envy


マルセイユは思案した。
臓腑の底がぐつぐつとするほどにはあの両名に嫉妬にも似た感情を抱いている事実を理解してしまったから。
マルセイユは企図した。
思案して、計画して、そして実行したとしてもなにも残らないことを了承しながら。わからないほど子供じゃない。ちゃんと解っていた。
それでもよかった。
そうおもった。けれど。


 envy


受け入れがたい事象というものは往々にしてすんなりと己の中には浸透してくれないもので、マルセイユはやはり素直に享受できそうにはなかったのである。
何がといって、自身がいままで勝ち負けほどに固執していると理解していたものが黒の悪魔と呼ばれる祖国の小さな英雄だけでなく、かつて属していた隊のいけ好かない上司その人であるという事実だった。
信じられない。そんな面持ちで鏡をみる。心情そのまんまをぶらさげた私がそこにいた。なんて顔をしている、お前はもっと気高くて、自信に満ち充ちているはずだろう。
信じられるか。思って、掬ったみずを皮膚に、叩きつけた。




そりが合わないと思っていた、心底。
かつて衣食住をともにしながらも、なるたけ関わりたくはない人種であると。
そう意識していたし事実何かあれば一番に衝突を繰り返した。
軍規だの規律だの、堅っ苦しくて窮屈で、一生好きになんぞなれるわけもない。そんなものが大好きなかの人とも。
まっさきに把握しながら実は意識していましただなんて、気持ち悪い。うそだろう。

「…どういうつもりだ、マルセイユ」

アァ、うそだといってよ心臓。
忌々しそうに睨みつけられてそれでも加速する躍動に絶望。
うそじゃないなんてそんな冗談。

「…さァ、」

私にもさっぱり、嘯いて噛みついた。




果たしてバルクホルンがマルセイユを嫌っていたかというとそうでもない。
規律だ、軍規だ、そういうものを掲げれば反発をされた。
周りと衝突を繰り返しては叱り、叱られれば反抗をされた。
誰彼構わず当たり散らしていた危うさをただ、世話の焼けるこどもぐらいにしか思っていなかったのだ。エーリカのように。

「んぅッ」

そのエーリカと、いわゆるからだの関係をもつようになったのはいつだったかを考えて、思考はすぐにかき消えた。悪魔と呼ばれているのがうそみたいな笑顔で好きだよ、と口にしてくれる喜びも。
自身が快楽に流されやすいたちなのをバルクホルンは理解していない。
理解していないけれど、ろくに愛撫されてもいないのに濡れそぼった下肢に羞恥した。だって、相手はあのマルセイユだというのに。

「…よく慣らされてんだね」

鼓膜を揺らす少しだけ上擦ったアルトをきいた。
他人の不可侵である孔に指をいっぽんくわえたまま。

「あっ…、……っふ、ぅ、」

手の甲を噛んで堪える嬌声をマルセイユは気に入らない。なけばいいんだ、わたしで。わたしの指で。
お互い立ったまま、壁際に追い詰められてバルクホルンは犯されていた。そうして自身の中で暴れる指はいつもより断然深く、長いから、気持ちよくないといえばうそになる。だから漏れそうな声は聞かせてやらない。
マルセイユは突きいれたままの中指をくっと曲げてへその裏のあたりをさすった。ちいさい。子宮口のくぼみを思いっきり突き上げてやる。おおきい。
艶めかしい、その声が。
にやり、わらってささやく。

「…ねぇもしかしてさ、ちょっと乱暴にされるほうがすき?」
「な…っ!そん、なことあるわけっ…ぁあ!」

空いてる左手で胸の突起を強くつまんでやればひときわたかくあがる声。
うそつき、耳元で囁いて鎖骨に噛みついた。
喘ぎ、喘ぎ、どうしてこんなこと、問う元上官に持ち合わせた答えはひとつだけ。

「私さ、あんたにも固執してるみたいだ」

言ってしまうのは楽だった。
認めてしまうのはくるしい。
だってわたしはエーリカにも固執している。
そうして仲のいい2人をみているのがどうしようもなくいやだった。
何をしたって引き裂けるだなんて思っていないのにこんなことをしてしまうのは。ねぇ。なんでかな。

「っぁ……んぁ!っあ…!」

断続的に発せられる、普段叱責しかきけない声が悦びに震えるのをうれしくおもうのに、わたしはひどく虚しくなった。




そろそろかな。
がちゃがちゃと、乱暴に指をかき回す。あがる、声。
すこしいたいくらいがイイなんてさ、とんだいんらんだ
真正面から目を捉えて、いつもより低い声で呟く。泣きそうな顔を彼女がしていたから、わたしは思わず目線を逸らしたけれど、負けたわけじゃない。
背骨を曲げて、胸の突起には噛みついてやった。途端なかがきゅうと締めつけるから、絶頂を迎えたことを知る。
胸から顔をあげたてみたらもう、余計なものはなくて彼女しかみえなかったのに、バルクホルンがイく時に呼んだ名前はわたしじゃなくて彼女の愛しい愛しい黒の悪魔。
なんにもならない、なにも残らない。
わかってたよ。わかってたのに。
ああ脊髄が、びりびりした。


わけのわからない熱情を、抱えたまま劣情。
その姿はうつくしいから残酷で、
名前をよんでほしいとただ、願うよ。
fin.


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