"B" team


 戦が終わり、基地へと戻る三人のウィッチ。
 のんびりと軽くロールを打ちながら、横を飛ぶ小柄な扶桑のウィッチに近づく長身のウィッチ。
「いやー今日も大活躍だったね、ナオちゃん」
「いつもと同じだ」
 むすっとした表情で答える直枝。
「大物ひとつに、ちっちゃいのは……」
「誰か数えてるだろ。オレにはそんな暇無い」
「その澄ましたお顔もクールでキュート、なんてね」
「さっきから何だ、伯爵。気味が悪い」
 伯爵、と呼ばれたウィッチ……クルピンスキーは、両手でジェスチャーを交えながら答えた。
「最近のナオちゃんの攻撃だけどね。なんか、向こう見ずさが少し減ったかなって思ってさ」
「……?」
 怪訝そうな顔をする直枝を前に、笑うクルピンスキー。
「ある程度ニパ君と連携取れてたし、被弾はしたけどかすり傷だし。何より墜落していない」
「たまには、そういう日もある」
 クルピンスキーから目を離し前を向く直枝。
「地上の回収班には悪い事しちゃったかな? あの娘(こ)達のお仕事減っちゃってさ」
「あのさぁ伯爵。私達が墜落して当たり前みたいな事言うなよ」
 二人の様子を眺めていたスオムス出身のウィッチが、文句を言う。
「そうかいニパ君? ボクは喜んでるんだけどな。ナオちゃんは少し丸くなった感じだし、ニパ君も少しずつトラブルが減ってきてる」
「伯爵の言い方は、何かいちいち含みがあるんだよな」
「そう言うニパ君は、回収班のユーティライネン隊長と……」
「何もない。イッルの姉さんってだけで何もない」
 クルピンスキーとニパのやりとりを、横目で見る直枝。
「でもニパ君、それにしては良く……」
「うるさい! 伯爵だけ回収班に回すぞ!」
 背中に背負った銃に手を掛ける仕草をするニパ。両手を挙げ大袈裟な素振りを見せるクルピンスキー。
「おっと味方同士で撃ち合いは良くないなあ。せめて裸での付き合いにしようよ」
「……行こう、カンノ。相手してるだけ無駄だわ。……ん? カンノ、どうした?」
 直枝が、クルピンスキーのはるか後方に、意識を集中させている。
「ニパ、見えるか? ネウロイだ。四時の方向。距離はおよそ……」
 手で指し示す。ニパも振り返る。遠くに、ぽつぽつと黒い点が見える。
「……ああ。さっきやったばかりなのに、懲りもせずまた湧いてきたのか」
 すかさず、三人の無線に、凛とした声で通信が入る。
『心配有りません。そのネウロイは少数、現地部隊が迎撃するとの連絡です。貴方達は速やかに帰還しなさい』
 サーシャの声だ。戦闘後一足先に帰還し、現地部隊との連絡調整を行っていたらしい。
「現地部隊、ねえ。今日の出撃、確か搭乗割りは、アンナちゃんにオリガちゃんか……」
 指折り数えるクルピンスキー。
「伯爵、何で知らない現地部隊の事知ってんだよ」
「そりゃあ、色々とね……」
 言いながら身体を反らし、華麗にターンを決めるクルピンスキー。
「ちょ、何処行くんだ伯爵!」
 ニパが追う。
「あの子達にはちょ~っと大変かなと思って、軽いお手伝いだよ」
「待て、帰投命令出てるんだぞ!?」
 直枝も止めに入る。
「じゃあ二人は先に帰っててくれないかな?」
「……そう言われて、『はいそうですか』と帰れるか?」
「そう来なくっちゃね」
 三人は揃ってネウロイに向かう。背中に背負っていた銃を構えた。
「あんまり残弾無いぞ。それに魔法力だってそんな残ってないし……」
「まあ、その辺は騙し騙しで。弾数については、ナオちゃんは心配してないよ」
「何かとげのある言い方だな、伯爵」
 言いながらも、ニパに銃を投げ渡す直枝。そしてすらりと扶桑刀を抜き放った。
「カンノ、銃は」
「どうせ残弾僅かだ。撃ち終わったら棒きれ代わりにでも使ってくれ。オレにはこれが有る」
 扶桑刀を見せる直枝。
「そいつはどうも」
 肩に背負うニパ。

