先生と伯爵
今日の教導が終わって、部屋に戻ろうと基地を歩いていた時だった。
「先週、誕生日だったんだ」
ニセ伯爵が、御苦労なことに、私の部屋の前で待っていた。
「知っています。パーティもしたでしょう」
「うん、でも、『みんなで』、だったろう」
「……何が言いたいの」
わかっているけれど、訊く。
「先生、わかってるだろう?」
「わからないわ。…次回の教導の準備があるの。後にして」
「今日のが終わったばかりじゃないか。…うーん、こどもが出来てからの夫って、こんな気持ちなんだろうな。こどもばかりで、夫は構ってもらえない」
「誰が夫だ」
「えー?一人しかいないじゃないか」
「ヴァルディ、今日は本当に忙しいの」
本当は、忙しくなんかない。
「…そ。じゃあ、またね」
ヴァルディの背中が消えるのを見送ってから、部屋に入る。
「…良く言うわよ、私のところになんか来なかったくせに…」
ふん。鼻を鳴らしてももう聞こえない。
ベットサイドのチェストを見る。そこに仕舞われているあの箱。
あの夜、渡そうと思っていた-が、羽目を外しすぎる、具体的には、隊員にちょっかいを出しまくるヴァルディが腹立たしくて、封印されてしまったものだ。
わかりきっていたことけれど、それでも怒ったんだから。
「浮気な夫をもつ妻は、こんな気持ちでしょうね」
しばらくは冷たくしてやる、と決めて一週間。
(まあ、でも…今回は、部屋に来たというだけでも、いいか)
それにそろそろ、渡しにくくなる。あの箱が勝手に飛んでいってくれればいいとも思っていたけれど、そんなことはありえないし。
あの人が喜ぶだろうことを考えると癪だけど、誤解されてしまうほうが、癪だもの。
我ながら甘いわね、と思いながら部屋を出る。手には小さな箱を持って。
そして、ヴァルディを探す私の目に飛び込んだのは、
「ん~、ジョゼはあったかくてふわふわだねえ~」
「あわわ、ク、クルピンスキーさん…」
いつも通りすぎる、光景。
「こ…んの…!ニセ伯爵!!」
すこーん。
バースデープレゼントは、見事ニセ伯爵の後頭部に直撃しました。
「うわあ…」