double joker
芋料理だらけの食卓を囲み、テーブルに頬杖をつく大尉ふたり。
気怠そうに料理を口に運ぶ。
「そんでさあ、バルクホルン」
「何だシャーリー」
珍しく名前で呼び合う二人。
「ジェットストライカーってのはそんなに良いモノなんかね」
「当然だ。あれは素晴らしい機体だ。量産された暁には、戦局を一変出来る筈だ。
お前もその目で見ただろう。めくるめくスピード、そして圧倒的な破壊力」
「で、あんたが意識失って魔法力をカラにするまで飛んでって、あたしが音速を超えて拾い上げる、と」
「……またその話か」
シャーリーの言葉は聞き飽きたと言いたげに、肉じゃがを食べるトゥルーデ。
「まあつまり、隊の中ではレシプロなあたしが最速って解釈で良いんだよな?」
「結局はそこにこだわるんだなリベリアンは。お前こそスピードに取り憑かれてるぞ」
シャーリーは手近にあったフライドポテトをつまんで、トゥルーデを指した。
「だってあたしが拾わなかったら、あんた死んでたかも知れないんだぞ?」
「そ、それは……元々、お前が苦戦してるから、私が出向いたまでだ」
「わざわざ、禁止されてたジェットストライカーで?」
「あの時お前を助けるにはあれしか無かったと、何度言わせれば……」
シャーリーはその言葉を聞くと、にやりと笑った。
「あたしを助ける、ねえ。堅物からそんな言葉が出てくるとはね。悪い気はしないね」
「お前……」
「勿論感謝はしてるさ。ジェットストライカーが壊れたのは残念だけど、結果オーライってね。
でも、あたしも履いてみたかったなあ……」
「本国に持って帰ったからな。もう無いぞ」
「バルクホルン、そこを何とか頼めないか?」
「開発途中のモノを他国のウィッチに使わせるなどとんでもない! 仮にまた危険な事故でも起きたらどうする」
「事故って、……あんたの時みたいにウィッチの魔法力を吸い尽くすとか」
「それも有る。他にも機体の爆発とかだな……、それこそ我がカールスラントのこ……」
「ま、要するにあたしを心配してくれてるって解釈で良いんだよな?」
ニヤニヤするシャーリー。うんざりした表情のトゥルーデ。
「何が言いたいんだ、リベリアンは」
「そういう事」
「どう言う事だ」
「まあ、あの時ルッキーニがあたしを止めてなかったら、どうなってたんだろうって考えた事は有るね」
「……ふむ」
「そうしたら、隊で一番速いあたしが更に速くなったら、もう誰も止められない訳だろ?」
「理論的にはそうだな」
「だから結果としてはあれで良かったと思う事にしてるんだ。……まだ、レシプロでやり残した事も有るしな」
シャーリーは寂しそうに呟くと、ポテトサラダを一口食べる。
「なんだその顔は。お前の言う通り、ルッキーニが異変を感じてお前を引き留めたからこう言う結果になった。
ルッキーニをもう少し評価してやっても良いんじゃないか?」
「堅物らしくないね、その言い方」
ぼんやりとフォークをくわえて上を見るシャーリー。
「ともかく、私は体力を一刻も早く回復せねばな」
サクっと揚がったコロッケを食べるトゥルーデ。
しばしの沈黙。
だがシャーリーはポテトシチューを一口飲むと、スプーンを持ったままトゥルーデに言った。
「でも、あの日の後、夜な夜なハルトマンといちゃついてるって話聞いたぞ」
「そっそれは」
「そんなコトしてて、体力戻るのかね?」
「きっ貴様、いやらしい顔をしおって! 私は何も……」
「はいはーい、そこまでー」
「まーたケンカ?」
エーリカとルッキーニがやって来た。二人が食べかけた料理をさっと横取りし、揃って口に運ぶ。
「ケンカじゃないよ、議論だ議論」
あっけらかんと答えるシャーリーに、トゥルーデはフォークを握りしめ唸った。
「ああ言えばこう言う……」
「もう良いじゃんトゥルーデ。さ、ちゃんと食べないとね」
エーリカはトゥルーデのフォークを持つと、コロッケを一切れ、トゥルーデの目の前に差し出した。
「な、なんだ」
「はい、あーん」
「おい、わざわざ目の前で……うん、まあ、うまい」
否応なく食べさせられ、赤面するトゥルーデ。
「流石ここまで来ると何も言えないねえ、ルッキーニ」
シャーリーの膝の上に飛び乗ったルッキーニは、シャーリーの方を向いて笑った。
「ねえねえ、あたしにもあーんして、シャーリー」
「はい、あーん」
「あーん……うん、おいしい! これ誰作ったの? リーネ? 芳佳?」
「二人だ。わざわざ作ってくれたんだ」
「まあ、あんだけ芋があればね」
エーリカもフライドポテトを頬張って、笑顔で答えた。
「色々な芋料理が堪能出来るのは、良い事だよな」
頷くシャーリー。
「じゃあ、そろそろこれ連れて帰るから」
エーリカは有無を言わせずトゥルーデを引っ張ると、食堂を出、ずるずると部屋につれて戻った。
「ちゃんと元気にするんだぞー」
シャーリーの声に、何か言っているトゥルーデ、手を振り笑うエーリカ。やがて姿は見えなくなった。
ルッキーニはシャーリーの顔を見上げた。
「ねえ、シャーリー」
「どうした、ルッキーニ?」
「あたし思うんだ。そのうち、もっとすごーいストライカーが出てくるんじゃないかって。だからシャーリーもね」
「分かってるって。カールスラントのアレだけがジェットストライカーって訳じゃないだろうし……
まあ、そのうちリベリオンで作るとしても、その時あたしが現役で居られるかどうかは分からないけどね」
「シャーリー……」
「大丈夫だって。今回の一番のお手柄はルッキーニ、お前だぞ?」
「ほえ? なんであたし?」
ふっと、シャーリーは笑った。
「分かって無くて、いいのさ」
シャーリーはルッキーニをきゅっと抱きしめた。
ルッキーニは訳が分からない顔をしていたが、シャーリーの温かさを感じ、弾ける笑顔を見せた。
end