Embrace


――11月11日、深夜

「ちょ、ちょっと! 下ろしてよ、ニセ伯爵!」
「う~ん、それはできない相談だね」
足をバタつかせ、必死に抵抗しても私を抱き上げるその腕はびくともしない。
時刻は22時を少し過ぎた頃、私は今自分より一回りも大きいニセ伯爵に、抱えあげられている。
いわゆるお姫様抱っこ状態。
「ねぇ、ちょっと恥ずかしいんだけどっ……」
「恥ずかしがることなんてないよ。ボク達、恋人同士なんだから」
「い、いつから恋人同士になったのよ!」
「あれ? 違ったっけ」
伯爵が少年のような笑みを私に向けてくる。
う、ちょっと格好良いじゃない。

「さ、着いたよ」
お姫様抱っこされた私が連れてこられたのは、伯爵の部屋。
彼女は部屋の扉を開けるや否や、私をベッドに座らせ、私の唇に自分の唇を寄せてきた。
「んっ……は、伯爵……」
重なり合う唇と唇。
私の胸の鼓動が激しく脈を打つ。
なんであなた、こんなにキスが上手いのよ……
「んっ……はぁ」
数分後、私の唇はようやく伯爵から解放された。
「な、なんで……いきなり、こんな事っ」
私は胸をドキドキさせながら、伯爵の顔を覗く。
「君からこんな素敵なプレゼントを貰ったら、ボクだってその気になっちゃうよ」
頬を紅潮させた伯爵が微笑みながらそう言う。
彼女の右手の薬指には私が今日プレゼントした銀色の指輪が光っていた。
「エディータは、エッチなボクのこと嫌いかい?」
伯爵が――ヴァルディが、上目遣いで私に訊いてきた。
普段は見られない彼女の可愛らしい表情を見て、私の胸の鼓動は更に勢いを増す。
その表情、反則よ……
「……馬鹿、嫌いな相手に指輪なんてプレゼントするわけないでしょ」
「そう、良かった」
ヴァルディはほっとしたような表情を浮かべると、白魚のように綺麗な指で私の太ももをそっと撫でてくる。
「ひゃ……っ」
「綺麗だよ、エディータ」
「……その台詞、今まで何人の娘に言ってきたのかしら」
「君が初めてだよ」
ヴァルディがいつもの伯爵スマイルで悪戯っぽく笑う。
その笑顔を見てたら私も思わず吹き出してしまう。
「ふふっ、嘘ばっかり」
私は、さっきの仕返しとばかりにヴァルディの唇に口付けを落とす。
「んっ……エディータもエッチだね」
「……だって、ヴァルディが格好良かったから」
本当、いい加減でだらしがなくて、すぐ女の子を口説いたり、ハルトマンに変なこと教えたり、
おまけに出撃の度にストライカーユニットを壊すどうしようもないヤツなのに、
私のヴァルディへの想いは、日に日に強くなっていくばかりだった。
「本当、馬鹿みたい」
私はヴァルディの顔を見ながら、そっと呟く。

「ボクがかい?」
「ううん、あなたのことをどうしようもないくらい好きになっちゃった私が」
私は今日3度目となるキスをヴァルディと交わす。
「んっ……好きよ、ヴァルディ」
「本当にこんなボクでいいのかい?」
「……あなたじゃないと駄目」
「ありがとう。ボクも大好きだよ、エディータ」
ヴァルディはそう微笑むと、軍服のボタンを一つ一つ外し、服を脱いでいく。
「ちょ、ちょっと! 何で脱いでるの?」
「何でって、エディータを肌で感じていたいから」
服を全部脱ぎ終えたヴァルディが、今度は私のズボンに手をかけ、それを脱がし始めた。
「ば、馬鹿! なんでズボンから脱がすのよ!」
私は軍服の裾を引っ張って恥ずかしい部分を隠そうとするも、ヴァルディにあっさりと払いのけられてしまう。
「こっちのほうがいやらしい感じがするからね。いいね、その恥じらってる表情。可愛いよ」
ヴァルディはそう言うと、私のお尻をゆっくりと撫で始めた。
「ひゃぁんっ……へ、変態」
「その変態さんを好きになっちゃったのはどこの誰だったっけ?」
「そ、それは……ひゃっ」
「ははは、エディータは本当に可愛いな……上も脱がしていいかい?」
ヴァルディは、私の返答を待たずに軍服に手をかけ、それを器用に脱がしていく。
「愛してるよ、エディータ」
私はヴァルディにぎゅっと抱きしめられる。
お互い、何も身に付けてない状態で触れ合う素肌と素肌。
その感触が妙に気持ち良くて……
「……ヴァルディ、暖かい」
私はヴァルディに抱きしめられたまま、深い眠りに落ちていった……

「んっ……」
「やあ、おはようエディータ」
「お、おはよう……」
私が目を覚ますとすでにヴァルディは着替えを済ませていた。
いつもは私のほうが早起きなのに、珍しいこともあるものね。
「君の着替えはそこに畳んであるよ。早く着替えて定ちゃんの朝ごはん、食べにいこ」
「え、ええ……」
私は、ヴァルディが丁寧に畳んでくれた軍服に袖を通し、ズボンを穿いてる途中であることを思い出す。
「ねぇ、あなたに昨日プレゼントした指輪なんだけど」
「ああ、これ? 大丈夫、ちゃんとはめてるよ」
「実はそれ、ペアリングなの。その指輪、これからもずっとはめててほしいの……私もはめるから」
私はポケットの中からヴァルディとお揃いの指輪を取り出し、それを自分の薬指にはめる。
「ははは、これでボクたち、晴れて恋人同士だね」
ヴァルディが伯爵スマイルで悪戯っぽく笑いながら言う。
「……浮気しないでよね」
「しないよ。こんなに素敵な恋人がいるんだから。じゃ、食堂に行こっか」
「うん」

今日の朝食は何だろう――私はそんなことを考えながら、ヴァルディと一緒に部屋を後にした。

~Fin~


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