誕生会の後に


「ジョゼさん、誕生日」
『おめでとう!』
下原さんの合図でクラッカーが一斉に鳴り響き、目の前には笑顔で祝福してくれるみんなの姿。
そしてテーブルには美味しそうな料理の数々。
――私、ジョーゼット・ルマールは今日で18歳になりました。

『誕生会の後に』

≪午後21時50分、食堂≫

「た、隊長~、離してください~」
「まぁいいじゃないか。もう少しだけ……」
楽しかった誕生会もお開きとなり、隊のみんなが就寝前の自由時間を楽しんでいる頃、
私は食堂から一歩も動けない状態でした。
なぜかというと、酔っ払ったラル隊長が私のことを思いっきり抱きしめているから……
「あ、あの隊長……」
「う~ん、むにゃむにゃ……」
あ、あれ? もしかして寝ちゃってますか?
この体制で寝られると私、すごく困るんですけど……

「おやおや、隊長も大胆だね」
「感心してないで、早くジョゼを助けるわよ」
「は~い」
数分後、食堂に戻ってきたクルピンスキー中尉とロスマン先生によって、私はラル隊長から解放されました。
「あ、ありがとうございます……」
「本当に離しちゃって良かったのかい? ジョゼちゃんもまんざらでもなさそうな顔してたからボクはてっきり……痛っ、
冗談だよ先生」
「伯爵ったら、まったくもう……隊長、起きてください」
ロスマン先生がゆすっても、ラル隊長は全く起きる気配はありませんでした。
「ん~、むにゃむにゃ……」
「起きる気配なしね」
「しょうがないね。部屋まで運んであげようよ」
クルピンスキー中尉はそう言うと、ラル隊長をお姫様抱っこで抱えあげました。
「ははは、我らが頼りになる部隊長さんもお酒が入ると一人の少女だね」
隊長の頬を突きながら、そう微笑むクルピンスキー中尉。
「ふふっ、本当ね。じゃあジョゼ、おやすみなさい」
「あっ、はい! あ、あのクルピンスキー中尉にロスマン先生、今日は本当にありがとうございました。
私、みなさんにこうやって誕生日を祝ってもらってとても嬉しかったです」
「ふふっ、どういたしまして」
「礼には及ばないよ。あ、そうだ。なんなら、今度ボクの部屋に来てよ。君をもっと喜ばせてあげられると思うけど……
痛い! だから冗談だって、先生。じゃあね、ジョゼちゃん。おやすみ」
「おやすみなさい」
カールスラントのみなさんがいなくなると、食堂は急に静かになりました。
ついさっきまで、私のことを抱きしめてた隊長がいなくなると、なんだか少し寂しい気もします。
クルピンスキー中尉の言うようにまんざらでもなかったのかな、私。

≪午後22時30分、談話室≫

「……それで、さっきまで隊長に抱きしめられてたんです」
「ええ!? そんなことがあったんですか」
隊長たちと別れた後、私は談話室で下原さんと談笑していました。
就寝前にこうやって下原さんと話すことが最近の私の日課だったりします。
「でも隊長の気持ち、分からなくもないかも」
「え? どうしてですか?」
「だって、ジョゼさんを抱きしめてると暖かくて気持ちいいから」
下原さんはそう言うと、私のことをぎゅっと抱きしめてきました。
「し、下原さん!? はうっ」
「ふふっ、ジョゼさん可愛い」
うわ、今私すごいドキドキしてる……下原さん、すごく良い匂い。

数分後、談話室にナオちゃんがやってきました。
「お~い定子、なんかお菓子ないか……って、何やってんだよ!」
「あっ、ナオちゃん」
「『あっ』じゃない! ジョゼから離れろよ」
「あれ? ナオちゃん、もしかして嫉妬してくれてるんですか?」
「そうじゃねーよ! ジョゼだって嫌がってるだろ?」
「い、いえ。私は別に……」
「そうだ、ナオちゃんも来てくださいよ。3人で抱き合えばもっと暖かくなると思うから」
「え? い、いきなり何言ってんだよ……」
顔を赤らめながら動揺するナオちゃん。
彼女のその表情があまりにも可愛らしかったので気が付くと私と下原さんは、
「「ナオちゃん、えいっ!」」
「うわっ!」
ナオちゃんのことを思いっきり抱きしめていました。
「うっ、く、苦しい……」
「ナオちゃん、下原さん。今日は本当にありがとうございました。誕生会、とても楽しかったです」
「喜んでもらえてなによりです」
「礼なんかいらねーよ。オレ達仲間なんだから……それより、離してくれないか?」
「ふふっ、いいじゃないですか。もうちょっとだけ」
「……ちょっとだけだぞ」
――それから、しばらくの間私たちは3人で抱き合っていました。

