ロマーニャ1945 ふたりのきそく・続き


 ぴしゃっ。

「んっ……」

 抜けの悪い乾いた音が、閉じられた部屋の中に響く。
 それは肉が肉を打つ音。
 出来の悪いわたしをしつけなおそうとする天使/悪魔が、自らの手で私の尻肉を打つ音。

「音がいまいちかな?

 パシーン。

 次は快音。

「っ!!!!」

 溢れそうになる甘い声を堪える。

「やっぱり手首のスナップだ。イイ音が聞きたかったら手を抜いちゃいけないよね。ところでトゥルーデ? さっきからイイ声が聞こえないよ」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「遠慮しないでいいんだよ。痛かったらちゃんと『痛い』って主張してくれれば色々考えてあげるから」

 ご主人様はわかってる。わかってそう言っている。声の弾み方が違うからわかる。
 私は今、四つん這いでベッドの上にいる。
 ご主人様の枕を抱いて、そこに顔を押し付けるようにしてお尻を高く突き出している。
 声を出さないのは……出ないようにご主人様の匂いのする枕で口を塞いでいるのは、それはただひたすらに羞恥心が邪魔をしているからだ。
 今本能のままに叫んだら、甘い声を上げてしまう。
 悦楽に流されるまま、歓喜の声を上げてしまう。
 尻を叩かれて痛みを与えられているにも関わらず、だ。
 小さいながらも一度絶頂を与えられたせいか、その余韻の後に理性が帰ってきていた。
 いや、理性を呼び戻されていた。
 天使/悪魔は狡猾だ。
 口では急かしながら、動作はゆっくりとベッドに私を誘導し、姿勢にあれこれ注文をつけながら暫く視線だけで私を撫で回す。
 そうして稼がれた時間が私に考える余裕を与え、正常な思考は理性と羞恥の心を呼び覚まさせる。
 冷静さを取り戻しつつあり、しかしまだ冷静になりきれない。そんな絶妙なタイミングを見計らって再び営みが再開された。
 与えられたのは痛みだった。
 犬のような四つん這いの姿勢で掲げられた尻に、ご主人様が平手打ちを見舞う。

 パシーン……パシーン…パシーン……。

 再び快音が響く。今度は連続で。
 わたしはまた声を堪える。
 おしりが熱くて、叩かれて痛いのに……痛いのが気持ちいい。痛いのが凄く……イイ。
 ご主人様は叩き続ける。
 右と左の尻たぶを順番に、リズミカルに。
 下半身が熱を持って疼きが止まらなくなる。

 今すぐ両手で股間を掻き毟りたかった。
 でも、いまこの枕を手放したら更なる折檻を求める叫びを上げてしまうだろう。
 お尻が熱い、股間が熱い、お腹の奥が熱い、女性自身が熱い。
 胎内から湧き出してくる熱が止まらない、収まらない、耐えられる気がしない。
 このままだと叩かれるだけでイかされてしまいそうだった。
 だから……このまま、もっと気持ちよく……。
 流されるがままの心。そこに場違いでいて余りにも今のわたしに対して相応しい理性という名の罠が頭をもたげる。

「規則は守らなくていいのか?」と。

 ハッとなって思わず枕から顔を浮かせてしまった所に平手の一発が入った。

 パシーン。

「はあぁぁん!」

 声を出してしまった。本能のままの悦びの声。
 同時に思い出す。喘ぎ声と共に自分をさらけ出すことによって快感が加速するという事を。
 一度声を出し始めたらもう押し止める事は出来なかった。
 枕を微妙に抱き直して胸に当て、ベッドに額を押しこむようにして喘ぎ、よがり、叫ぶ。

「ああっ! はあっ! ひゃあっ! ひうんっ! んはぁっ!」

 こんなにはしたない姿でご主人様のくれる衝撃に翻弄されているというのに……いや、翻弄されているからこそなのか、背と腹に力を入れ、太股を突っ張ってお尻を高く掲げる姿勢だけは崩さない。崩せない。

「あはっ」

 ご主人様が歓喜の笑みを浮かべる気配。それだけで全身に多幸感が広がり、せすじが快感でゾクゾクし、服従しているという喜びが止まらなくなる。
 何度叩かれただろうか? もうわからない。
 真っ赤に腫れ上がっているであろうお尻は痛みを越え、ただただ熱いとしか認識できなくなって、「二人の規則」ですらもう幾らも自分を縛れそうに無い。
 限界が近かった。絶頂はすぐそばまで来ていて、むしろ今か今かと全身が渇望していた。
 でも、とどめは来なかった。

