white breath
自室に連れ込むなり、厳重に鍵を掛け、その上でぎろりと直枝を睨む。
びくりと身体を震わせる直枝。アレクサンドラはそのまま直枝の襟首を掴んだままベッド際までよりきった。
「説明、して貰おうかしら?」
ぎりぎりと首を絞められる直枝。
「ち、違うんだ、誤解だ……誤解なんだって……わっ!」
ベッドにどーんと突き飛ばされ、転がる直枝。乱れた息が咳となり、少し止まらずにけほけほとむせる。
ちらっと上を見る。真上にアレクサンドラの顔がある。
「どうして、下原少尉のお膝に抱っこなんか?」
「あ、あれは下原が勝手に」
「拒まなかったのですか」
「だって、食事中だし」
「扶桑では食事の最中には、ああ言う行為をするんですか」
「……普通はしない」
「じゃあ、下原少尉とは」
「ホント、何も無いんだってば! ああもう、何度も繰り返させるな!」
思わず怒鳴って、はたと気付く。アレクサンドラが涙ぐんでいる。怒らせて、しまいに泣かせてしまった直枝は自分を呪った。
「ご、ゴメン」
「バカ」
直球の一言に心えぐられる直枝。
「サーシャ、信じてくれ。オレは、サーシャだけなんだってば」
おろおろしながらサーシャの肩に触れる。「触らないで!」と腕を弾かれるのを覚悟で。
そっと、肩を抱く。ベッドに座らせ、ゆっくりと抱き寄せる。
こうでもしないと、落ち着かない気分だった。直枝自身が。
ふと気付くと、ベッドの上でがっしり肩を押さえつけられている事に気付く直枝。
「い、いつの間に?」
「そんなだから、いつもいつも……」
「いやいやいや、今のは確実に動きが違うぞ!? 軍隊格闘術(コマンドサンボ)的な何か……ぐるじい、首絞めないで」
「じゃあ、首の骨をずらす?」
「死ぬわ!」
「死なないわ。やり方によっては。身体が一生動かなくなるけど」
「それはもっと嫌だ!」
「大丈夫。私が一生面倒を見てあげるから」
ふふふ、と笑うアレクサンドラ。目にはいくばくかの狂気が涙と混じり、不思議な色を見せる。
「サーシャ、誤解なんだって」
「下原少尉とご飯を食べて、いちゃいちゃして……」
「そ、それは……。誤解させたなら謝るから……」
「悪い子には罰を与えないと」
アレクサンドラは直枝を組み伏せると、しゅるりと服を脱がしに掛かった。
「サーシャ?」
「おしおき」
そのまま足を器用に絡ませると、直枝のボディスーツをあっという間に脱がしてしまう。
「なっ! や、やめ……」
直枝の言葉は続かなかった。熱い吐息に変わり、やがて規則的な、悲鳴にも似た喘ぎ声に変わる。
アレクサンドラの手が、直枝の秘めたる部分をしつこく、舐る。アレクサンドラの唇が直枝の首筋をなぞる。
そして彼女の舌が、荒い呼吸を繰り返す直枝の唇を舐め、入り込み、舌を絡ませる。
太腿をぐいと押しやり、直枝の股を無理矢理に開かせる。
「まるで犬ね。私の可愛い……」
アレクサンドラは直枝の耳元でそう囁くと、くちゅ、と音を立てて直枝を玩ぶ。
「だめ、だめだっ、そ、こは……。あ、ああぁああ! ……っ、あ、う、ううっ……ん……」
悶えそのままびくびくと全身を痙攣させ、ぐたりとベッドに沈む直枝を、アレクサンドラはぐいと引き起こし強引にキスに持ち込む。
濃いキス。
快楽の絶頂を迎え、恍惚の表情の直枝。全裸の姿を愛おしそうに肩越しに眺め、もう一度唇を重ねる。
これでもかと言う程、舌を絡ませる。
為す術の無い直枝は、アレクサンドラの全てを受け容れ……なすがままにされる。
「まだ、これから……貴方をもう一度撃墜したら、今度は一緒に、ね?」
アレクサンドラは耳をはむっと唇でくわえ、耳たぶをねっとりと舐める。手はそのまま直枝の敏感な所を更に刺激する。
「んっ……う、……う、ああっ、うわああぁあぁぁああ……」
獣の奴隷と成り果てた直枝は、ただただ、玩ばれた。
二度目の痙攣。身体の震えは前よりも一層激しく、快楽の果てに、ぱしゃあとベッドの上に飛沫を撒き散らす。
「あっ、ああぁ……。止まらない……」
「ふふっ。素直な子。好きよ、ナオ」
「サ、サーシャぁ……」
瞳を潤ませ、直枝はアレクサンドラのキスをねだった。
「さあ、次は私の番……一緒に……」
アレクサンドラは直枝の手を握り、自分のズボンの中に入れ、手を握ったままちゅくちゅくとかき混ぜる。
「サーシャ……」
何かに気付いた直枝。ぼおっとした顔をアレクサンドラに向ける。
「貴方のそんな顔見てると……私だって、うっ……んんっ」
アレクサンドラは直枝と絡み合ったまま、ベッドに倒れ込んだ。
何度絶頂を迎えたのだろう。快感へのスイッチとなる手と指はお互いの敏感な部分に絡ませたまま……、
アレクサンドラと直枝は涙を浮かべながら身体を震わせ、熱い吐息を頬に掠らせながら、もう一度キスを交わす。
