lily-white
賑やかなふたりの誕生パーティーが終わり、隊員達はそれぞれの部屋へと戻った。
主役のひとりの芳佳は、リーネと一緒にいそいそと(会場となった)食堂から退室した。
もう一人の主役、サーニャはと言うと……エイラが居なくなっている事に気付く。
さっきまで居た筈なのに、姿が無い。
辺りを探し、他の隊員にも聞いてみたが、はっきりした答えは無かった。
一人サウナに入り、汗を出し切ったところで、近くの川で水浴びをする。
川面にふわふわと浮いているサーニャ。
すると、不意に手を掴まれた。
びっくりして川面から立ち上がる。
エイラだった。
「ゴメンナ、サーニャ。遅くなった」
サーニャは突然居なくなった事、また再びいきなり現れた事に少し腹を立てた。
「何処行ってたの、エイラ」
「よ、用意してたンダ。これ……」
エイラが差し出したもの。
よれよれの包装紙にくるまれた、花束。
恐らくは、余りこう言う事は器用でないエイラが、頑張ってチャレンジしたと思しき跡が見られる。
包まれていたのは、そこら辺の野原に生えていそうな、名も無き可憐な赤い花、小さく可愛いブルーの花……、
そしてこれだけは何処かで買ってきた様な、立派な白いユリ。
「サーニャ、今日誕生日ダロ? だからせめて花をって思っテ」
「それで、居なかったの?」
「ごゴメン。花は、イヤだったカ?」
「エイラ」
サーニャはエイラの手を見た。月明かりで微かにしか見えないが、それでも、エイラの奮闘の跡が
指のあちこちに付いた小さな傷から見て取れた。
「ホントは、パーティーの最後に渡すつもりだったンダ。でも……」
「でも?」
「自分で包むのも全部やるって頑張ってたら、時間が……ゴメンナ」
「エイラの、ばか」
言葉とは裏腹に、そっとエイラの手を握るサーニャ。
「気持ちだけでも、嬉しい。ねえ、飾ろう? 二人で」
「アア」
サーニャはエイラの手を引き、川面を離れた。
改めて、部屋に花を生ける。
「エイラ、このお花、何処で?」
「ち、近くの街で買ってきたモノも有るケド、大体はこの近くにある花を見つけて……その」
「エイラったら」
窓から差し込む月明かりが、生けた花を幻想的に、白く浮かび立たせる。
「この、ユリの花ダケド」
「うん。素敵」
「この色のユリ、この辺りじゃ今の時期滅多に咲いてないらしくて……探し回っタ」
「何してるの、エイラ」
サーニャは笑った。
「だっテ、サーニャに喜んで貰いたくテ……」
「みんなにお祝いして貰っただけでも、私は嬉しい。エイラにも」
「う、ウン」
「そして何よりも、エイラがそれだけ私の事を想ってくれているって……」
そっとエイラの手を取る。傷だらけの手を、頬に当てる。
「でも、こんなに傷付かなくても、良いのに。私達で、分かち合っても良かったのに」
そう呟いたサーニャの瞳から、涙が一筋零れた。
「サーニャ……、ゴメンナ。私……」
「私の一番大事なエイラだから、傷付いて欲しくない」
「ゴメン、サーニャ。また、私のせいでサーニャが泣い……」
「これは、嬉し涙」
サーニャは気丈に笑ってみせた。その表情に耐えきれず、エイラはサーニャをぎゅっと抱きしめた。
サーニャも、そっとエイラの腰に腕を回す。
「エイラ、ありがとう」
「サーニャ、ゴメンナ。そして、改めて、誕生日おめでとナ」
「ありがとう……」
ねえ、とサーニャはエイラの服の裾を引っ張った。エイラはぎこちなく、サーニャにキスをした。
もう一度、今度はサーニャからエイラに、濃いキスをお返し。
二人お揃いのパーカーを着、肩を寄せ合い、月明かりに映える花を愛でる。
「綺麗」
「アァ」
「見て、エイラ。白いユリが、月明かりでもっと白く見える」
「不思議ダナ」
「ねえ、明日、二人で花を探しに行かない?」
「エ? 少なかっタ?」
「二人で、色々、しよう?」
その意味をようやく察したエイラは、顔を真っ赤にして、こくりと頷いた。
純なエイラの姿を見たサーニャは、エイラの頬に手を伸ばし、そっとキスをする。
月は柔らかな輝きを増し、花と、二人を淡く照らす。二人の気持ちを高める、不思議な光り。
もう一度、ふたりは口吻を交わした。見ているのは月と花だけ。
end