「やーめた」
「ぇえっ!? そ、そんな……」

 思わず振り返ってしまう。
 左から首を回した先、首輪から繋がった鎖を左手に握ったままのご主人様の姿。
 膝立ちでさっきまでわたしのお尻に悦楽を刻み込んでいた右手を目の前に掲げ軽く息を吹きかけている。

「ふーっ、ふーっ……ん?」 

 わたしの視線に気付いたのか、ご主人様がこちらを見た。
 そして呆れたような表情を作って口を開く。

「あのさー、わたしはトゥルーデのためを思って一生懸命お仕置きしてたんだよ。トゥルーデだって自分で決めた規則を守れないんじゃ気分悪いでしょ」
「そ、それは……」

「それがなにさ、また一人で勝手に気持ちよくなっちゃって規則を破ろうとする。いい、トゥルーデ? お仕置きする方も楽じゃないんだよ。ほら見てよ、こんなに手が真っ赤になっちゃった」

 そう言うと手のひらをこちらに見せつけてくる。
 照明からは丁度逆光になるので少しわかりにくいと思っていたら早々にその手は下げられ、膝立ちのままお尻の後ろの方へと回りこんでくる。
 首を大きく巡らせて、御主人様の姿を追う。

「そんなに不安そうにしなくていいいよ。単に私がどれだけ頑張ったか教えてあげるだけだから」

 御主人様は左手をくるくると回すように振り、鎖を手首に巻きつけてその手を自由にすると私の膝を挟むようにしてベッドに両膝を付き、ゆっくりと覆いかぶさってくる。
 熱を持ったお尻に少し汗ばんだ御主人様の肌が触れ、収まりかけた熱い感覚が痛痒感と共に蘇る。
 更に体を折って背中全体へと密着。
 左右の肩甲骨間より少し上のあたりに額をコツンと当てる感覚。
 体重が背の全てに預けられたのがわかる。
 そして一呼吸あってから枕を抱いていた胸へと手が侵入し、左右の手が左右の乳房をギュッと、強めに握りしめた。

「ああっ」

 突然の刺激に悶えるけれど、無意識にそれ以上の感覚を求める私の体はご主人様の手が動かしやすいように腕に力を込め、上半身をベッドから浮かそうとする。

「わかる?」

 はじめの一瞬だけかなり力を込められたけれど、その後は優しく乳房を愛撫してくる。そして「わかる?」と言われたその質問の答に気づく。
 左手は普段と変わらないけれど、右手は熱を持っている。

「ご主人様、右手が熱い……」
「当たり前じゃない。何回トゥルーデのお尻を叩いたと思ってるのさ。叩く方だって痛いんだよ。それなのにトゥルーデったら尻叩きがお仕置きになってない事を教えてくれないんだもん。ひどいよ」

 語気を強め、同時に乳房をいじる手の力も徐々に強めてくる。

「はぁん、ごしゅじんさまぁ」

 昂っていた身体は容易に再点火され、すぐに喘ぎ声が漏れてしまう。

「もー、言ってるそばからこれじゃだめじゃない。なんで一人でよくなっちゃうかなぁ。もうお仕置き中断」
「ひんっ!」

 最後に軽く乳首をつねるようにすると一旦体を持ち上げ、引き戻してわたしの身体の後ろに座り込み、おしりを真後ろから覗き込むようにする。
 一番恥ずかしいところを見られてる、凝視されている、視姦されている……。
 浅い呼吸ですらかかる距離。
 そんな空気の流れすら愛撫として受け取れてしまう敏感で浅ましい身体が恨めしい。

「トゥルーデ、うれしいからってあんまりしっぽをパタパタされると観察に集中できないよ」
「えっ!?」
「さっき叩いてる時からしっぽ振りまくりな上にさ、横から見ててもわかるくらいにおまんこぐっしょりだったから悦んでるのかなー?とは思ってたんだけど、トゥルーデはお仕置きにかこつけて気持よくしてもらおうなんて卑怯なことはしないって信じてたんだよ」
「そ……んな……」


