Ein Brief
「相変わらず、凄い量ですね」
昼食のトレーを抱えたマミが、私のテントに入るや否や驚嘆の声をあげる。
今日は12月13日、毎年この日になると大小様々な箱や、手紙が私のもとに贈られてくる。
早い話が全部私への誕生日プレゼントというわけだ。
「厚意はありがたいんだが、こうも多いと一つ一つチェックするのも面倒だな」
マミから昼食のトレーを受け取りながら、私は思わず溜息をつく。
正直、空でネウロイと戦っていたほうがよっぽど気は楽だ。
「人気があるのは良いことじゃないですか。よかったら手伝いましょうか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
――それからしばらくの間、私とマミとマティルダとで届いたプレゼントを一つ一つ見ていった。
アフリカでは中々手に入らない酒のプレゼントがあったのは特にありがたかった。
最も、私への想いが延々と綴られている反応に困るような手紙も中にはあったりしたが……
「マルセイユ大尉、第502統合戦闘航空団のヴァルトルート・クルピンスキー中尉からも手紙が届いてますよ」
「伯爵から?」
マミからその手紙を受け取り、封を開く。
確かに、JG52時代の同僚、伯爵ことクルピンスキーの癖のある字だ。
私は、その癖のある字にどこか懐かしさを覚えながら、2通ある手紙の1通目を読み進めていった。
『拝啓 ハンナ・ユスティーナ・ヴァーリア・ロザリンド・ジークリンデ・マルセイユ殿←本当に長い名前だね』
「余計なお世話だ」
『久しぶりだね。元気にしてるかい? アフリカは良いところだよね。行ったことないけど』
「相変わらず適当な奴だ」
人はそう簡単には変わらないか、そんなことを考えながら私は手紙の続きを読んでいく。
『君に報告したいことがあるんだ。実はこの度、ボクとロスマン先生は結婚することになったんだ』
「な!? ロスマンの奴、血迷ったか!?」
1枚目の手紙に添えられた写真には、ウェディングドレスに身を包んだロスマンの姿があった。
伯爵とロスマンが結婚だと? あまりの衝撃的な出来事に私は口に含んでいた牛乳を思わず吹き出してしまった。
「大丈夫ですか?」
牛乳で汚れたテントを拭きながら、マティルダが私に問いかけてきた。
「あ、ああ大丈夫だ。悪いな、マティルダ」
私は気を落ち着かせ、2通目の手紙を読み進めていった。
『……なんてね。冗談だよ、冗談。まぁ君がこんな話にまんまと騙されるわけないとは思うけど。
先生のウェディングドレス姿、中々似合ってるだろ?』
「あ、あいつら……!」
まんまと騙された。ロスマンの奴、この為だけにわざわざウェディングドレスを用意したんだろうか。
考えてみれば戦闘時以外のあいつは、伯爵以上の享楽家だったな。
私は手紙を破りたい衝動をなんとか抑え、続きを読んでいった。
『君が501でフラウとやり合ったっていう話はこっちにも届いているよ。是非見てみたかったなぁ。
バルクホルンはきっと、落ち着きがなかったんだろうね。あっ、そうそう。バルクホルンといえば、
この前、彼女の妹のクリスちゃんのお見舞いに行ったんだけど、その時に君のサインが入ったブロマイドを
嬉しそうに見せてくれたよ。君って確かサインはしない主義だったよね、何かいいことでもあったのかな?』
「……ふん」
その文を読んで、私はこの前の501での出来事を思い出す。
ハルトマンとはいつか必ず決着をつけてやる。
『最後になるけど、ティナ、誕生日おめでとう。君と離れてから随分経つけど、今でもボクにとって君は、
かけがえのない戦友で仲間だからね。もちろん、ロスマン先生やラル隊長、バルクホルン達も。
いつかまた、みんなで笑って語り合える日がくるといいね。それじゃ、お元気で
変わらぬ友情を込めて ヴァルトルート・クルピンスキー』
手紙の最後の文を読み終わって、私は思わず笑みがこぼれた。
伯爵は一見いい加減そうに見えてその実、仲間想いの良いヤツだ。
あいつのそういった面も変わってなくて、少しだけ安心感を覚える。
「マルセイユ大尉、クルピンスキー中尉からプレゼントも届いてますよ」
「プレゼント?」
私はマミから伯爵のプレゼントが入った箱を受け取る。
その箱に入っていたのは……
「な、なんだこれは!」
中に入っていたのは、私にはおよそ似合わないピンク色のワンピースだった。
伯爵の奴、私にこんなものを贈ってくるなんて一体何を考えているんだ?
私が箱の底を覗いてみると、そこには伯爵の字でこう書かれていた。
『ボクからのプレゼント、気に入ってくれたかい? この服、バルクホルンがクリスちゃんにプレゼントしたものと
同じものなんだ。これを着た写真を撮って、ボクに贈ってくれると嬉しいな』
ふざけるな! なんで私がバルクホルンの奴が、妹にプレゼントした服と同じものを着ないといけないんだ。
こんなものを着るくらいなら、裸のほうがマシだ。
少しでもあいつのことを見なおした私が馬鹿だった。
「ティナ、隊長が呼んでるけど……って、何その服?」
「ラ、ライーサ、これはその……」
そこに何とも間の悪いタイミングでライーサが私のテントを尋ねてきた。
「すごく可愛らしい服ね。着るの?」
「き、着るわけないだろ!」
「「……っ!」」
「お、おい! マミもマティルダもさり気なく笑うな!」
――その後、私はケイに無理矢理このワンピースを着せられ、写真を撮らされた。
後日、その写真は伯爵たちのもとに贈られることになるが、それはまた別の話。
~Fin~