはルッキーニを連れて食堂から出て行った。
「そんなに、ヘンか? 私が……」
「トゥルーデ、早く食べないと」
 横に座るエーリカは、早く早くとせかしながらも自分はマイペースで食事を取っている。
「このサンドイッチおいしい。リーネかな?」
「はい。喜んで貰えて、嬉しいです」
 笑顔のリーネは、サンドイッチに添えられたスープを指して言った。
「こっちのお味噌汁は芳佳ちゃんですよ」
「まあ、味噌のスープは分かるよ。ミヤフジの定番だもんね」
「あ、ちょっと塩辛かったですかハルトマンさん? ごめんなさい」
「大丈夫、ちょうど良いよ。ね、トゥルーデ?」
「問題無い」
「美味しいって言いなよトゥルーデ」
「……う、うん。まあ、美味しいぞ、二人共」
「「ありがとうございます!」」
 芳佳とリーネの声がハモる。
 ブリタニアのサンドイッチと扶桑の味噌汁。一見奇妙な組み合わせだが、そうしたものが平然と出てくるのが
この501の食卓であり、またそれを自然に食べてこそ501の隊員である。
 サンドイッチの最後の一切れを食べきると、トゥルーデは食器を片付けた。
「よし、食べ終えたぞ。宮藤にリーネ、遅れて済まなかったな。片付けが遅くなってしまって」
「大丈夫ですよ」
「お気になさらず」
 笑顔のふたり。
「トゥルーデ、ちょっと待ってよ。もう少し~」
「もうちょっと機敏にだな……」
「じゃあ、はい、あーん」
「え? え? ……あーん」
 唐突にエーリカの残りのサンドイッチを食べさせられ、口をもぐもぐさせながら困惑するトゥルーデ。
「よっし、私の分も終わり~。片付け宜しくね」
 くすくす笑う芳佳とリーネに、エーリカはにかっと笑い返し、赤面したままのトゥルーデを連れて、食堂を出た。

「任務と訓練の後の風呂は、いつ入ってもいいものだな」
 肩まで浸かり、うんうんと頷く美緒。横に居たミーナは苦笑する。
「もう、貴方ったら何かと言うとお風呂の事ばかり」
 そんな二人の脇に、すすーっと入ってくる人影が。トゥルーデとエーリカである。
「あれ、お邪魔?」
 エーリカが美緒とミーナに声を掛けるが、二人は笑って否定した。
「皆で同じ風呂で汗を流す。素敵な事じゃないか」
 美緒はそう言って笑った。
「異文化交流だな」
 トゥルーデがそう言って風呂に身を沈める。
「そうだな。この501には各国からウィッチが集まっているからな」
「……あれ、そう言えばペリーヌは?」
 エーリカが気付いて辺りを見回す。
「さっきエイラとペリーヌが一緒にサウナの方に行った様だが……何か相談事か?」
「さあ」
「あ、サーにゃんだ」
 めざとく見つけるエーリカ。風呂に隣接したサウナに入っていくサーニャを見つける。
 直後、慌てて出てくるエイラとペリーヌ。エイラは踵を返してサウナに舞い戻ったが、残されたペリーヌはブツブツ言いながら風呂場にやって来る。身体を冷ます温めの湯を浴び、浴槽にちょこんと座る。
「どうしたペリーヌ。風呂よりサウナか?」
「い、いえ、そう言う訳では」
「まあ、何はともあれ皆仲良くだな。はっはっは!」
 美緒はひとり笑った。
「わたくしは、どちらかと言えばサウナよりお風呂の方が……」
「そうか! じゃあ今度扶桑に来た時はまた温泉を手配しないとな!」
「まったく、扶桑の魔女って……」
 いつもの、ちょっと騒がしくも気楽な入浴の風景。変わらない光景。
「楽しいね、トゥルーデ」
 横でこそっと言われ、振り向くと、笑顔のエーリカの顔が間近に有った。
「ああ、気楽で良い」
「トゥルーデ、もっとのんびりしようよ~」
「あんまりお前みたいにグダグダでも、軍人らし……ひぃやぁあっ!」
 説教しかけたトゥルーデの胸を背後から鷲掴みにするエーリカ。
「お、ちょっと成長してる?」
「こっこら! やめんか!」
 逃げようと湯の中をざばざばと駆け回るトゥルーデ、背後にぴったりついたままのエーリカ。
 その場を目撃した一同は、揃って苦笑した。

「さて、今日こそ早めに寝るぞ」
「そうだね」
 夜着に着替えた二人は、部屋の明かりを消すと、揃って同じベッドに寝転がる。
 毛布をふぁさっと掛ける。
 目を閉じる。
 しかし、意識は混濁せず……密着してくるエーリカの身体、いつの間にかするりと握られている手の温もりを感じ、
むしろ覚醒し始める。
(いかん、これでは昨日と同じ事に……)
 トゥルーデはあえてエーリカに背を向けようとしたが、ぐいと肩毎引っ張られた。
 目を開けると、当然の如くエーリカの顔が間近に有る。
「エーリカ……」
「分かってるよ、トゥルーデ」
 エーリカはそう言うと、トゥルーデをゆっくりと抱きしめ、そっとキスをしてくる。
(そうじゃないんだエーリカ! そう、じゃない……ん……)
 繰り返されるキスを前に、理性がどんどん薄れ、情欲が強まる。
 もう、止まらない。止められない。
 トゥルーデは気付かぬまま、エーリカの首筋に吸い口を付け、もう一度濃いキスを交わす。
 エーリカも負けじとトゥルーデの鎖骨から胸にかけて、唇を這わせる。
 そしてお互いを味わった後、唇を重ねる。熱い吐息が絡み合う。
 とろんとした瞳で、お互いを見る。
「今夜も良い夢見れれば良いね。でも」
 エーリカは、魅惑的な、そして小悪魔の様な笑みを見せ、言葉を続けた。
「暫く寝かさないよ、トゥルーデ」
 もう一度キスして、エーリカを抱きしめたトゥルーデはふっと笑う。
「それはこっちのセリフだ、エーリカ」

end



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