dip dip dip!


 食卓を前に、不機嫌そうに顔をつきあわせる“大尉”が二人。
「なあ、シャーリー」
「何だよバルクホルン」
「何でお前達の不始末を私が引き受けないといけないんだ?」
「不始末じゃないだろ。パスタ用のミートソースを作り過ぎたから色々使おうって話だよ」
 先日シャーリーとルッキーニが食事当番の時パスタ料理を作った際「たまにはミートソースでも作るか、作り置きできるし」と
盛大に料理をやり始めたら派手に分量を間違え、大量に余ってしまったと言う訳である。
 その“とばっちり”を目の前に、トゥルーデは一言、更なる説明を求めた。
「……それで?」
「へへん。このミートソースは、何にだって応用が利くんだぞ? 例えばこの蒸かし芋」
「わーいお芋~」
「ハルトマンはちょっと黙っていろ。で、どうするんだ」
 芋を前にはしゃぐエーリカ。ほかほかと湯気を上げる蒸かし芋。その横に、ミートソースの皿の横にどんと置くシャーリー。
トゥルーデの疑問にあっさりとシャーリーは答えた。
「ソースつけて食うに決まってるだろ」
 トゥルーデは思わず立ち上がって抗議した。
「待て! 芋は、あくまで芋だけで食べるべきだ。芋の素朴で繊細な風味が損なわれる」
「カールスラントのシチューに、あんたらよく芋を砕いて入れて食べてるじゃないか。あれ何だい」
「そ、それはだな……」
 椅子に座り直す“堅物”大尉。
「まあ良いから試してみなって。こうやって、フォークで刺して、ソースにつけて、食べる! うん、美味い!」
 大袈裟な身振りで、食べて笑顔を見せるシャーリー。
「本当か? 引っかけじゃないだろうなリベリアン」
「嘘じゃないって! なあルッキーニ」
 横に居るルッキーニも同じ様に芋にソースを付けて食べる。
「うん! お芋もソースもシャーリーもおいしい!」
「あはは、ルッキーニはいつも可愛いなあ。ほら、ソースで口の周りがべたべただぞ。拭いてっと」
「ありがとシャーリー。愛してる~」
「ルッキーニは可愛いなあ」
「……おい、話題がずれてきてるぞ」
 呆れるトゥルーデ。
「で、どうなのよ堅物は。ミートソースとの相性は」
「相性……」
「ほらトゥルーデ、あーんして」
「ちょ、ちょっといきなり何だエーリカ!」
 慌てる余り、愛しの人を普通に“ファーストネーム”で呼んでしまうトゥルーデ。
「昨日もこうやって一緒に食べてたじゃん」
 がたっと席を立つトゥルーデ。顔が真っ赤だ。
「あっあれは……あれは……ち、違うんだ」
「何が違うのさ」
「バルクホルンもいちいち面白い奴だなあ。早く食えって」
 にやけるシャーリーとルッキーニ。
「はい、あーん……」
 エーリカがフォークに刺した芋をトゥルーデの口元に持って行く。
「だからそれは……あーん」
 頬を染めながら、結局もぐもぐとソース付きの芋を食べさせられるトゥルーデ。
「どうよ?」
「……悪くない」
「素直に美味いって言えないのかねー」
「私は美味しいと思うよ」
「本当か、ハルトマン?」
 初めてまともな意見を聞けたとばかりに顔を向けるシャーリー。エーリカは一口食べながら感想を言った。
「うん。そうだね、もうちょっと味濃いかスパイシーだともっと良いかもね」
「なるほど、スパイシーか。今度試してみよう。アドバイスサンキュッ」
 上機嫌のシャーリーは笑った。

「そうだ。さっき宮藤にも扶桑料理に何か使えないかさっき聞いといたから、色々な料理で出てくるんじゃないか?」
 シャーリーは皆に言った。
「ふ、扶桑の料理にミートソースか? 例えば?」
「焼き魚にミートソースとか」
「それは……」
「おでんにミートソース」
「うーむ」
「納豆にミートソース」
「良いのか、それは」
「味噌汁にミートソース」
「……それは、やってはいけない気がする」
「肝油にミートソー……」
「既に人間の食べ物じゃないだろう」
「まあ良いからトゥルーデ、食べようよ。はい、あーん」
「あーん……うむ、まあ、食べ慣れると、悪くないか」
「だから素直に『美味い』って言いなって話だよ」
「そうか?」
「はい、ちょっとソース多めね。あーん」
「あーん……ちょ、ちょっと、ソースが頬に付いたぞ?」
「じゃあ……」
 エーリカはトゥルーデの頭を押さえると、ぺろっとトゥルーデの頬を舐め、ソースを“取った”。
「こら、くすぐったいぞ」
 思わずふふっと笑うトゥルーデ。
 そんなカールスラントのバカップルを見ていたシャーリーは唖然とした顔を作った。
「どうしたリベリアン? 私の顔に何かついているか?」
 普通に聞き返すトゥルーデ。
「ソース」
「いまいちなリベリアンジョークだな」
「ジョークでも何でも無いっつうの! 何なんだあんたらは」
「シャーリーも気にしないで、食べよーよ」
 横で様子を見ていたルッキーニがシャーリーに言う。
「おいルッキーニ、また口の周りソースだらけじゃないか。ほら、ちゃんと拭いて……」
「ありがとシャーリー、愛してる~」
 弾ける笑みを見せるルッキーニ、それを見て微笑むシャーリー。二人を見ていたトゥルーデは真顔で言った。
「そう言うお前達は親子みたいだが」
「ぐっ……そう言う表現は止めてくれ」
 エーリカは自分もソース付きの芋をぱくっと食べて言った。
「まあ、良いじゃん。好きに食べれば」
「ま、そうだな」
「そうそう。特にこう言う非番の日はね」
「いつネウロイが来るか分からんのに……」
「食べとかないといざという時動けないって言ってたのトゥルーデだよ」
「……そう言えばそうだ」
「一人ボケツッコミって珍しいな堅物」
「ほらトゥルーデ、あーんして」
「あーん……じゃあエーリカも……」
「あーん」
 シャーリーは頬杖をついて言った。
「あんたらもあれだな、何気に強気だよな」
「強気?」「何で?」
 同時に聞かれて苦笑いするシャーリー。
「二人共自覚なしって時点で、あたしはもう何も言えないよ」
 先日からの“癖”が抜けず、トゥルーデもエーリカも麻痺しているのかも知れない。
 でも、幸せそうに食べ合う二人を見ていると……すっかり変わったなと感じるシャーリー。
 一時期トゥルーデの事を「気を張り過ぎ」だと感じていたが、今の二人を見る限り心配なさそうだ。
「どうしたシャーリー。私の顔を見てニヤニヤして」
「いや。バルクホルンは面白い奴だと思ってさ」
「何? どう言う意味だ」
「ほらトゥルーデ、続きの一口だよ、あーん……」
「あーん……」
「シャーリー、あたしにもあーんして」
「はいはい、ほら」

 食堂の入口では、ミーナと美緒が二組の様子を見て、このまま食堂に入っていいものか躊躇っていた。
「あの子達……ちょっと……どうしましょう、美緒」
「ふーむ。仲が良いのは良いが……なら私達もやってみるか?」
「えッッッ!!!?」
「冗談だ。何をそんなに驚いてるんだミーナ」
「もう……」

 こうして、のんびり朝のひとときは過ぎて行く。

end



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