Dolls


「おい、リーネ」
「は、はい! 何ですか?」
「……なんでお前は、私が声をかけたらおっぱいを防御するんだ?」
「ごめんなさい、エイラさんの声を聞いたら腕が勝手に……」
私は餌に飢えてる猛獣かよ。
まぁ、リーネのおっぱいを触りたくないって言えば嘘になるけど……って、今日は
そんなことをお願いするために声をかけたわけじゃないんだな。
「あのさ、今時間あるか? ちょっと用があるんだけど」
「へ!? ま、まさかわ、私の胸を……」
「だから違うって。大事な話をしたいんだな」
「大事な話……ですか?」
「ああ。ここじゃまずいから……そうだな、ハルトマン達の部屋で話をしよう」
この時間ならハルトマンはまだ寝てるだろうし、バルクホルン大尉はさっき坂本少佐と訓練に
出かけたからな。
内緒話をするなら絶好の場所というわけだ。

「邪魔するぞー」
「お邪魔しまーす……」
「んー、むにゃむにゃ……」
私たちがハルトマン達の部屋を訪れると、
案の定、そこには寝息を立ててぐっすりと眠っているハルトマンの姿があった。
……よくこんな汚い部屋で寝れるな、こいつ。
「それで、話って何ですか?」
リーネがハルトマンを起こさないように小声で私に尋ねてくる。
「その、だな……もうすぐサーニャと宮藤の誕生日だろ? それでさ、リーネはもう宮藤への
誕生日プレゼントとか決めてんのかなーって思ってさ」
そう、今日は8月11日。
サーニャと宮藤の誕生日まであと1週間だというのに、
私はサーニャへの誕生日プレゼントをまだ決めていなかった。
そこで、リーネが宮藤に何をプレゼントするのか参考程度に聞こうと思ったんだけど……
「えっとですね、実はまだ決めてないんです」
「え? リーネも宮藤へのプレゼント、決めてないのか?」
「はい、芳佳ちゃんが何を欲しいのか分からなくて……」
「宮藤本人には聞いてないのか?」
「えっと、聞こうと思ったんですけど、いつも聞くタイミング逃しちゃって……」
おいおい、しっかりしろよな……って、私が言えたクチじゃないか。
「う~ん、サーニャに何をプレゼントしたらいいんだろう?」

私たちがしばらく悩んでいると、いつの間にか目を覚ましたハルトマンが不意に一言。
「ねぇ、手作りの人形をプレゼントするってのはどう?」
「へ? 人形?」
「うん。ほら、宮藤もサーニャもそういうの結構好きじゃん」
確かに、サーニャはぬいぐるみとか人形といった類のものが大好きだ。
そう言えば宮藤も穴拭智子中尉の扶桑人形を気に入ってたっけ。
「でも、何で手作りなんだ? 人形ならお店で買えばいいんじゃないか?」
「分かってないなぁ、エイラは。大切な人に、心を込めて作ったものをプレゼントすることに
意味があるんだよ」
「なるほど、確かにそれは言えてるかもな。でも、私ほとんど編み物なんてやったことないから、
上手く作れる自信がないぞ」
「それなら大丈夫。ね、リーネ?」
「はい! エイラさん、私も手伝いますから一緒に頑張りましょう!」
リーネが私の手をとって、微笑みかけてくる。
おお、なんだか頼もしいな。
「よし、一丁やってみるか」
こうしてサーニャへの誕生日プレゼントは手作りの人形に決まった。
サーニャ、私頑張るからな。

――それから3日後……

「おっ、リーネの作ってるのはワンちゃんだね。可愛い~」
「はい、芳佳ちゃんの使い魔の豆柴です」
ハルトマンとバルクホルン大尉が、私たちの編み物を興味津々に覗きこんできた。
(サーニャと宮藤に見つからないように、私たちはハルトマン達の部屋を借りて、
人形を編んでいた。)
「エイラの編んでいるのは何だ? クラゲか?」
「いや~トゥルーデ、イカじゃないかなこれは」
私の制作途中の人形を見ながらニヤつくハルトマン達。
……お前ら、好き勝手言いやがって。
「これはサウナの妖精なんだぞ、馬鹿にすんな~!」
「「サウナの妖精?」」
「ああ。私が小さい頃にサウナで見たんだ。私たちがサウナで温まれるのも
このサウナの妖精がいるからなんだぞ」
「へぇ~」
「あ、その目は信じてないな? いいか? サウナの妖精は本当にいるんだからな」
私は詰め寄りながらハルトマン達を睨みつける。
って、何をムキになってるんだ私は。
サーニャとサウナの妖精のことになると、熱くなっちゃうのは私の悪い癖だな。
「……えっと、その、ごめん。ついムキになっちゃって」
「いや、私たちもからかったりして悪かった。エーリカ、シャワーでも浴びに行かないか?」
「うん、そうだね。2人の邪魔しちゃ悪いし……じゃ、エイラ、リーネ、編み物頑張ってね」
そう言ってハルトマンとバルクホルン大尉は、部屋を後にした。
元々ここはハルトマン達の部屋なのに、なんだか申し訳ないな。

「なぁ、リーネ」
「なんですか?」
「サーニャ、この人形気に入ってくれるかな」
「大丈夫ですよ。エイラさんがサーニャさんのことを想って作った人形なら、
絶対サーニャさんも喜んでくれますよ」
「……リーネのおかげで自信が持てたよ、あんがとな」
さ、もう一息だ。
サーニャの笑顔のために頑張るぞ、私。

――そして、サーニャと宮藤の誕生日当日

「サーニャ!」
「芳佳ちゃん!」
2人の誕生日パーティーが終わり、他の隊員たちが各々の時間を過ごしている頃、
私とリーネは、談笑をしているサーニャと宮藤にそれぞれ声をかける。
「なに、エイラ?」
「どうしたの、リーネちゃん?」
「「誕生日おめでとう!」」
私たちは、作った人形を差し出しながら改めて2人に祝福の言葉を贈った。
プレゼントを渡す瞬間ってすごい緊張するな……
「リーネちゃん、この子って……」
「うん、芳佳ちゃんの使い魔の豆柴だよ」
「この妖精さん、エイラが作ったの?」
「ああ。ところどころリーネに教わりながらだけどな」
「嬉しいわ、ありがとうエイラ」
「この人形、とっても可愛いよ。ありがとう、リーネちゃん!」
そう言ってサーニャも宮藤も微笑んでくれた。
良かった、2人とも喜んでくれて。
私とリーネは顔を見合わせて笑った。
――その直後、宮藤はリーネの唇に、サーニャは私の唇に自分の唇を重ねてきた。
こ、これってつまり……キ、キス!?
「よ、芳佳ちゃん!?」
「サ、サササーニャ!?」
「えへへ、プレゼントのお返しだよ。ね、サーニャちゃん」
「うん。エイラもリーネさんも本当にありがとう」
――そう言って微笑んだサーニャの顔は、今までに見たどんなものよりも綺麗だった。

―――――――――

「わ~お、2人とも中々やるね~」
「み、宮藤もサーニャも少し大胆すぎじゃないか?」
「私も2人を見習って今日は大胆になってみようかな。
久しぶりに部屋で2人っきりになれるしね」
「エーリカ、それはどういう意味だ?」
「またまた分かってるくせに~。さ、行こっトゥルーデ」
「こ、こら! 手を引っ張るな~」

~Fin~


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