trick blade II


「とりっく おあ とりーと!」
「そうそう、そんな感じですよ皆さん。そうやって聞いて回るんですよ」
 基地の敷地内で子供達に教えて復唱させ、うんうんと頷くジェーン。
 絵本に出てくるいかにもな魔女っぽい服を着てやる気十分だ。
 この日504では、欧州やリベリオンで風習となっている行事を、住民との親善目的で(かたちだけでも)やろうと言う事になり、
当日、基地の片隅に近隣の子供達を招いていた。
 子供担当は、お国柄ハロウィンに詳しいだろう……と言う事でドミニカとジェーンに任されていた。
 熱心なジェーンに比べて、ドミニカは普段の格好のまま、ガムを噛んだりぷーと膨らませたりで、それだけでやる気の無さを体現している。
「お姉ちゃん、ガムふくらませるのうまい!」
「ちょっとしたコツが要るんだ。……ほれ、お菓子持ってきな」
 話し掛けて来た子供にお菓子をぽいっと寄越すドミニカ。
「わーいありがとー」
 えっと驚いたジェーンに、ドミニカは気怠そうに促した。
「さっさとお菓子やらないと」
「大将何言うですか! いきなりハロウィンの核心と言うかお楽しみに迫ってどうしますか!?」
「いいから。ほれ、持ってきな」
 ジェーンが持っていた飴玉やらお菓子やらを、手近な子供達にほいほいと与え始めるドミニカ。
「あ、ちょっと大将……」
「わーいありがとーおねーちゃん」
「いい子にするんだぞー」
 いつの間にか配給に並ぶ行列に様変わりし、お菓子が全員に配られる。
「あー、ハロウィンが終わる……」
 ドミニカは、悲観に暮れるジェーンを気にする事なくお菓子をあっという間に配り終わった。
「さ、気を付けて帰れよー」
「はーい」
 子供達は貰うものだけ貰ってさっさと帰ってしまった。これには、傍から様子を見ていた醇子も驚いた顔をする。
「ねえ。ハロウィンって、こんなあっさりした行事なの?」
「違うんです! 違うんです! もっとこう、雰囲気のあるものなんです!」
 魔女衣装のジェーンが抗弁する。
「おかしをくれないといたずらするぞ~、って、練り歩くんです! それで、家々を回ってですね……」
 抗弁ついでのジェーンの説明を聞く醇子は、思わず呟いた。
「へえ、面白いわね。扶桑の『なまはげ』みたいなものかしら」
 一瞬の間。
 ドミニカとジェーンは顔を見合わせた。『ナマハゲ』なる物体については知る筈も無かったが、二人共直感的に
「多分違う」
 と口を揃えた。
「まあ、お菓子配るだけってのも、なんかね。来年はもう少し面白くなるといいわね。じゃ、後宜しくね」
 醇子はそれだけ言って、現場を後にした。
「ああ……竹井さんまで……。大将どーするんですか! 竹井さんにまで呆れられちゃったじゃないですか!」
「別になあ。無理にやっても」
「そんなあ……」
「じゃ、部屋戻るぞ」
 後片付けをさっさと済ませ、部屋に戻るドミニカ。ジェーンは一人おいてけぼりにされ、ぼそぼそと残った飾り物を片付けた。

 一仕事終え、部屋に戻り、扉を閉めるジェーン。何故か虚しさが残る。魔女の帽子を脱ぐ。
「もっと、本当は楽しいんです、ハロウィン」
 ぽつりと呟き、所在なさげに、ベッドに腰掛ける。どうしてこんな結果に、と後悔が残る。
「何で、大将はあんな……」
「うぼわぁ!」
「ぎゃーーーーーッ!!!!」
 部屋の隅から突然現れ奇声を発した謎の物体を見、思わず悲鳴を上げるジェーン。
 口を塞がれ、そのまま部屋のベッドに押し倒される。
「たったすけ……、あれ? この匂い。もしかして、たいし……」
「もうバレたか」
 被っていたフードとマスクを外し、何処から持って来たのか、黒のマントをぽいと投げ捨てるドミニカ。
「私の体臭で気付くなんて、ジェーンもなかなか成長したな」
 にやりとするドミニカ。
「それは……私達二人して同じ石けんとか使ってるから……って何言わせるんですか恥ずかしい!」
「まあ、それは良いとして」
「良くないです! てか何やってるですか! そう言う事は子供達相手にした方がいいです! 何で私おどかして! ……え?」
「……」
 ぼそっと耳元で呟くドミニカ。聞き取れず首を傾げるジェーン。
「大将? 今なんて?」
 今度ははっきりと、聞こえた。
「今からお前に、いたずらを、する」
「え、えええええ!? ちょ、ちょっと待って大将、心の準備というか普通お菓子とか色々聞いたりてかも何も、うっ……」
 唇を塞がれる。
 濃厚なキス。
 絡み合う手。抗えない身体。しゅるりと脱がされる服。
「まさか、大将……」
「せっかくのハロウィンなんだ、私達が楽しまないでどうする」
「それで、子供達をさっさと帰して……」
「さあ、続きを」
 ジェーンにそっと口付けしたところで、部屋の扉が勢い良く開いた。
「さっきの悲鳴、何……って、あんた達何やってんのよ」
 部屋の扉を蹴破って入ってきたのはパティ。ジェーンの悲鳴を聞いて何事かと駆け付けたのだ。
 だが、目の前で起きている事と言えば……、控えめに言って“おしどり夫婦”がベッドの上でいちゃついている、それだけ。
 パティは眉間に皺を寄せた。改めて問い質す。
「で、これは何の騒ぎ?」
 ドミニカはそんなパティに事もなく言った。
「ハロウィンだ」
「はあ? 何そのリベリアンジョーク。笑えな~い」
 しばし唖然としていたパティだが、ベッドの上でそのまま絡み合う二人に見つめられ……
「全く……」
 とパティはぶつくさ言いながら部屋から出て、扉を閉めて行ってしまった。
「ちょ、ちょっと大将……」
「何か問題でも?」
「パティさん呆れてましたよ」
「別に、構わないさ」
「そんなあ……」
「さ、続きだ」
 結局、その日二人は部屋から出てこなかった。

end


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