一生一緒?
――ある日の午後、基地のミーティングルームにて
「リーネちゃんとだったらいくらでも合体するもん」
「よ、芳佳ちゃん! 嬉しい!」
「しかし、これで戦うのもなかなかできることではない。もはやお前たちの得意技と言えるかもしれないな」
「「うふふふ」」
その日、芳佳、リーネ、トゥルーデの3人は司令部から届いた映像記録、
すなわち、第501統合戦闘航空団のウィッチ達の戦いの軌跡を鑑賞していた。
今3人が観ている映像は、かつてアンナの訓練施設に現れたネウロイを芳佳とリーネが連携を用いて応戦しているときのもの。
トゥルーデにも自分たちの合体技を褒められた芳佳とリーネは思わず顔を赤らめてしまう。
(なんでだろう……芳佳ちゃんと一緒ならどんなネウロイが相手でも勝てる気がするよ)
(リーネちゃんと一緒なら私、今まで以上にみんなを守れる気がする)
無言で見つめあいながら、芳佳とリーネはお互いのことを考えていた。
「あー、2人ともそろそろ戻ってきてくれないか」
すっかり自分たちの世界に入ってしまった芳佳とリーネを見たトゥルーデがぽつりと呟く。
「「あっ! す、すみません!」」
トゥルーデの一声でハッと我に返る2人。
(やれやれ……2人とも一瞬、私の存在を忘れてたんじゃないか?)
トゥルーデは、心の中で溜息をついた。
――それから十数分後、洗濯物を干しに行ったリーネと入れ替わりにシャーリーがミーティングルームにやってきた。
トゥルーデと芳佳はシャーリーを交え、3人で映像記録の続きを鑑賞していたのだが……
「まったく、新鋭機に踊らされるとはバルクホルンらしくない」
新型のジェットストライカーを装着し飛行しているトゥルーデの映像を観たシャーリーが、いつになく真面目な口調で言う。
「あぁ……自分でも痛感している。これでは宮藤に説教もできんな」
シャーリーの言葉を受け、かつての自分の行動を反省するトゥルーデ。
「ジェットストライカーでしたっけ……凄い性能でしたけど……」
「くっくっくっ、ユニットの性能で自分が強くなったと勘違いするなんて、新兵みたいだな!」
今度はからかうような口調でそう言うシャーリー。
それを聞いたトゥルーデも思わずムキになってしまう。
「う、うるさいぞ! いつまで言うつもりだ!」
(本当にこいつはいちいちムキになっちゃって……可愛い奴だな)
そんなトゥルーデの反応を可笑しく思ったシャーリーは、つい本音を漏らしてしまう。
「ふふーん、こんな面白いことやめてたまるか。一生言い続けてやるぞ」
「く……っ!」
一瞬、2人の間に流れる沈黙。
(あ、あれ? あたしったら何言ってるんだろ)
(い、一生だと!? シャーリーの奴、いきなり何を……)
何気なく口から出てしまった「一生」というフレーズに困惑するシャーリーと、
思わず顔を赤らめてしまうトゥルーデ。
(ふふ、このふたり、おばあちゃんになってもこうなのかな?)
そんな2人の様子を心の中で微笑ましく思う芳佳であった。
――数十分後、トゥルーデとエーリカの部屋
「一生だなんて、シャーリーの奴……いや、深い意味はないのかもしれん。だが……」
映像鑑賞を終えた後、自分の部屋に戻ったトゥルーデは、部屋を行ったり来たりしながら
先ほどのシャーリーの発言について考えていた。
「まさかあいつは、私とずっと一緒にいたいのか……? いいや! あいつのことだ、きっと私をからかっているだけだ。
うん、そうに違いない」
トゥルーデはそう自分に言い聞かせ、椅子に腰掛けた。
「リベリアンの気まぐれな発言に振り回されるなんて、まだまだ修行の足りない証拠だ。
そうだ! 明日以降の訓練のスケジュールでも立てるとしよう」
シャーリーの何気ない発言に心を乱されたのは、自身の修業が足りないからだと自分の中で結論付けたトゥルーデは、
精神を鍛えるため、明日以降の訓練のスケジュールを立てることにした。
しかし……
『ふふーん、こんな面白いことやめてたまるか。一生言い続けてやるぞ』
『おまえに礼なんて言われたら、逆に気持ち悪いぞ!』
『別にいつでも触っていいんだぞ? ほれほれ、ほれほれ』
「ああ! なんでお前が出てくるんだ!」
どういうわけだか、スケジュールを組む作業もシャーリーのことが気になって全く進まない。
トゥルーデは、自分の中のシャーリーを必死に振り払おうとするが、考えれば考えるほど余計に意識してしまうのであった。
「トゥルーデー、うるさいんだけど」
ジークフリート線の向こうで眠っていたエーリカも相方の様子がおかしいことに気づき、目を覚ます。
