ヘルマの決断前夜
コンコン...
「はい?」
ここはとある病院の、とある病室の前であります。
…申し遅れました、「夜の」ヘビー級マッチ連戦連敗のヘルマ・レンナルツであります!(ビシッ
ガラガラッ...
「失礼するでありま~す」
「あ、ヘルマ!」
私の顔を見た瞬間に笑顔が溢れる、この目の前にいる人物。
この娘の名はクリスティアーネ・バルクホルン。
そう、あのバルクホルン大尉の妹さんなのです!!!!
当初、バルクホルン大尉に少しでも近づくために…と接触したのですが、お互い同世代の友人が少なかったせいかすぐに意気投合!今では「友達」になったであります!
「どうしたの?ボーっとして」
「…はっ!これ、お土産」
「わあ!何~?開けて良い~?」
イエスを言う前に開けるクリス…
そう、この娘は大尉と違って「おてんば」なのであります。
「わあ!ヨックモックだぁ!」
「甘いものは大丈夫…でありますか?」
「うん!むしろ好き~!!」
「良かったでありますぅ~」
あげたお菓子を頬張りながら談話する私とクリス。
すると、こんな話題に。
「あ、そうだ!ヘルマ、『ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ』って知ってる?」
「あぁ…えと、アフリカで活躍してる人でありますか?」
「そう!あのさ………ヘルマの力添えで、会えない…かな?」
「…無理ですね」
「えぇ~!」
「そもそも、私はまだそんなコネが使える身分じゃありませんっ!」
「そこをなんとか!!ゴリ押しでっ!!!」
「無理ダn…無理でありますっ」
「ヘルマのケチ~」
少々、不貞腐れながらクリスはお菓子を頬張ったであります。
…と言うか、何袋目でありますか?!さっきまであんなに箱いっぱいお菓子があったのに…
「そもそもですね…私、そのマルセイユ大尉自体あまり…その」
「バカ!カールスラントを代表する人物だよ?!」
「いやあ、いくら同じ軍所属と言ってもまだそんな面識が………今、バカって言ったでありますか?!」
「『アフリカの星』って言われてるのにそんな事も知らないの?!」
「今私のことをバカって…っ」
「まあ実物を見た方が早いか」
「実物?そんな事より、さっき私を…」
「ジャジャーン!」
「うわあ!?」
クリスはいつの間にかベッドの下からどデカいアルバムを出したであります…
「これは…何でありますか?」
「へへ…クリス特製、マルセイユさんの写真を集めたやつ」
「うわあ…宝塚の追っかけでもあるまいし…」
「まあ良いから見てってば!」
【数分後】
なっ…なんてことでありますかっ!!!
ヘルマ・レンナルツ曹長13歳、今まで…この目は何を見て生きてきたのでありますかぁぁぁっ!!!!
「カッ…カッコ良い…」
「でしょ~っ?!」
「この獲物を狙う鷹のような鋭い眼光、そしてナイスバティ!!ウィッチの憧れでありますね!!」
「良かった~、わかってくれる人がいて~」
「こんなカッコ良いお方が先輩だとは…!?」
「…あれ、ヘルマってお姉ちゃん好きなんじゃなかったっけ?」
「うはあっ!!??」
そっ…そうでありますっ!!!!
あくまでは私はゲルトルート・バルクホルン大尉が憧れのウィッチであってで………
でもハンナ・ユスティーナ・マルセイユ大尉も…っ!!
「バッ、バルクホルン大尉はバルクホルン大尉。マルセイユ大尉はマルセイユ大尉であります」
「へぇ~」
「…何でありますか?!その疑う目は!」
「私もさ…退院出来たら、アフリカに行こうかなって」
「クリス…」
「ほら、退院したら今まで出来なかった事をたっくさんしたいんだ。第一弾として、アフリカへ行って憧れのマルセイユさんに会ってみたい!」
「………そんな事より、さっき私の事をバカって言ったでありますよね?」
***
「シュナウファー大尉!」
「ちょっ、どうしたのヘルマ?こんな時間に」
「…その前に、何してるのでありますか?」
「美容パック」
シュナウファー大尉の部屋のドアを開けたら、いきなり真っ白な顔の大尉の顔が出てきてビックリしたであります;;
「ヘルマもやる?」
「へ?」
「朝起きたら肌がツルッツルになるわよ?」
「じゃあ是非!」
大尉にパックを貼ってもらって………あれ、部屋に居る2人がパックをするって何かシュールな光景であります…。
「スケキヨさんみたいでありますね;;」
「で、どうしたの?」
「あ…そうであります!!シュナウファー大尉、アフリカの人脈にコネありません?!」
「コネ?」
「はい!マルセイユ大尉に会いたいのであります!!」
「…残念ながら、私はこの部隊にすら知り合いが少ないのよ?」
「そっ、そんなあ~………無いんですか?同階級会とか?」
「ないわね」
「はああ…」
「どうして?」
「いやあ…その…ずっと入院してた友人が会いまして、ぜひとも会わせてやりたいんです」
「ふうん」
「なんか最近…軍に入ってから私は何をしたいんだろうって思ったんです。実験部隊に居るんで、あまり現場へ行かないでありますよね?なんか…誰のためにここに居るんだろうって。でも彼女と出会ってわかったんです!私はどんなに小さな事でも人々の笑顔を見るためにここに居るんだなって」
「………」
あれ…?
