Kärsimättömyys(焦り)


「え、私がか?」

-正直な話、私は素直に彼女の事を心から祝福できなかった…。

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン少尉、貴官を第501統合戦闘航空団への転属を命じる」
「はい!」

陽が出ているというのに寒い風が吹いているこの日、朝礼にて全隊員の前でそう辞令が言い渡された。
しかし、その中に1人だけうつむきながら拳を握りしめて震えてる人物がいたのだ…。
彼女の名はニッカ・エドワーディン・カタヤイネン。

「くそっ…なんでイッルなんだよ…っ!!」

そして列の外に立っていた、彼女の姉のような存在であるエルマはその瞬間を見逃さなかった。


***


「ニパさん」
「エル姉…?」

朝礼が終わり、自室へ戻ろうとしていたニッカをエルマは呼び止めた

「あのですね…あの~ぅ…」
「…ごめん、エル姉。今部屋に帰ってやる事があるんだわ」
「あのっ!!…私の部屋の模様替え、手伝ってくれませんかっ??!!」
「…はぁ?」
「あのですねぇ…カーテンの色を変えたりだとか、タンスをですね…ちょっとずらしたいんですよ」
「…今じゃなきゃムリ?」
「ムリダナ…です」



「で、なんだ。このタンスを移動させれば良いのか?」
「えぇ!」
「じゃあ持つぞ、エル姉もちゃんとそっちを持ってくれ!」
「はいっ!」
「せえのっ!!!」

2人はエルマの部屋へ行き、タンスの移動やカーテンを替えるなどの作業を行った。

「ふう…これで良いか?」
「はい、ありがとうございます!」
「じゃっ」
「まっ、待ってください!」
「ん?」
「お礼に、ちょっとココアでも飲みませんか?」

エルマが既に2つのマグカップにお湯を注いでいた


「…わかった、いたただきます」
「めしあがれ」

2人は無言でココアを啜った...

「はぁ………なんかエル姉のココアって落ち着く」
「そうですか?…昔から『お前のココアは美味しい』と言われた事があるんですよ」
「へぇ…」
「………」
「………」
「………あの、ニパさん」
「ん?」
「エイラさんと何かあったんですか?」
「何かって…?」
「その……何かです!」
「いや、特に何もないさ…」
「じゃあなんで朝礼の時に…」

そして静寂が2人を包んだ…。

「…見てたんだ」
「ごめんなさい」
「別に謝らなくて良いよ…」
「でもぉ…」
「…エル姉ってさ」
「はい?」
「その…何だっけ、『ダメっ子中隊』だっけ?」
「『いらん子中隊』です…いや、義勇独立飛行中隊ですっ!」
「…そこにさ、ライバルっていた?」
「ライバル…ですか?」
「うん。『コイツだけには負けられねえ!』みたいな」
「う~ん…無かったですね」
「…だからゆとりは」
「なっ!?わっ、私にだってですねえ」
「ごめんごめん…あっちはどう思ってるかわからないけど、私にとってイッルはライバルなんだよ」
「親友じゃないんですか?」
「エル姉、ちょっと黙ってて!今からそれ言うから」
「ごめんなさい…」
「…確かにライバルでもあり親友さ。でもさ…他の部隊に転属って…な~んか先を越された感じがして…」
「………でもニッカさんはエイラさんより」
「あ~!皆まで言うな!!わかってる!イッルに比べて私は劣ってるさ、何台もストライカーは壊すさ!それに比べてあっちはマンネルヘイム十字章を受勲してる!でもなあ…なんか…なんだかなあ…」
「寂しくはないんですか?」
「それが不思議で、居なくなる事より先を越されたって気持ちの方が大きくてさ~」
「…ココア、冷めちゃったのでも一回温め直してきますね」

とニッカのマグカップを手に取り、ミニキッチンスペースへと向かうエルマ。
ニッカを背に、エルマは湯煎をしながら話しかける...

「…今のは聞かなかった事にします」
「へ…?」
「そんなニッカさん…私は知りません」
「ちょっ、エル姉!」

-思えばこんな強気のエル姉は初めてだ。というか、怒ってる…?

「結局、出世したいんですか?」
「ちょっ…そうゆう意味じゃ」
「じゃあ何ですか?ストライカーを何機も壊して昇進出来ると思ってんですか?!それでもエイラさんと同等に評価されたかったんですかっ??!!」
「………グスッ」

知らぬ間にニッカの頬には涙が流れていたのだ...

「………私は…嫌です、人の幸せを妬むニッカさんだなんて」
「え…っ?」
「だって親友なんでしょう?笑顔で送り出さなくちゃ…ですよ?」

いつの間にかエルマはティッシュ箱を笑顔で差し出す

「ごめんなさい、こんな落ちこぼれの私に言われたくないですよね?」
「そっ…そうだぞっ!なのになんで…っ!グスン」
「でもこれだけは言いたかったんです、これで2人がギスギスしたら…嫌だなって。見てる方もツラいんですよ?」
「エッ…エル姉」
「…私も過去に『いらん子中隊』のメンバーの一員でした。今ではほとんどのメンバーはスオムスを離れ、活躍してます。
確かに、私はスオムスの軍に所属しているからかもしれませんが今も昔もな~んにも変わりません。でもですね、みんな『親友』だから他人の成功を妬まない。
一度、とあるメンバーがスコアを稼ぐのに必死だった時があって…後に本人は考えを改めました。そんな時に『お前のココアは美味しい』って言ってくれました。
それを聞いた時、頑張ろうという気持ちになったんです!」
「………」
「正直、階級やスコアだなんてオマケです」
「言うねえ、エル姉…」
「そうゆうのは後から付いてくるモノなんですよ。だから…ニッカさんも早く、エルマさんと肩を並べられるように頑張ってください」
「……ありがとう。なんかモヤモヤがすっきりした」
「いいえ、それで晴れたらのなら嬉しいです」




-それから私は頑張った。泣きそうになったけどイッルをブリタニアへ送り出した。数カ月後、カールスラント奪還を主任務とする
第502統合戦闘航空団を構成するメンバーに選抜されたのだ。今思えばエル姉のあの一言が無かったらこの話は無かったのかもしれないのだ。

「スコアなんてオマケ…か」

-そうして私は新しく配属された基地の外へ出て、青空を拝みながらそう呟いた。



【END】


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