「サーシャ……もう、ダメ」
「まだ、まだよ。まだ終わってない」
「お願いだから……もう」
アレクサンドラは、涙ながらに懇願する直枝の顔を見て、このまま自分のベッドの上で“快楽漬け”にして溺れさせてしまいたい、そんな衝動に駆られた。
おもむろに腰をうねらせ、絡んだ指先を敏感な部分にあてがい、動かす。
びくりと身体を震わせ、がくがくと痙攣する直枝。
「さ、サーシャ……ああ……あ……」
だらりと差し出された片手をぎゅっと握り、だらしなく半開きのままの唇を塞ぎ、じっくりと味わう。
直枝はアレクサンドラと口吻したままびくり、と身体を大きく震わせ、そのままぐったりと倒れた。
気を失った直枝の身体にまたがり、微かにぴくりと震える直枝の指を掴み、自分で快楽を呼び起こす。
まるで死者に鞭打つかの如く、直枝の太腿、秘所を己のそれにあてがい、押しつける。
暫く直枝の手で自らの身を玩んだ後、身体をびくつかせ、アレクサンドラも直枝の横に倒れ込んだ。
むわっとした、独特の臭い。少々の酸味。
部屋にこもる「事後」の臭気にまみれながら、アレクサンドラと直枝は全裸のまま抱き合っていた。
寒さ凌ぎの為、毛布をぞんざいに身体に巻き付ける。
「サーシャ、ごめん。ベッド汚した……」
「後で掃除するからいいわ」
アレクサンドラはそう言うと、直枝に身体を預けてきた。触れ合う素肌。肩を寄せ合う。
解けたブロンドの髪が、はらりと直枝の顔をくすぐる。手に取って臭いを嗅ぐ。
紛れもない、アレクサンドラの香りが染み込んだ、彼女の髪だ。さらさらしてて、くすぐったい。
直枝は大きく深呼吸する。吐息が微かに白い。意を決したかの如く、愛しの人の名を呼んだ。
「サーシャ、聞いてくれ」
「何?」
「あれは、本当に、夜食を食べさせて貰っただけで、オレと下原とは何も……」
「もういい」
「えっ?」
「貴方って何処までも愚直なのね、ナオ」
そう言ってアレクサンドラは直枝の唇を塞いだ。
しばしお互いを味わうと、そっと唇を離し、微笑んだ。
「分かってる。貴方は嘘がつけない人だから」
「えっ……じゃあ」
「ごめんなさい。分かってても、それでも、何か悔しい事って有るでしょう?」
黙って話を聞く直枝。目が合う。続きを促した直枝に向かい、少し寂しげな表情を作るアレクサンドラ。
「嫉妬、ではないけど……。どうしても、確かめたくて」
「確かめる?」
「私と貴方」
アレクサンドラは寂しげに笑う。
「貴方の弱みにつけ込んで……私も悪い子、ね」
「そんな事無い! オレのせ……」
言いかけた直枝の唇に、人差し指をそっと重ねるアレクサンドラ。
「もう良いから。だからナオ、最後にもう一度だけ、して?」
「わ、分かった……」
ごくりと唾を飲み込むと、そっと口吻を交わす。
それが延長第一ラウンド開始の合図。
二人は迷わず、お互いの身体に絡み付き、そのまま深みに溺れていった。
部屋を片付け……濡れたベッドシーツを洗いに出し……服とズボンを着込み、可能な限り身なりを整える二人。
外はまだ暗いが、時計の針はそろそろ隊員達の起床時間が近い事を示している。
「さて。行くか」
「ええ……あ、思い出した」
「?」
「私には、くれないの?」
「何を?」
「飴玉」
「ああ……。あれは下原にあげたので最後だ。また扶桑から補給が来たら……」
「楽しみにしてる」
「でも飴玉だったら、扶桑以外にも甘くて美味しいのが……」
「貴方がくれるのが、良いの」
「分かった。じゃあ、先に行く」
「待って。最後に」
アレクサンドラは直枝の顎をすくいあげると、そっとキスをした。
舌を絡ませ、最後とばかりにじっくりと味わい尽くす。絡まるお互いの唾液が、雫となってこぼれ落ちる。
「これ以上は……、また始まっちゃうから。そうね。今夜も」
唇を離したアレクサンドラは苦笑した。
「そ、そうだな。つ、次はもっと……」
「もっと、何?」
「な、何でもないッ! では失礼する」
直枝は顔を真っ赤にして、アレクサンドラの部屋から大股で出て行った。
外の冷たい風がドアから一瞬吹き込み、部屋の空気を掻き乱す。それはアレクサンドラの心と一緒で……
いつになったら直枝とずっと一緒に居られるのか、いつまでもこう言う関係で居られるのか。
不安が渦巻く。
ばたんと勢い良く閉まるドアの音が、淋しさを強くする。
いけないいけない、とアレクサンドラは頭を振った。
こんな気持ちにさせるのは、数多くのウィッチの中でも、管野直枝ただ一人。
勿論、いけないのは私も一緒。でも、もっといけないのは、私の、扶桑の魔女。今夜は、もっと……。
ふと口の端に笑みが浮かぶ己を戒めると、アレクサンドラはいつもの「戦闘隊長」としての凛とした表情を作り、部屋を後にした。
end