normal breakfast II


 その日の504の食堂はのんびりとしていた。
 隊員達はだらだらと席に着き、食事当番は少ない補給から得た食料を何とかやりくりして調理し、皆に行き渡らせる。
 ジェーンは皿とスプーンを二つ持って、ドミニカの前に座った。
「はい大将、今日の朝ご飯はリゾットですよ」
「食べられれば何でも良い」
「そんな事言わないでくださいよ。ちゃんと食べないと元気出ませんよ」
「リゾット、か……」
 504が陣取るロマーニャは土地柄、魚介類が豊富に獲れる。今朝のリゾットも海鮮風味。
 湯気と共にほのかに漂う潮の香りが、ロマーニャと扶桑、ヒスパニアのウィッチには好評だ。
 しかし、魚介類に慣れない地域出身のウィッチには「それ程でも……有れば食べるけど」と言った感じだった。
 案の定、気怠そうにリゾットを一口、スプーンですくっては皿に戻す仕草を続けるドミニカ。
 ジェーンは暫くその様子を見ていたが、やがて我慢出来なくなったのか、やおら立ち上がるとドミニカの手からスプーンをふんだくった。
「もう、大将!」
「何するんだジェーン。私のスプーン……」
 “相棒”をぽかんとした目で見上げるドミニカ。見られている当の本人は、気にせず叱りつけた。
「今日は竹井さんがわざわざ作ってくれたんですよ! そんなぞんざいにして失礼じゃないですか!」
「熱々なのは苦手だ。単に少し冷ましてるつもりだったんだが」
「そうなら言ってくださいよ。……食べたくないのかと思いましたよ」
「冷ましてただけだ。料理が嫌いって訳じゃない」
「大将の行動は誤解されますよ」
 ジェーンはスプーンを持ったまま、椅子に座り直した。
 ドミニカは、そんな“恋女房”を眺めていたが、ふと思い付いた願望を口にする。。
「ならジェーン。見本を頼む」
「えっ……」
 ジェーンは一瞬固まった。
 何をどうしようか迷っている様だった。
 しかし意を決したらしく、顔を赤くし、一口すくうとふーふーして、ドミニカの口元に持って行った。
「はい、どうぞ」
「随分と強引だな、ジェーン」
「こうでもしないと大将食べないでしょ?」
「まあ……」
 ドミニカはちらりと周囲を見回した。
 基本的に我関せずと言った様子のパティとアンジー。
 こっちをチラチラ見ながら何やらひそひそ話しているロマーニャ娘三人組。
 扶桑陸軍のウィッチ二人は「私見てません!」と言うオーラを全身から出しながらこっそり視界には捉えている様だった。
 ドミニカはおもむろにぱくっ、とジェーンの差し出したスプーンをくわえる。もぐもぐと噛み、飲み込む。
「うん。悪くない」
「大将……厨房から竹井さんが見てますよ?」
「笑ってるな」
「そりゃ、まあ……」
「続き」
「えっ?」
「ジェーンの冷まし方は完璧だな。幾らでも食べるぞ」
「そ、そうですか……じゃあ。……あーん」
「あーん。……ん。うまい」
「美味しいなら美味しいと最初から言って下さいよ大将。竹井さんせっかく作ってくれたんだし」
「ソイソースの匂いが微かにするな。流石、竹井らしい味付けだ。単純なロマーニャ風ではない所が良い」
「味の分析とかもう良いですから……ほら、あーん」
「ん。うまい」
「もう、竹井さん向こうで苦笑してますよ?」
「そうか」
 ジェーンの言葉を聞き、何故か、小さく笑うドミニカ。
 暫くジェーンに食べさせて貰った後、ドミニカはジェーンの手を取った。
「大将?」
「ジェーンも食べろ。冷めると美味しくない」
「えっ、でも」
「私があーんしてやる。ほら、来い」
 ジェーンをぴったりと横に座らせ、スプーンをジェーンの手ごと握って、リゾットをすくって少しふーふーして、ジェーンの前に差し出す。
「大将……あむっ。おいひい……」
「ジェーンだからな。美味いさ」
「意味がよく分かりませんよ大将……」
「じゃあ、分かるまでもう一口」
「えっ……あーん」
 お互いひとつのスプーンで食べさせ合う、その行為は延々と続いた。

 そんなリベリオン夫婦の様子を見せつけられていたパティは、横に座るアンジーに問い掛けた。
「なんか“おしどり夫婦”って言うより、バカップルって感じだけど、どう思うアンジー?」
「わりとどうでもいい」
「あ、やっぱり……」
 何故か同時に出る溜め息。

 504の朝は気怠く過ぎていく。

end


I/エーゲルver:1451

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