502の、ちょっと隠し事な一日


最近の502基地は、変だ。
いや、変なやつが多いっていうのは前から変わらないんだけど、
そういう意味じゃなくて、何か様子がおかしい。
なんだかやけにそわそわしてるやつが多いし、妙にこそこそしてるやつもいる。
でも、ラル隊長もロスマン先生も何にもいってこないから、
ネウロイの動きが活発になってるとかいうことではないみたいだ。

ニパは相変わらず俺と一緒にハンガー掃除ばっかりしてるし、
伯爵は伯爵で、今度は街の娘に手出してるらしい。
サーシャは相変わらず訓練中は厳しいし、
ロスマン先生の授業は面白いし、
ラル隊長は何やってんのかよくわかんないし。

何にも変わっちゃいない。それなのに、なんか隊の雰囲気がおかしい。
気に食わない。

大体、最近は大型が全然出てきてないから余計にむしゃくしゃする。
ユニットの壊しようがないからサーシャに怒られることはないけど、
ザコの相手ばっかりは正直、つまらない。
やっぱ、戦いってのはネウロイとガチンコ勝負してこそだろ。
それやると毎回サーシャにすっげー怒られるけど。ユニットもぶっ壊れるし。

あぁ、いらいらする。いらいらすると腹が減る。
下原に頼んで、何か食べるもん、もらってくるかな。

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食堂に行くと誰かが台所で料理の下ごしらえをしてるみたいだった。
水音や包丁の音に混じって聞き覚えのある鼻歌が聞こえてくる。
「ジョゼか?そこにいるの」
「あっ、ナオちゃん……」

俺の声にびくっと体を震わせて、ジョゼが振り向いた。
なんとなく、嫌そうな顔をしてるのが気になる。
「ど、どうしたんですか?こんなとこに」
「いや、腹へったからなんか食うもんないかと思って」
「す、すぐに食べられるものはちょっと……」
「ふぅん……」
そうやって話してる間もジョゼは妙にそわそわしてて、
俺が向こうに行くのを待ってるみたいだ。
「おい、ジョゼ」
「はっ、はいっ!」
「お前、なんか俺に隠してるだろ」
「そっ、そんなことないですよ」
「うそつけ。さっきからソワソワしやがって。
そこに何か隠してんだろ!」
「あっ、台所はダメですっ!」
「やっぱりなんか隠してるんじゃねーか!!」
「だから、ダメですってば!!!」

「こら、ナオちゃん。ジョゼさんいじめないの」
「下原さぁん……」
後ろから下原にぽふっと抱きしめられて動けなくなる。
ジョゼは心強い味方にほっとしたのか泣きそうになっている。
「だめよ、ナオちゃん。人の嫌がるようなことしちゃ。
そんな悪い子にはお菓子あげないよ?」
下原はニコニコした声で俺の頭を優しくなでてくる。
くすぐったいし恥ずかしい。
「だって、ジョゼの奴、俺に隠し事しやがって……」
「じゃあ、お菓子いらない?」
「……いる」
俺の答えに下原が嬉しそうに笑う。
「一緒に来て。昨日、扶桑からたくさん届いたの」
そういって下原は俺の手をひいて、裏の物資倉庫に連れていった。

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下原もジョゼも、やっぱり何か隠してる。
ベッドに座って、ふ菓子をかじりながら俺は一人考えていた。
さっきはうまくごまかされたけど、どうも俺になにか隠し事をしているらしい。
しかも、下原やジョゼだけじゃなくて隊全体がこそこそしてる。
気に食わない。
俺にいえないってことは、何か俺にとって都合のよくないことが起こってるってことだ。
例えば、ストライカー壊しすぎたから本国に送りかえされるとか。
……心当たりがありすぎて不安だ。

もしかしたら、ブレイクの3人はみんな首かもな。
これまた十分ありえる話だから困る。
そうすると、今日いきなり訓練が中止になったのも納得できる。
もう首になるやつらに訓練する必要なんてないもんな。

……なんだか、情けなくて悔しくて、涙が出そうになる。
扶桑に帰れるのは嬉しくないとはいわない。
姉ちゃんにも母ちゃんにも会いたい。
でも、こんな形で帰るのなんて嫌だ。
だって、姉ちゃんと約束したんだ。
俺が絶対姉ちゃんを守るって。
俺がネウロイを倒すって。
それなのに……。

不意にドアを叩く音がして、はっと我にかえる。
「開いてるよ。勝手に入れ」
「では、失礼」
なんと、扉を開けて入ってきたのはラル隊長だった。
「どうかしたのか?元気がないが」
「……当然だろ」
そんな俺の態度に、ラル隊長は不思議そうな顔をしていた。
「夕飯の支度ができたそうだ。もうみんな、食堂に集まってるぞ」
「え?」
「早く来い。菅野がいないと始まらないんだ」
なんでラル隊長が呼びに来たのかよくわからなかったけど、
隊長に急かされるまま部屋を出て、一緒に食堂へ向かった。


