aqualovers


 吹雪が一段落した、502基地周辺は視界が白く遮られていた。
 そんな中、黙々とハンガーの脇で整備を続ける直枝。
 今日の出撃の結果は半壊に近い状態だった。いわゆる「全損」ではないのがせめてもの救い。
 整備士がある程度の状態まで回復した後は、自分の好みに合う様幾らかの「調整」をしないといけない。
 基地施設……屋根の補修が追いつかず、直枝の近くに、ストーブの熱で溶けた雪の痕が、ぽたりぽたりと滴り、小さな水たまりを作る。
 だがそんな事にはお構いなしの直枝。
 ポケットに手をやる。何も無い。
 飴玉は、そう言えばこの前下原にあげたので最後だった、と言う事を思い出す。

 無いものは、仕方ない。

 直枝は作業に戻る。
 完全とは言えないまでも、きちんと修理・修復された部品を確かめる。
「問題なし、か」
 ぽつりと呟き、外装を元に戻し、工具を片付ける。あらかた終わった所で、背後に人の気配を感じ、顔を向ける。
 アレクサンドラだった。
「大尉……」
 呼ばれたアレクサンドラは、辺りを見回して微笑んだ。
「今はサーシャでいいわ、ナオ。周りには誰も居ないし」
「あ、ああ、サーシャ。どうかしたか?」
「はい、これ」
 アレクサンドラは、可愛く折った包みを差し出した。
 作業用の手袋を取り、タオルで手の汚れを拭き取ってから、渡された包みを開けてみる。
 キャンディー。キャラメル。各国の様々なお菓子が、少しずつだが入っていた。
「これは……」
 驚く直枝に、アレクサンドラは顔を近付けて聞いた。
「こう言うのは、嫌い?」
「いや、好きだけど。でも、どうして?」
「いつも頑張っているから、ご褒美」
「ご褒美……」
「あと、今日は貴方の誕生日でしょう? ちょっとしたお祝いも兼ねて」
「ああ、そうか。すっかり忘れてた」
「自分の誕生日くらい、覚えてなさいよ」
 アレクサンドラは苦笑する。
「本当はもっとお祝いしてあげたいけど、502(ここ)ではこれが精一杯。ごめんなさい」
「サーシャが謝らなくても。サーシャは何も悪い事してない」
 直枝の言葉に、サーシャは笑顔を作る。
「有り難う、ナオ」
「それはこっちのセリフだ。有り難う、サーシャ。気を遣って貰って」
「だって私の大事な……」
 ぎゅっと直枝を抱きしめるアレクサンドラ。顔を真っ赤にして、抱かれるままになる直枝。
「ひとつ、良いか?」
「どうぞ」
 キャラメルをひとつ、食べる。寒さでこちこちに固まっていた欧州菓子は、口で温められるうちに
まろやかな口当たりになり、まったりとした口溶けで直枝の気持ちをほぐしていく。
「どう?」
「ん。うまい」
「良かった」
「サーシャの事だ、きっと色々無理を言って……」
「そう言う事は、言わないの」
「ご、ゴメン」
「私にも少し、分けて?」
「え、どれを?」
 包みに手を伸ばす直枝の手を取り、アレクサンドラはそっと、くちづけをした。
 自然と絡み合う舌。きゅっと抱きしめる腕に力がこもる。
 ふたりの吐息が混じり合い、辺りにうっすらとこぼれ、拡散し、消える。
「本当。甘いね」
 ぽつりとアレクサンドラは言い、微笑む。
「うん」
「整備はもう明日にして……今夜は、ね?」
 耳元で囁くアレクサンドラの誘いはとても甘美で……抗えない。
 こくりと頷く直枝。
 二人は肩を寄せ合い、ハンガーを後にした。これから始まる二人だけの“お祝い”の為、足取りも自然と早まる。

end



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