 はじめから全部気づかれていた……隠しているつもりが全然隠せていなかった。
 一から十まで隙だらけで、全てご主人様にさらけ出していたんだ。
 でも、変態のわたしはそこで絶望感よりも先に興奮が先立ち、行為の続きを望んでしまう。
 そして、風のように自由なご主人様はわたしの思考などお構いなしにただ的確に残酷にわたしを追い詰め、昂ぶらせていく。
 わたしの意志が介在する余地はない。
 今回もそうだ。

「ちゅ」

 唐突に信じられない場所へと触れる感触がきた。
 音といい、触れるものの感触といい、それは明らかにくちづけ。
 天使/悪魔のキスを受けたのはわたしの……お尻の穴だった。

「そ、そこは汚いっ! やめっ……くっ」

 抗議の声を上げかけたわたしの首輪が強い力で後ろに引かれた。
 逆らう事はは許さないとの意思表示と同時に無防備に突き出されたそこに執拗に舌を走らせる。
 時には尾てい骨まで上り、時には戸渡りまで下って女性器の粘膜に触れ、本来ならば口などで触れるべきでない禁忌の場所を弄ぶ。
 両手は赤く熱を持ったままの双丘に添えられて舌の動きを助けるかの様に揉み込まれる。
 その手に力が込められる度に腫れ上がったお尻は少し強い痛みと僅かな痒み、そして色々なものがないまぜとなった快感を産み出していく。
 わたしは様々な刺激に翻弄される悦びに苛まれ、再び絶頂近くへと押し上げられるけれど、一度目の不意打ちの時と違ってその頂きまで上り詰めることが出来ない。
 ご主人様がわたしを支配し、制御するからだ。

「ぷは……」

 ご主人様が口を離す。たっぷりと練りこまれたヨダレがお尻の窄まりからご主人様の口へと糸を引き、重力に引かれるがままに尻肉へと落ちるのを感じた。
 あっという間に熱を失った粘液のひやりとした感触が少しだけ心地良い。

「ねぇ、トゥルーデ、もしかしてさっき『汚い』って言おうとしてた?」
「はぁ……はぁ……はぁ……え?」

 快楽で興奮してすっかり湯だった頭が疑問詞に疑問詞を返し、振り返る。

「わたしにとってトゥルーデの身体に汚いところなんて無いよ。その上此処に来るって時にトゥルーデが身体を綺麗にして無いはず無いじゃない」

 確かにその通りでいつだって清潔にしていたし、ご主人様が本気でわたしの身体のどこにだって嫌悪感を抱くはずがないということは分かっていたはずだ。
 なのに、羞恥と常識に囚われたわたしはご主人様の行為を拒否しようとしてしまった。
 それは淫らな姿を晒すことよりも恥ずべき行為だと、今ならそう思える。

「ごしゅじん、さま……んっ」

 謝罪の心を伝えようと視線を向けようとしたところで、ご主人様の唾液で濡れそぼったお尻の穴を指でつつかれる。

「それなのにさぁ、汚いなんて嘘ついてわたしに触れさせないようにするのはどういう事かな?」

 少し笑ったような、わざとらしいイジワルな声でゆっくりと柔らかく言葉による責め。
 同時にお尻へと触れたままの指も指の腹でゆるゆるともみ込むようにしながら刺激してくる。

 一番触って欲しい、一番気持ちいところにその指は届かないのに自分で思っても見なかったところが気持ちよくなっていく。

「えっ、ち、違……そんな、つもりじゃ……」

 弁解などは、無駄なのだ。
 初めから全てわたしの反応を見越した上で、ご主人様が自らの作り出す官能の嵐の中で翻弄される私を見て愉しんでいる。
 右手でわたしのお尻を開発しながら膝と左手でベッド上を動き、わたしの左横に並ぶ。
 左手には鎖。
 ずっと繋がれているのだということを改めて自覚するわたしの耳元でご主人様が囁く。

「じゃあさ、こんなに頑張ってトゥルーデのために色んなコトをしてるわたしに誠意を見せてよ、ね」
「え? ど、どうすれば……?」
「舐めて」

 そのまま左横に転がって仰向けになり、寝転がった流し目をこちらにむけて口を開く。

「今度は私を気持よくしてよ。トゥルーデってば、がっついて何されても気持ちよくなっちゃうからわたしの方はまだ全然足りないんだ」

 ゴクリと生唾を飲み、四つん這いの姿勢のまま移動してご主人様に覆いかぶさるような位置関係へ。
 私は犬だ。
 主人に媚びる為に舌で奉仕するという行為に悦びを覚え、しっぽを振る犬だ。
 見下ろすご主人様は興奮で白い肌をうっすらと赤く染め、熱い視線で私を見つめ返してくる。
 位置関係が変わっても二人の立場は変わらず、わたしは視線による無言の『待て』によって縛られ、動けない。
 切ない吐息と拭うことを許されない涎だけが口元から溢れ、やがて糸を引いてご主人様へと垂れ落ちる。