シュナウファー大尉…?
なんか俯いて、肩を震わせてるであります…
「シュナウファー大尉ぃ…??」
「…ヘルマ、ティッシュ取って」
「あ…はい」
「…っ!何、そのノンフィクション物が好きな人にとって…なんてまあ、どストライクなエピソードは!!」
「いや、だってこの話はノンフィクションであります…」
「コネはないけど…まあないっちゃあ…嘘になるわね」
「あるんでありますか?!」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐に、」
「あぁぁぁぁぁぁぁ…っ!!!!」
「どうしたの?耳を塞いじゃって?」
「わっ、私の前でそのお方の名前は…っ!!」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐」
「あぁぁぁぁぁぁぁ…っ!!!!」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐」
「私で遊ばないでくれますか?」
「あ、流石に3回目はないのね;;話によると、この間501にマルセイユ大尉が来たらしいんだけど」
「へっ?!」
あれっ…?おかしいであります…!
手と足の震えが…止まらないでありますっ!!!!
衛生兵を呼ぶであります!衛生兵を呼ぶであります!
そして、脳内には大音量で戦闘機の飛ぶ音と爆撃の音…そしてワーグナーの「ワルキューレの騎行」が流れるであります!!
「ヴィルケ中佐を介しての派遣だったそうなんだけど…どうしたの?ヘルマ?スゴい汗…」
「ごめんなさい、501だけは…501だけには…っ」
「あら、憧れのバルクホルン大尉がいるじゃない」
「でっ…でも…っ!!」
「ねえ…もしかして…あなたヴィルケ中佐と…?」
あれ…なんか頭の中に、こんな光景が…;;
***
少尉「そっちにどのくらい、弾がある!?」
衛兵「かなりあります!」
ダダダダ!!
ヒューン!!ヒューーーン!!
衛兵「しょっ…少尉ぃぃぃぃぃぃっ!!!!」
***
「ぐわっ!!??」
「どうしたの…?もしかして…図星ね」
***
ズドドドドドーーーン!!!!
ダダダッ!!ダダダダッ!!!!
衛兵「隊長が撃たれましたぁっ!!」
***
「ぐはっ!?」
「ねえ、何があったの?」
「…しょっ、しょうがないじゃありませんか!!あれは…あれは職権乱用であります!!パワハラであります!!」
「って事は、中佐があなたに強要してきた…って事?」
「まあ始めはその…私が…ですけど」
「えっ?!」
「だっ…だってお酒を飲んでて…であります」
「じゃあきっぱりと断れば良いじゃない!!」
「だっ…だってぇ、中佐のあの右手が…こうグイッと私の……」
「呆れた…」
「この前なんてベッドの上で仁王立ちしなさいって言われてですねえ…そして1分間立ったままだったらご褒美あげるって言われて…あへへへへ」
「…なんだ、結局中佐の虜になってるじゃない!」
「…はっ!!とっ、とにかく501には」
「ヘルマ、あなたそろそろ覚悟した方が良いわ。中佐が好きなの?あなたは」
「…中佐が…好き…?」
「好きじゃない人と普通は!そんな事しないわ、普通は。本当に嫌だったら力づくでも嫌がるわよ?」
「まっ…まさか…」
「そろそろ決断の時が来たようだわね」
私に限ってそんな事…!?
でも………本当に嫌なら断ってるであります、むしろ軍法会議にかけるであります。
何故報告しないのか?…出世が出来なくなるから?憧れのバルクホルン大尉に会えにくい空気になってしまうから?
それとも………?
ヘルマ・レンナルツ曹長13歳、ただいま重大な決断を迫られているであります…。
【つづく…?】