≪午後23時 ニパの部屋前≫

「いけない、もうこんな時間。そろそろ寝ないと」
下原さん達と別れ、自分の部屋に戻ろうとした時、ニパさんの部屋から聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「ニ、ニパさん……本当に脱がないと駄目?」
あれ? この声ってサーシャ大尉? なんでニパさんの部屋から……
「脱がないと見えないだろ。ほら、脱がすよ」
「う、うん……」
今度は部屋の主であるニパさんの声。
え、えっと脱がすって、まさかニパさん……!
「え、えっちなことはいけないと思います!」
私は意を決してニパさんの部屋の扉を開けました。
するとそこには……
「ジョゼさん……」
「ジョ、ジョゼ!?」
部屋のベッドで仰向けになっている下着姿のサーシャ大尉と、彼女の上に跨っているニパさんの姿がありました。
しかもニパさんは、サーシャ大尉のズボンに手をかけていました。
「ニ、ニパさん……まさか」
「え、えっとジョゼ……これにはわけがあって」
咄嗟に自分のセーターでサーシャ大尉の大事な部分を隠しながら、慌てふためくニパさん。
「わけ?」
「だ、だから……さっきまでサーシャ大尉とサウナにいたんだけど、大尉がお尻が痒いって言うから私が見てみたら、
大尉のお尻に虫さされの跡があって、それで私の部屋に痒み止めがあるのを思い出して、大尉に痒み止めを塗ってあげようと
思って、そしたらそこにジョゼがやってきて、それで、それで……」
「……ニパさん、そんなに慌ててたら本当のことなのに嘘っぽく聞こえますよ」
「虫さされ?」
「は、はい……いつの間にか刺されたみたいで」
サーシャ大尉がそう言って、うつ伏せになると彼女の白いお尻に真っ赤な虫さされの跡がありました。
……どうやら私の早とちりだったみたい。
うぅ、すごく恥ずかしい。
「す、すみませんでした! 私、とんでもない勘違いを……」
「いや、分かってくれればいいんだ。それより、ジョゼの治癒魔法で大尉の虫さされ、治せないか?」
「あっ、はい! まかせてください」
私はペルシャ猫の耳を生やし、治癒魔法を発動させました。
すると、サーシャ大尉の虫さされの跡は見る見るうちに消えていきました。
「ありがとう、ジョゼさん。もう痒くないです」
「どういたしまして。それじゃ、私もう行きますね。これ以上2人の邪魔をするのも悪いですし」
「ええ!? じゃ、邪魔だなんてそんな……」
「そ、そうですよジョゼさん」
顔を赤らめながらさっきより一層慌てふためくニパさんとサーシャ大尉。
ふふっ、2人とも本当に可愛いな。
「それじゃ、おやすみなさい。今日は本当にありがとうございました。誕生会、とても楽しかったです」
私はそう言って、ニパさんの部屋を後にしました。

「あっ、ジョゼ。丁度いいところに」
「ロスマン先生にクルピンスキー中尉。どうしたんですか?」
「実は、ついさっき隊長が目覚めてね。君に会いたがっているんだ」
「え? 私にですか? 分かりました、隊長室に行ってみますね」
「隊長に食べられないよう気をつけてね~……痛っ! だから冗談だよ、エディータ」
「……もう、ヴァルディの馬鹿」

≪午後23時15分 隊長室≫

「隊長。私です、ジョーゼットです」
そう言って部屋のドアを叩くと、隊長はすぐに私を招き入れてくれました。
「やあジョゼ。待ってたよ」
隊長はそう言うや否や、いきなり私のことを抱きしめてきました。
「た、隊長……ひゃっ」
今、私の胸の鼓動は、さっき酔っ払った隊長や、下原さんに抱きしめられたときよりも一層激しく鳴っています。
私ったら、なんでこんなにドキドキしてるんだろ。
「おっ、いい感じに暖まってるね。治癒魔法を使ったのかい?」
「は、はい……さっきサーシャ大尉に。あの、隊長」
「何だい?」
「今日は本当にありがとうございました。例年以上に賑やかな誕生会でとても楽しかったです。私、502のみんなが大好きです」
「どういたしまして。みんなもジョゼのこと大好きだよ。もちろん私も」
隊長はそう微笑むと、一層強く私のことを抱きしめてくれました。
格好良すぎますよ、隊長。
「隊長、もうちょっと私をこうやって抱きしめててくれませんか? 隊長の腕の中、すごく気持ちいいから」
「もちろん。ジョゼが望むならいくらでも抱きしめてあげるよ」
「ありがとうございます。大好きです、隊長」

――私、ジョーゼット・ルマールにとって、今日は最高の誕生日になりました。

~Fin~


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