「上からも下からも涎を垂らしてる……。ねぇ、早く私も今のトゥルーデみたいに興奮させてよ。犬みたいに浅ましくさせてよ、ねぇ……早く」

 身体の下で天使/悪魔が無邪気でいて妖艶な声を上げる。
 それは『待て』を解除する合図だ。
 大好きなご主人様の事をわたしの舌で蹂躙してもいいという合図。
 軽く汗ばんだその身体の、一番いい匂いのする大好きな首筋へと鼻先を擦りつけ、舌を這わせる。
 ご主人様のくすぐったそうでいて心地良さそうな声が聴覚を刺激し、胎内の熱が潤いとなって滲み出していくのが自覚できる。

「ほら、ねぇ、もっと……他の全身を、はぁあっ……ペロペロして……んっ……そしたら……んんっ、ふたりで……きそく、はぁっ……まもろっ」

 どんなに自分の粘液を刷り込み、汗に濡れた肌を擦りつけても、ご主人様の香りはわたしの匂いに掻き消されず、絶えず鼻腔を刺激し続ける。
 甘く脳髄を蕩けさせる天使/悪魔の体臭を楽しみたくて首筋から脇へ、脇から肘、肘から指の先へと、じっくりと時間をかけて丹念に舐め進めていく。
 時折くすぐったさに身をゆすりながらも概ねわたしに身を任せ続けるご主人様の輪郭を舌でなぞり続ける。
 右の腕が終わったあとは左へ。
 左の手首にはわたしへと繋がる鎖。
 そして指先は右手とは違う味がした。
 指先まで終わったあとはもう一度大好きな首筋へと移動してから、浅いなだらかな曲線を形作るその胸の双丘の谷間にナメクジの貼ったような跡を残し、肋骨のラインへと辿りつく。
 焦らされて昂りたいというご主人様の意志を尊重し、むしゃぶりつきたいという欲求を抑えこんで乳首への侵攻は後回し。
 お腹を舐めまわした後は可愛らしいヘソの窪み。
 少ししつこい動きでその浅く小さな孔の周囲をなぞり、舌を尖らせてネジ込み、ご主人様の喘ぎを引き出す。

「ん……んんっ……あぁっ」


 思い通りの声が聞けて小さな満足を得た私は、次に脚へとその戦場を移す。
 腕とは逆にまずは左の太ももへ。
 上と外の表層を舐めまわしてから膝裏に手を当てて少し持ち上げ、その付け根の潤いを帯びた女性自身に対してわずかに目を奪われながらも内股へと舌を這わせていく。

「んふっ……ね、トゥルーデ。もしかして……喉乾いてきてるんじゃない? 舌のべとべとが足りないよ」

 荒い呼吸と喘ぎの合間を縫って放たれた熱を帯びる気遣いの声。
 確かにそのとおりだった。
 口を半ば開け放した状態を維持しているのだから当たり前といえば当たり前だが、舐め始めた時と違ってだいぶ口の中が乾いてしまっている。

「ねぇ、みて……トゥルーデ……」

 誘惑の声と共に右の太股が外に向かって開かれてその中心へと右手が添えられ……初めの自慰行為で少しだけ開き気味になっていたソコを魅せつけるように割り開く。
 視線をその中心へと釘付けにしながら、カラカラの喉をゴクリと鳴らす。

「凄く、濡れてるでしょ……いいよ、ここで潤して」

 従う以外の選択肢はなかった。
 両の太ももを抱え込み、目の前20cmの距離のそこへと1秒の何分の一もの速度でむしゃぶりついて、粘膜をこそぎ取るほどの勢いで伸ばした舌を挿し込んでいく。
 天使/悪魔の味がした。
 首筋よりも強く漂うご主人様の芳香に鼻腔から脳内を直接焼かれ、本当の犬よりも浅ましく下品に音を立てて荒い呼吸で食いついていく。

