normal breakfast


 朝の501。珍しく皆が揃って食事を取る。所々で雑談やたわいもないお喋りが繰り広げられる中、
一緒に座って黙々と朝食を食べていたエーリカが不意に呟いた。
「ねえトゥルーデ」
「どうしたエーリカ」
 トゥルーデは黒パンをかじり、よく噛んで飲み込むと、ちらりと声の主を見る。
「何で私達って一緒に居るんだろうね」
 そう言って気怠そうにシチューを一口食べるエーリカ。
「いきなり何を言い出すかと思えば……」
「トゥルーデは分かる?」
「分かるかと聞かれてもな。まずは、職務上一緒に居た方が都合が良いから」
 言い終わると、小皿のサラダを一気に食べ尽くすトゥルーデ。エーリカもちまちまと野菜をつつく。
「今日は私達、非番だけどね」
「うーん。あとは、訓練に、食事に、風呂に。寝た後は朝お前を起こし……待てよエーリカ」
 何かに気付いたのか、トゥルーデは手にしたスプーンの動きを止めた。
「どしたの?」
「思い返すに、エーリカ、お前の世話ばかりしている気がするんだが」
「んー、気のせい気のせい」
 わざとらしく首を振って、黒パンをちぎって食べるエーリカ。ぽろぽろとパン屑がこぼれ、トゥルーデがナプキンでそっと拭く。
「何だかんだであれこれ世話を……と言うより介護っぽくないか?」
「私、別におばあちゃんじゃないよ」
 平然と返され、言葉を失う。ゆっくりとナプキンを畳んでテーブルの隅に置く。
 しばしの沈黙。
 二人同時にシチューを一口食べたところで、トゥルーデが呟いた。
「……何だか納得がいかない」
「そう? 気にしちゃダメだって」
「いや、ここはきちんと朝から順序立てて考えてみようじゃないか」
「トゥルーデ、探偵じゃあるまいし……」
「まず、朝はエーリカを起こす事から始まって……」
「はいストップ」
 いきなり唇を人差し指で押さえられ、どきっとするトゥルーデ。
「な、なんで止める」
「だから。考えてもしょうがないじゃん」
 ふふ、と笑うエーリカ。
「さては、何か自分に不利な事でも有りそうな言い草だな、エーリカ」
「そーかな? 例えばトゥルーデ、私がいつまで経っても起きない時『じゃあチューしたら起きる』って私が言うと……」
「うわあ! 分かったもう言うな!」
 がたん、と思わず席を立つトゥルーデ。
 一瞬、隊員全員の視線を浴び、ごくりと唾を飲み、椅子に座り直す。
「トゥルーデ、顔真っ赤」
「うっうるさい! 何で私が……」
「理由知りたいの? 好きだから、じゃないの?」
「何? 誰が、誰を」
「トゥルーデが私を。そして、私がトゥルーデを。それでいいんじゃない?」
 エーリカはそう言って残った黒パンを食べ、シチューを一口すくった。
「う、うん……まあ。確かにそれは……」
「素直じゃないなあ、トゥルーデ。あんまし素直じゃないと、みんなの前で『お姉ちゃん』とか呼んじゃうよ?」
「それこそ止めろ! 誤解されるだろ」
「今更誤解も何も無いと思うけどね」
「……とりあえず、早く食べないと」
 トゥルーデは最後の一口を口に持って行く。それをぱくりと食べたのはエーリカ。
「あっ、私のとっておきが」
「ごちそーさま、トゥルーデ」
「おい」
 もぐもぐしてごくりと飲み込んだエーリカは、笑顔で言った。
「じゃあお裾分け」
 そう言って、スプーンを持ったままのトゥルーデと唇を重ねる。
 ほんのり、シチューの味が口に残った者同士が交わすキス。
 最初に唇が触れあうインパクト、そして後からじわりと味覚を感じる。絶えず変化する五感に、一瞬酔いしれるトゥルーデとエーリカ。
 そっとトゥルーデから顔を離すエーリカ。ふふっと笑う。
「トゥルーデ、スキだらけだよ」
「なっ……」
「だからかな」
 エーリカはそう言うといつの間に食べ終えたのか、空の食器を持って席を立った。トゥルーデも食器を片付け、慌てて席を立つ。
「だから、ってどう言う事だ?」
「私がトゥルーデを好きな理由」
「何だか話がループしている様な……」
「トゥルーデ、今度は哲学者モード? 難しい事は考えずに、さ、行こうよ」
「あ、ああ……」
 エーリカに腕を引っ張られる。食器を厨房に置くと、二人は腕を組んで食堂から去っていった。

「あのさあ、少佐」
「どうしたシャーリー」
「良いんですかね、あの二人」
 カールスラントのバカップルとその所業を横目で見ていたシャーリー。呆れ顔で美緒に問う。
 何故か他の隊員達は「私は何も見ていない」と言ったオーラを出している。
「……良いんじゃないか。二人はエースとしてよくやっているからな」
「はあ」
 控えめな答えの美緒、何となく納得いかないシャーリー。
「そうそうシャーリー、細かいこと気にしちゃダメ!」
 膝の上でころころと笑うルッキーニを見る。
「まあ……いいか」
 人のことは言えないかも、とシャーリーは呟き、ルッキーニの頭を撫でた。

 厨房では、そんな食堂の様子を、ひそひそと話し合うリーネと芳佳の姿が。
 二人の頬が紅く染まっていた。

 501の朝は、こうして気怠く過ぎて行く。

end


II/ドミジェンver:1452


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