 黒い点が、微かなシルエットとなって近づいてくる。
「数はおよそ十、雑魚八に中型二ってとこだ」
 直枝は見た感じをざっと述べる。
「じゃあ、中くらいのはナオちゃんお願い。ボクとニパ君は現地部隊の援護をしよう。ばりばり落としちゃって構わないから」
『何処へ行くのですか三人共! 今すぐ帰還しなさい!』
 サーシャの怒号がインカムから聞こえる。
「現地部隊からのSOSがね、出るんだよ」
『何ですって? そんな報告……』
「今から必ず出るから、待っててね、熊さん」
『ちょっと……』
「おっと無線のトラブルだ」
 そう言うとクルピンスキーは無線のチャンネルを変えて、至近距離に近づくと二人に言った。
「二人ともチャンネルは12で宜しく。……さてと、ナオちゃん、ニパ君、行きますか。もう一仕事増えたぞ」
「またサーシャ大尉に怒られるかと思うと気が重いよ」
「まったくだ。正座付きだろうな」
 言いながらも無線のチャンネルを合わせる二人。
「現地部隊とは言え、あの子達新人でまだ配属されたばかりだからね。その二人であの数は辛いよね」
「何で配属時期とか、そう言う事まで知ってるんだよ」
「あとで詳しく教えてあげるよ。そうそう、オリガちゃんはすらっとした黒髪がステキなオラーシャ美人でね、とってもボク好みなんだ。会った事ないけど」
「おい! 会った事無いのかよ?」
「でもアンナちゃんなら有るよ? ちょっと小柄だけど芯の強い子でね~。落とすのになかなか苦労したよ」
「落とすって……まさか」
「あれは雪の降る寒い日だった。ボクとアンナちゃんはこう、手を取り合って……」
「聞きたくねえよ、そんな話!」
 無線に、現地部隊の混乱ぶりが伝わって来た。いざ迎撃には出たものの、敵の数を確認するなり支援を要求している。
そして支援が無い等とやりあっている。
「ほらね。SOSだ」
 にやっと笑うクルピンスキー。
「何で現地部隊が使う無線チャンネルまで知ってるんだよ」
 呆れるニパ。
「お喋りは終わりだ。もうすぐ交戦距離に入るぞ」
 直枝がきっと、前を向いた。間近にネウロイが迫る。刀を持つ手に力が入る。
「よし、ナオちゃんお願い。行くぞ、ニパ君!」
「ったく、しょうがないなあ……」
 呆れるニパを追い越し、直枝が突進した。
「管野一番、突撃する! うおおお!」

「で、帰りは結局こうなるのかよ……」
 驚異的な回復をみせつつも、自分で傷口に包帯を巻きながら溜め息をつくニパ。
 ハーフトラックの荷台に揺れながら、ぼけっと流れゆく景色を眺める直枝。応急手当で額と腕に包帯が巻かれている。
「いやー、ボク達の専用タクシーは快適だね~。アンナちゃんもオリガちゃんも無事だったし、ネウロイも撃退したし、
今日もよく働いたね、こりゃ今夜は酒がうまくなりそうだ」
 裾の端が焦げた服のポケットから、小瓶を取り出すクルピンスキー。
 三人のストライカーはいずれもボロボロ、荷台にごろんと転がされている。直枝の扶桑刀は折れていた。
「って何ポケット瓶の酒飲んでるんだよ!」
 ニパの突っ込みに、クルピンスキーは小瓶を差し出した。
「仲良く一緒に飲むかい? おっと、こうなるとボクと間接キスに……」
「誰が飲むか」
「黙ってないと揺れて舌噛むぞ」
 直枝が短く言う。
「ええっ、ボク達乗り慣れてるじゃないか」
 おどけたクルピンスキーに何も答えず、ぷいと横を向く直枝。
「まあ、向こうの観測員もボク達の戦果確認してるから大丈夫だって」
 気楽に言うクルピンスキーは、小瓶をくいっと呷る。
「大丈夫じゃない。問題だろ」
「ナオちゃんが中型一、共同で一、ボクとニパ君が単独で二ずつ、アンナちゃんとオリガちゃん達と合わせて共同四ってとこかな。上々だね」
「そういうとこだけは良く見てるんだな」
「今日のアンナちゃんはピンクだったよ」
「どさくさ紛れにどこ見てんだエロ伯爵!」
 揺れる荷台の上で“雑談”が続く。
「そろそろ基地だ。言い訳考えといた方が良いぞ、伯爵」
 直枝がクルピンスキーに言う。
「ここは、部隊の長機としてボクに任せて貰おうかな」
 基地が見えてきた。門の前に立っている人影を見て、ニパは青ざめた。
「サーシャ大尉と……ロスマン曹長じゃないか? 二人共怖い顔して待ってるぞ」
「いやー、ボク達の戦いは始まったばかりだね!」
「巻き込んどいてよく言う……」
 呆れる直枝。

 彼女達は、ネウロイが蔓延る最前線で戦う、ブレイクウィッチーズ。
 いつも何かしらピンチだが、助けを借りたい時は、いつでも言ってくれ。

end


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