「あっ、はっ……ホンットにっ……いぬ、だよねっ、バター……なんてっ、な、く……てもっ、すご……したづか……いっ

 腰を突き出してわたしの舌に翻弄されるがままのご主人様の声が心地良い。
 もっと鳴いて欲しくて、舌と口の動きを早く激しくしていく。
 唇を使って顔全体で外の襞を開いてから内側の襞を唇で甘噛み、同時に鼻で包皮につつまれた一番敏感な部分をつつく。
 一番奥の孔をさっきのへそ責めと同じ様にふちをなぞってから尖らせた舌を突き込む。
 舌を縦横に走らせ、動かせば動かすほどにご主人様の泉の底から甘露が溢れてくる。
 自分が品のない荒い鼻息を立てている事すら自身の興奮を彩るBGMになって官能を加速。
 浅ましい自分が恥ずかしくて愛しい、それ以上にご主人様が愛しくてたまらない。
 無意識に右手がご主人様の太ももを離れ、自然に自分の股間に伸びる。
 その手がわたしのイヤラシイ粘膜を刺激しようとした途端、首輪が斜め上へと強く引かれた引かれた。

「ぐぅっ」
「ねぇ……何をやってるのかな?」

 上方向に引かれたせいで首が絞まり、同時にわたしの泉から口が離れてしまう。
 そんな……もっとずっとこの湿った柔らかい素晴らしい感触を味わっていたいのに……。
 なだらか双丘ごしに見えるご主人様の表情は、初めは作ったような怒り顔で、それはすぐにやれやれとでも言いたげな呆れ顔に変わる。

「はぁ……ちょっと強く叱ってあげようかと思ったけど、そんな表情されたら何も言えないよ。わたしのおまんこから口が離れただけだっていうのになんて情けない顔してるのさ」

 指摘されてから初めて気付く。
 わたしは今、大好物のご馳走を食べている途中で取り上げられた子供の様に、半ば泣き出しそうな顔をしてる。

「ほら、トゥルーデ……いい子いい子。そんなにわたしにむしゃぶりついていたかったんだね」


 身体を少し起こしたご主人様の右手が、わたしの頭を優しくなでる。

「いいよ、もっとわたしを味わって。いっぱいトゥルーデを潤してあげるから」

 頭に上に置かれたその手が、再びわたしをご主人様の股間へと誘う。
 逆らう理由はわたしの世界のどこにも見つからないから、誘われるがままに再びご主人様の官能の中心部へと口をつける。
 下ろした右手はもう一度しっかりとその太ももへと絡め、疼く股間を理性でなくご主人様を味わいたいという本能で律し、再び舌を動かし始める。

「ああっ……ね……ベッド、よごしちゃ……ヤ、だから、ね……」

 その上部を口全体で覆うようにして、ほころんだ襞の中から敏感な突起を舌で掘り起こして弄ぼうとした時だった。
 ご主人様はそう囁いて頭部を撫でていた右手に力を込め、自らの股間へと押し付ける。
 同時に、今自分の口の中にある水門が緩められ、口内にえもいえない塩味の効いた液体が流れこんできた。
 思わず吐き出しそうになってから直前の言葉が脳裏をよぎる。
「ベッド汚しちゃヤだからね」
 わたしは何度も叱られながら誠意を見せろと言われて奉仕している身なのだからせめてそのくらいは守るべきだ。
 それに、これはご主人様が私を潤そうとする優しさの現れなのだ。
 そんな施しを受け取れない様ではきっと愛玩動物失格だ。
 だから嚥下する。
 口の中へと断続的に流れこんでくるその液体を、喉を鳴らして受け入れる。
 それが排泄物であるという事実や明確な味覚としての味などはどうでもよかった。
 ご主人様のものを体内に取り込んでいるという事実が胸の奥を加熱し、その行為に酔い痴れる。

