キスとワインと催眠術


「天姫……んっ」
「な、中島さん……んんっ」
触れ合う唇と唇。
私、諏訪天姫は今、幼馴染で親友の中島錦少尉と熱い接吻を交わしています。
なぜ私達がこんな事をしているのかと言うと、事の発端は今から数十分程前に遡ります……

―――――――――――――――――――――

「誕生日おめでとう!」
今日我が第504統合戦闘航空団では、誕生会が開かれていました。
ドッリオ隊長の提案で、今月が誕生日のアンジェラさん、フェルナンディアさん、
そして、中島さんの3人をまとめて祝うことになりました。
隊のみんなで、誕生日プレゼントを渡したり、ジェーン大尉とルチアナさんが作ったケーキをみんなで分け合って
食べたりして、誕生会は大いに盛り上がったのですが……

「大将! みなさんに何飲ませてるですか!」
「何ってワインだが」
私とジェーン大尉とルチアナさんが誕生会の後片付けを終え、談話室に戻るとなんとドミニカ大尉が
みなさんにワインを飲ませていました。
ドミニカ大尉に無理矢理飲まされたのか、普段は大人しいアンジェラさんまですっかり酔っ払ってます。
「あ、あの~ドッリオ隊長と竹井大尉は?」
「2人なら書類の記入があるとかでミーティングルームのほうに行ったよ。それより、ジェーン達も飲まないか?」
「飲みません! 大将ったらまったくもう……きゃっ!」
あわわ、なんと酔ったフェルナンディアさんとアンジェラさんがジェーン大尉に抱きついちゃいました。
「ふふっ、ジェーン大尉って暖かいわね……」
「本当、暖かいな」
「はうっ、ふ、2人ともく、苦しいですぅ」
「は、早くジェーン大尉を助けないと……」
「よしっ、私に任せろ~」
そう言って、酔ってる中島さんがポケットから取り出したのは、糸で吊り下げられた古い硬貨。
「な、中島さん! それはまさか……」
「フフ、扶桑陸軍の秘技・催眠術!」
それはまだ陸軍でも研究段階なのに、私がそう言って止める前に中島さんはアンジェラさん達の目の前で
振り子をゆっくりと振り始めました。
本当に大丈夫なんでしょうか。


「随分賑やかね。みんなどうしたの?」
中島さんがしばらく振り子を振っていると、そこに竹井大尉がやってきました。
えっと、今のこの状況をどう大尉に説明すればいいんでしょう。
「……竹井」
ずっと振り子を見ていたフェルナンディアさんは竹井大尉を見ると否や、
抱きついていたジェーン大尉から離れな、なんと竹井大尉の口元にキ、キスを……!
「中島さん! フェルナンディアさんに一体どんな催眠術をかけたんですか?」
「どんなって、普通にジェーン大尉から離れるように念じたんだけど、失敗だったかな」
「いや、ある意味成功じゃないか。結果的にフェルはジェーンから離れたわけだし」
「うんうん。なんだか面白くなってきたし、結果オーライ」
と、ニヤニヤ顔で2人の様子を見守るドミニカ大尉とパティさん。

「竹井……んっ」
竹井大尉の唇に一層深い口付けを落とすフェルナンディアさん。
なんだか見ているこっちが恥ずかしくなってきます。
「んっ……ふぅ」
――数分後、竹井大尉から離れたフェルナンディアさんは、満足げな表情で眠りに就いちゃいました。
「あらあら、フェルったら随分と大胆ね。じゃあ、私はフェルを連れてくからみんなもお酒はほどほどにね?
それじゃ、おやすみなさい」
竹井大尉はそう言って悪戯っぽく笑うと、フェルナンディアさんをお姫様抱っこして連れてっちゃいました。
ていうか、いくらなんでも動じなさすぎですよ竹井大尉。
「……さすが竹井大尉ですね。『リバウの貴婦人』の異名は伊達じゃありません」
と、感心したように呟くルチアナさん。
「うんうん。あれ? アンジーったら、いつの間にかジェーンから離れてパティのところにいるけど、
何してるんだろ?」
マルチナさんの言う通り、いつの間にかジェーン大尉から離れていたアンジェラさんは、
今度はパティさんに抱きついていました。
「……パティ」
「わわっ! どうしたの? アンジー」
「パティ……んっ」
「ふぇ……ア、アンジー……んっ」
あわわ、アンジェラさんは先ほどのフェルナンディアさんと同じように自分の唇をパティさんの唇に重ねちゃいました。
「ほう。アンジーも中々大胆だな」
「……ドミニカ」
「ん? どうした、ジェーン?」
「ドミニカ、はぅんっ……」
なんと、フェルナンディアさんとアンジェラさんに続き、ジェーン大尉までもがキス魔になっちゃいました。
「中島さん! なんで、ジェーン大尉にまで催眠術をかけてるんですか!」
「ごめん、間違えた」
「間違えたって……どうするんですか? この状況」
「別にどうもしなくていいんじゃない? みんなまんざらでもなさそうだし」
「うん。それにドミニカ大尉達は普段とあまり変わらないような気がしますし」
にこやかな表情でそう言う赤ズボン隊の2人。
なんだかこの状況を楽しんでるようにも見えます。

「それにしても、催眠術ってすごいね。ぼくもやりたい~」
マルチナさんは、目をきらきら輝かせながら振り子を取ると、それを中島さんの前で振り始めました。
「うわっ、やめろ、マルチナ……うっ、ん……」
振り子を見ていた中島さんは段々と眠たそうな表情になっていき、ゆっくりと私のほうに迫ってきました。
「な、中島さん?」
「天姫……ぅんっ」
「中島さん……んっ」
――こうして、私の唇は中島さんに奪われちゃいました。

―――――――――――――――――――――


「天姫……んっ」
「な、中島さん……んんっ」
それから、どれくらいの時間が流れたんでしょうか。
5分くらいしか経ってないのかもしれませんし、ひょっとしたら30分以上経ったのかもしれません。
とにかく、時間の感覚が麻痺するくらい中島さんの唇は柔らかくて、暖かったです。
彼女の唇があまりにも暖かったから、なんだか、眠くなって……きちゃいました……

―――――

「んっ……」
「あ、目が覚めましたか? おはようございます」
「ルチアナさん……ここは?」
「談話室ですよ。みなさん、昨日はここで眠っちゃったんです。その……キスしたあとに」
私が周りを見渡すと、隣には中島さん、少し離れたソファでドミニカ大尉とジェーン大尉、
アンジェラさんとパティさんがそれぞれ仲良さげに眠っていました。
「そっか……昨日私、中島さんとキ、キスを……」
あわわ、なんだか思い出しただけでも恥ずかしくなってきました。
「昨日はマルチナがごめんなさい。中島さんに、催眠術をかけちゃったりしちゃって……」
ルチアナさんが自分の足元で眠っているマルチナさんを見ながら、困惑した表情で私に謝ってきました。
「気にしないでください。最初に催眠術を使ったのは中島さんですし……それに、」
「それに?」
「いつもと違う中島さんが見れて、私は嬉しかったです」
私は、隣で可愛らしい寝息をたてて眠っている中島さんの頬をつつきながら、笑顔でそう応えました。

~Fin~


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