第23手 キス・頬に


「一番強いのを頼む」
 開口一番、ドミニカは醇子に告げた。
 先日の戦闘で破損したドミニカのストライカーユニット。代替品の希望を聞かれ、ドミニカが出した結論は至極単純だった。
「そ、そう言われてもねぇ……一応リベリオンの軍連絡所に問い合わせてみるわ」
 醇子は少々困った顔をすると手短にメモを取り、食堂から出て行った。
「しっかしドミニカはいつもその辺テキトーよね~。羨ましいわその性格」
 フェルの冷やかしにもドミニカは何処吹く風と言った感じでガムをぷう、と膨らませ、さらっと答える。
「ロマーニャ人程じゃないさ」
「ありゃま、ドミニカって面白い事言うわね~」
「大将、フェルさんに何て事言うですか!」
「だって事実だし」
「事実……まあ、確かに否定は出来ませんね」
 ルチアナがフェルの横で残念そうな顔を作る。
「何だよそれ~」
 マルチナが少しむくれたのを見て、ジェーンは更に慌てた。
「ちょっと大将、同じ部隊なんですし、もっとこう仲良くですね……」
「仲良く、か。……ガムでもどうよ?」
 ドミニカがガムを数枚勧める。
「気持ちだけ受け取っとくわ。とりあえず私達用事有るから、またね」
 フェルは髪をふぁさっとかき上げると、ドミニカ達に軽く手を振り、すたすたと食堂から出て行く。
「え、用事って?」
「待ってよルチアナ~」
 どたばたと赤ズボンのロマーニャ娘三人が去り、食堂に静けさが戻る。
 アンジーもパティも既に食事を終え、任務や用事で既に食堂を離れている。
 残っているのは、気怠そうに椅子に座ってガムを噛むドミニカ、そして横に居るジェーンだけ。
「大将、何から言って良いのかわからないですけど」
「なら何も言うな」
「ちょっと大将!」
 ジェーンは机をばーんと叩いた。味のしなくなって久しいガムを口から出し平然と紙に包むドミニカ。
「まず、竹井さんに希望はちゃんと伝えるべきですよ! 前と同じP-51Dとか、他にもストライカーユニットは色々有るじゃないですか」
 ジェーンの忠告……というよりお説教をぼやーっと聞き流すドミニカは、食堂の隅に置かれたごみ箱に向けてぽいっとガムの包みを飛ばした。
 見事な孤を描いて、ごみ箱にガムの包みが投げ入れられた。ドミニカはそれを見てふむ、と頷いたあとジェーンに向き直った。
「良いんじゃないか? 竹井もよくやってくれているし。良いのをくれるさ。性能が良くて飛べばそれでいい」
「そう言う単純な問題じゃないです! 何でもかんでも竹井さんに任せっきりは良くないです!」
「じゃあジェーン、頼んだ」
「ええー!?」
「何だ、嫌なのか」
「だって……色々と手続きが。それに」
「それに、何?」
 一瞬言葉を躊躇い、黙り込んだジェーンの顔をじっと見るドミニカ。
 やがてジェーンは堪えきれなくなったのか、口を開いた。
「た、大将と一緒に居る時間が減るじゃないですかって言わせないでくださいよはずかしい!」
 顔を真っ赤にして腕をぶんぶんと振って怒るジェーン。そんな彼女を見てドミニカは、ほほう、と口の端を歪めた。
「まあ、ジェーンの頼みは断れないな。お前は私のだからな」
「えっ?」
 動きが止まるジェーン。
「竹井の所に行くか」
「なんで竹井さんの所に?」
「私なりの役目を果たそうと……」

「あら、二人共、呼んだかしら?」
 偶然か必然か、醇子が二人の近くに来ていた。いつからここに? と言う顔をした二人に、醇子は微笑んだ。
「ちょうど通り掛かったら私の名前が聞こえたから。で、用事って?」
 ドミニカは人差し指で宙に何かを描く様なジェスチャー付きで醇子に説明する。
「いや。私のストライカーの話だ。供給の問題も有るだろうから、性能と信頼性が同じ品質なら、前のと同じで構わない」
「なる程、合理的な判断ね、ドミニカさん」
「さん付けはやめてくれって」
 ドミニカの言葉を聞いて、ふふっと笑う醇子。
「良いんですか大将? 他にもストライカーは……」
「今言った通りだ」
「分かったわドミニカ。後で連絡してみる。多分数日中に届くと思うから」
 それじゃ、と言うと醇子は改めて退室した。
「何か呆気なく用事が済んだな」
 ドミニカはやる事が無くなったといわんばかりの表情。一方のジェーンは呆れ顔だ。
「結局竹井さんに任せてるじゃないですか……」
「それぞれの役割をこなせばそれで良い。竹井は面倒な事務手続きをやってくれる。そして私は面倒な敵を倒す。お前と一緒に。それで良いじゃないか」
「ま、まあ……」
「それに……」
 ドミニカはジェーンの傍らに立つと、不意に、頬にキスをした。
 びっくりするジェーンの至近距離で、ドミニカは囁いた。
「今は何となくこう言う気分なんだ」
「こう言うって……」
「ジェーン、お前が言ったからだぞ」
「え、私何か言いました?」
「一緒に居る時間が云々って辺りだ」
「あ……」
 思い出してまた顔が真っ赤になるジェーン。ドミニカはふっと微笑んだ。
「よし、行こうか。今日も楽しくなりそうだ」
 ドミニカはジェーンを軽々とお姫様抱っこする。
「何処行くんですか大将?」
「私の部屋とお前の部屋、どっちが良い?」
「そ、それは……」
 腕の中で戸惑うジェーン。お姫様抱っこに困惑しているのか、それとも部屋の選択で迷っているのか。
 いずれにせよ、ドミニカはどっちでも良かった。ジェーンの可愛い姿が、己の手中にある。
 昂ぶる感情を抑えきれずもう一度頬にキスすると、ひゃうっと小さな声を出したっきり答えの出せないジェーンを連れて、食堂を出た。
 行き先は……。

end


『ストライクウィッチーズでシチュ題四十八手』応募作品

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