「何かあったの?」
「な、なんでもない」
「いきなり大声出しといて『なんでもない』はないんじゃないの? 私たちパートナーなんだからさ、
何かあるんなら話してよ」
エーリカが、屈託のない笑顔でトゥルーデの顔を覗き込みながら言う。
「……そうだな。お前には話すよ」
エーリカの無邪気な表情を見て、気持ちの落ち着いたトゥルーデは先ほどのシャーリーとのやり取りを話すことにした。
「ふ~ん、『一生言い続けてやる』ねぇ……」
「まぁ、あいつのことだから半分冗談だとは思うが」
「トゥルーデはさ、それを聞いた時、どう思ったの?」
「う、それは……」
エーリカの思いがけない問いに一瞬口ごもるトゥルーデ。
「その……あいつとこれから先もずっと、そうやってくだらないことで言い争ったりするのも悪くないと思ってしまった」
しばらく間を空けた後、トゥルーデはゆっくりと口を開いた。
それを聞いたエーリカも思わず顔がほころんだ。
「えへへ、私もトゥルーデとシャーリーがくだらない話で盛り上がったり、笑いあったりしてるとこ、ずっと見てたいかな。
もちろん、ネウロイがいなくなって平和な世の中になってもずっと……だって、私たちはミーナの言うように『家族』なんだから」
「エーリカ……」
「それじゃ、行こっか」
「行くって、どこに?」
「シャーリーんとこに決まってんじゃん。ほら、行くよ」
「こ、こら! 引っ張るな」
――同じ頃、シャーリーとルッキーニの部屋
「あたし、なんであんなこと言ったんだろ」
ベッドの上で大の字になりながらシャーリーはぽつりと呟いた。
(一生言い続けるだなんて……あたしはあの堅物とずっと一緒にいたいんだろうか? う~ん……)
「シャーリー、どったの?」
エーリカ同様、自分の相方の様子がいつもと少し違うことに気付いたルッキーニが、心配そうな表情でシャーリーの顔を覗きこむ。
「なぁ、ルッキーニ」
「なに、シャーリー?」
「ルッキーニは……あたしとずっと一緒にいたいか?」
「うん!」
シャーリーの問いかけに即答するルッキーニ。
「随分即答だな」
「だってあたし、シャーリーのこと、大好きだもん! 好きな人とずっと一緒にいたいと思うのは当たり前のことでしょ?」
笑顔でそう応えるルッキーニにシャーリーも思わず笑みがこぼれる。
「あはは! そうだよな。好きな奴と一緒にいたいって思うのは当たり前のことだよな。
よし! じゃあ、バルクホルンんとこに行ってくる」
シャーリーはベッドから立ち上がり、部屋の扉を開けると、そこにはトゥルーデとエーリカが立っていた。
「あっ」
「おっ、ちょうどいいところに。2人ともどうしたんだ?」
「トゥルーデがシャーリーに話があるんだって。ね、トゥルーデ?」
「あ、ああ……その、だな……シャーリー。さっきの件なんだが」
「へ?」
「さっきお前は『一生言い続けてやる』と私に言っただろ? それはつまり、私とずっと一緒にいたいということなのか?」
トゥルーデが頬を染めながらシャーリーにそう尋ねる。
「え、えっと……」
「少なくとも私は、お前とずっと一緒にいたいと思う……親友として、家族として」
「……参ったな。あたしも同じこと言おうと思ってたのに」
「え?」
シャーリーは顔を朱に染めてるトゥルーデを、そっと抱き寄せる。
「お、おい! シャーリー……」
「あたしもあんたと気持ちは同じ。あんたやルッキーニ、501のみんなとずっと一緒にいたいと思ってるよ」
「わ、分かったから離してくれ……」
「遠慮するなよ。あたしの身体は暖かいだろ? ほれほれ」
「あ、ああ……悪くない」
「ねぇ、ハルトマン。なんだかあたし達蚊帳の外みたいじゃない?」
「う~ん、そうだねぇ……私たちもシャーリー達にハグしちゃおっか?」
「それ賛成! シャーリー、えいっ!」
「ル、ルッキーニ!?」
「トゥルーデー! えいっ!」
「うわっ! エ、エーリカ!?」
ルッキーニがシャーリーに、エーリカがトゥルーデにそれぞれ背中から抱きついた。
「よ、芳佳ちゃん、なんだかすごいことになってるね」
「バルクホルンさん、いいなぁ。シャーリーさんのおっぱいを……」
そんな4人のやりとりをたまたま傍から見ていた芳佳とリーネ。
「ねぇ芳佳ちゃん、私たちも……ずっと一緒だよね?」
リーネは芳佳の手をとり、彼女の顔を覗き込みながら言った。
「うん! 私たちもずっと一緒だよ! リーネちゃん」
芳佳もリーネの手を握り返し、笑顔でそう応えるのであった。
~Fin~