あなたのために


「いや~下原の作ってくれる肉じゃがは世界一美味いな」
「ええ!? そ、それは大袈裟ですよ~」
「あら、謙遜することないわ。下原さんの肉じゃが、とっても美味しいわよ」
「はっはっは! こんな美味い料理を毎日食べられるなんて、将来下原の夫になる奴は幸せ者だな」
「さ、坂本さん! やめてくださいよ~私にはまだそういう話は早いです」
「ふふふっ、そうね。でも、いつか下原さんの前にも現れると思うわ。自分の料理を
毎日振舞ってあげたくなるような運命の人が」
「そ、そうでしょうか……?」

――竹井さん、坂本さん、私、運命の人を見つけました。

『あなたのために』

――9月23日深夜、菅野直枝少尉の部屋前

「下原です。一緒に金平糖、食べませんか?」
私がそう言って石造りの部屋の扉をコンコンと叩くと、数秒もしないうちに部屋の主さんが扉を開けてくれた。
「おう、入れ入れ」
満面の笑みを浮かべ、私を招き入れてくれる菅野さん。
ふふっ、本当に菅野さんの笑顔は可愛いな。

「か~んのさん! えい!」
私は、仔犬のように可愛い菅野さんを思わずぎゅっと抱きしめていた。
菅野さんの身体、すごく暖かくて柔らかい。
「わっ! 馬鹿やめろ、な、なんでいきなり抱きついてくるんだよ」
「だって、菅野さんが可愛いかったから」
「だってじゃない! 離れろ」
菅野さんを抱きしめていた私の腕は、不機嫌そうな彼女の腕によって引き剥がされた。
もうちょっとぎゅってしてたかったのに、残念。

「大体、オレは今日で16歳になったんだ。可愛いなんて言われる年齢じゃねぇよ」
「そんなことないですよ。ほら、菅野さんって同い年のニパさんと比べると背が低いから
幼く見えますし」
「怒るぞ」
菅野さんが頬を膨らませて私を睨んでくる。
ああもう、怒ってる菅野さんも可愛いな。
「その表情、反則です。可愛すぎます。えいっ!」
私は菅野さんの細身の身体を再びぎゅっと抱き寄せる。
「だから、抱きつくな~! 全く、下原といると調子狂うなぁ……金平糖、一緒に食べるんじゃなかったのか?」
「あっ、そうでした。はい、どうぞ」
私はポケットから小瓶を取り出し、中の金平糖を数粒菅野さんに渡す。
「おお、サンキュな……うん、美味い」
「ええ、甘くてとっても美味しいですね」
「なぁ、下原」
「なんですか?」
「その……今日は本当にありがとな。下原の料理、すごく美味しかったよ。あっ、もちろんいつもの下原の料理も
美味いけど、今日のは格別に美味しかった」
菅野さんが今日一番の笑顔を浮かべながら言ってくれた。
その笑顔、眩しすぎです菅野さん。
「喜んでもらえてなによりです。喜んでる菅野さんを見てるとこっちまで嬉しくなっちゃいます。
私、これからも毎日菅野さんが喜んでくれるような料理、作りますね」
「ば、馬鹿! 何恥ずかしいこと言ってんだよ……でも、定子の料理、本当に美味いから毎日食べてやってもいいぞ」
菅野さんが少し顔を赤らめながら、さり気なく私を名前で呼んでくれた。
もう駄目、可愛すぎて我慢できない。

「ナオちゃん、大好き!」
「わっ!」
私は本日3度目のハグをした。
さっきより一層強くナオちゃんを抱きしめる。
本当に暖かい。
「ねぇ、ナオちゃん」
「な、なんだ?」
「改めて、誕生日おめでとう」
「……ありがと」

――竹井さん、私、巡り合えましたよ運命の人に。

~Fin~


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