「んんっ……ふぅ……」

 いつしか放出が終わり、ご主人様は小さく震えてから心地良さそうに吐息する。
 出口の辺りを尖らせた舌でつつき、口を窄まらせて吸引すると、艶めかしい声と共に再びそこが緩んで奥に残っていたものが放出される。
 何度か繰り返すうちに全て吸いだされたのかそれ以上滲み出しては来なくなる。
 頭の上に載せられたまま止まっていた右手が再び動いて、優しく撫でてくれた。
 暫くそうして柔らかな手の感触に揺られながら、ご主人様の粘膜を優しく舌全体で撫でる。
 目を閉じて視覚以外のもたらす感覚に集中する。
 舌の先から伝わる感覚でその場所を紙に絵として写し取れる気がするほど、敏感に研ぎ澄まされ、ただその場を舐め、感じ取ることだけに没頭していた。
 ゆるい快感がもたらす時間が永遠と続くかと思えた時に、ご主人様が身を起こす気配があった。
 太ももと顔の隙間からゆっくりと手を差し入れ、顎へと滑り込んだ指先が無理やりでなくわたしの顔を心地良い股間から引き上げる。
 正に目と鼻の先と言っていい距離に上気したご主人様の顔。
 口元の涎すら拭わず熱い吐息を漏らし、瞳をめいっぱい潤ませたその表情はひどく淫蕩で浅ましい姿で……それはきっと鏡に写した今の自分の顔なのだということが理解し確信できた。

「ね、トゥルーデ……来てよ。私に規則を守らせて……ちゅ」
「んっ」

 腰を丸めたご主人様が呟きながら唇を近づけ、再び粘膜同士の接触。
 舌も絡めず、唇を触れるだけのそれは、次の行為への合図。
 そんな浅いキスのあと、ご主人様は後ろに倒れこんだ元の姿勢へと戻り、熱に浮かされたような視線だけを向けてくる。
 二人の規則。
 ご主人様の気まぐれで決まったり消えたりするあやふやなモノの中で唯一確定しているもの。
 一緒に気持ちよくなること。
 一緒に登り詰めること。
 それをご主人様に守ってもらい、私も一緒に守るために行動する。

 まずは左足を天へ向けて抱き、伸ばす。
 ふくらはぎからくるぶしに掛けてご主人様のくれた潤いをタップリと含んだ舌で舐め、下半身を滑らせていく。
 見下ろすご主人様が吐息で誘い、わたしは導かれるままに腰を進め、やがて足の付根同士が接触する。
 昂りきっていた二人のそこはひだ同士を食い込ませるように腰を突き出した瞬間にあっという間に登り詰める。

「ああっ! トゥルーデぇっ!!!!」
「ご……しゅじん、さまぁっ!!!!」

 ビクンビクンと数度の痙攣を繰り返して、数秒間の絶頂感。
 でも、まだ足りない。
 女同士だから、互いの心が貪欲に求めれば体力の続く限り行為は続く。
 ぼうっとした視界の中、絶頂に翻弄されるご主人様の表情がもっと見たいと思い、自分が快楽の余韻に浸る時間さえ惜しくなった。
 股間同士を摺りつけながら身体を倒して今日一度も触れたことがない乳首へと吸い付いた。
 小さめの乳輪の周りにキスマークを付ける勢いで強くしゃぶりついてまだ余韻に揺られるご主人様の官能を無理矢理に引き出して加熱する。

「まっ……てぇ、だめぇ……トゥル、んむっ」

 制止を聞かなかったことにするために、キスで口をふさぐ。
 案の定口許はゆるく開かれ、拒否の声をあげようとしていたとは思えないほどスムーズに舌を受け入れ、絡まる。
 下半身は足の付根同士が食い込むようにして擦れあうまま、唇でご主人様の声を塞いで乳首と乳房を指と手のひら全体で刺激する。
 それはご主人様の全てを蹂躙する行為。
 犬のような、獣のような理性のない行為。
 でもご主人様は拒否しない。
 気に入らなければ強く引かれるはずの左手につながった鎖は、うねる二人の体に合わせて小さな金属音を立てるだけだ。
 だからわたしも止まらない。
 本能の求めるまま、胎内で燃え盛る官能の炎を必死にぶつけ延焼する様を楽しむのだ。
 二度目の規則順守はそのままの動きの延長で自然にたどり着き、三度目はお互いに包皮から剥きだした敏感な肉芽同士の接触によって為された。
 三度目から数回はお互い股間にしゃぶりついていじりあった結果で迎え、そこから先はもう覚えていない。
 わかるのは二人で意識を失い目覚めた時にも、わたしの首輪の鎖は深く眠るご主人様の手に握られていたということだ。
 眠りながらもわたしの主人で在り続けてくれるこの天使/悪魔を心の底から愛しく感じながら、その姿に倣って二度目の眠りにつくことにした。


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