食堂にいくと、もうみんな席についていた。
いつもは給仕をしてる下原やジョセまで全員だ。
「連れてきたぞ」
ラル隊長は、いつも自分が座っている席に俺を座らせて、俺の席に座った。
隊長が席についたのを見計らって、ロスマン先生が立ち上がる。
「それでは、全員そろいましたので
――あのニセバカ伯爵はまたどこかをほっつき歩いてるようですが――
始めたいと思います。司会は、僭越ながら私、エディータ・ロスマンが。
本日はネウロイの襲撃もなく、みんなそろってお祝いの席を――」
そのとき、食堂のドアがばんと勢いよく開いた。

「ナオちゃん、お誕生日おっめでとう~!!」
「伯爵!」
入ってきたのは、大きなバラの花束を抱えたクルピンスキー中尉だった。
「え?おめでとうって……?」
「何いってんの。今日はナオちゃんの誕生日でしょ?
花屋のエレナちゃんに頼んで花束作ってもらってたら、遅くなっちゃった。
まぁ、花束作るのはすぐに終わったんだけどね」
伯爵はいつもどおりヘラヘラと笑いながら俺に花束をずいっと押し付けた。
「はい。ナオちゃんの歳の数だけバラを用意したんだけど、ちょっとキザすぎたかな」

伯爵の突然の登場に呆然とする一同。
俺も一体何が何だか、わけがわからない。誕生日っていわれた気がするけど……。
「中尉、空気読めなさすぎ」
「そうですよ。まだロスマン先生のお話もすんでないのに……」
「クルピンスキー、あとで正座」
次々に不満を浴びせる502メンバー。
当然、一番怒っているのはロスマン先生で。
「この、バカ伯爵!!!」
思いっきり背伸びをして、伯爵の胸ぐらを投げ飛ばさんばかりにつかんでいた。

「あんたのせいで全部台無しじゃないの!どうしてくれんのよ!!」
「あんまり話ばっかり長くなるとせっかくのケーキが冷えちゃうよ、ちびっ子先生。
あ、ケーキは別に冷えてもいいのか」
ものすごい剣幕で伯爵に怒鳴るロスマン先生と、まるで人ごとのように笑っている伯爵。
これはなんだ、一体。

「と、いうことだ。お誕生日おめでとうな、菅野」
いつの間にか俺の隣にきていたラル隊長が、ぽんぽんと頭をなでる。
「えっ……あっ……」
そうだ。今日、俺の誕生日なんだ。すっかり忘れてた。
みんな、知ってたんだな。こうやって祝ってもらえるのは嬉しいけど――。
「……なんか、恥ずかしい」

「なんだ、菅野。お前の誕生日だろ。何にも恥ずかしがることはない」
「そうですよ、ナオちゃん。今日はナオちゃんがこの世に生まれて、
私たちがナオちゃんと出会うきっかけができた大切な日なんですから、
盛大に祝わせてください」
「隊長、下原……」
隊長には頭をなでられ、下原にはぎゅっと抱きしめられ。
ちょっと苦しくて、恥ずかしいけど、なんだかすごく嬉しい。
「そうそう。大好きな人の誕生日を心から祝うなんて当たり前のことだよ。
おかげで僕は毎週パーティーが入ってて大変なんだけどね。
来週はオラーシャ空軍のアンナちゃんの誕生日があるし……」
「あんたは少し黙ってなさい、このニセ伯爵!」

あまりにも当たり前に会話に混じってくる伯爵。
それを怒っているロスマン先生。
呆れてるニパ。
おろおろしてるジョゼ。
ちょっと不機嫌そうなサーシャ。
そして、下原とラル隊長。

みんな、楽しそうでにこにこしてて。
こいつらみんな、俺に誕生パーティーのことを隠すためにこそこそしてたのかと思うと、
そして俺はとんでもなく妙な勘違いをしていらいらしてたのかと思うと、
なんだかおかしくて笑えてくる。

「さっ、ナオちゃん。
今日はナオちゃんの大好きな肉じゃがを作ったから、たくさん食べてね」
「私も……これ、焼いたから」
サーシャが台所から持ってきたのは大きなケーキ。
一体、いつの間に用意してたんだろ。

「ナオちゃん、願い事してろうそく消してください」
ジョゼにちょいちょいと袖口を引っぱられる。
伯爵がさりげない手つきで電気を消した。
ろうそくの光の向こうに、隊のみんなの笑顔が揺れてる。

俺はちょっと大きく息を吸い込んでろうそくを吹き消した。
この大切な仲間の幸せな日々が、ずっとずっと続きますように――。

『Happy Birthday, ナオちゃん!』
みんなの声が重なった。

fin.


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