citrus


 504基地の片隅に設置された扶桑式の風呂。隊員達の憩いの、そして癒しの場。
 浴槽に浮かぶ黄色い物体をひとつ取り、ドミニカは不思議そうな顔をジェーンに向けた。
「何で柑橘類を風呂に入れるんだ?」
「これって扶桑の風習だそうですよ。このユズとか言うのと一緒に風呂に入ると風邪ひかないとか」
 扶桑の風習はよく分からん、と呟くドミニカ。恐らく醇子辺りが、錦と天姫の為に本国から取り寄せたんだろうと推測する。
 でも、こうして皆ものんびり入ってると言う事は彼女なりの……、なるほど。とドミニカは軽く頷いた。
 一人柚子を持って頷いているドミニカを見て、不思議そうな顔をするジェーン。
 ぽたり、と天井から結露した雫が垂れる。
「ひっ、冷た! 大将、早く入りましょうよ」
 言われたドミニカは振り返って言った。
「ジェーンは入らなくても大丈夫だな」
「何でですか大将」
「アレは風邪ひかないって言うだろ……いたた」
「馬鹿なのは大将です!! さっさと入るです!」
 ジェーンに掴まれ、どぼんと肩まで湯に浸かる。
 誰かが握り潰したのか、柚子の残骸が幾つか湯の底に沈んでいる。
 しかしほのかな香り、少しだけひりっとした感触の湯は思ったよりも心地良く、身体を温める。
「美容にも良いらしいって、さっきフェルが言ってた」
 先に風呂に入っていたパティが柚子を指して言った。横でぼんやりと柚子を眺めていたアンジーもパティの声に反応する。
「隊長は真っ先に入ってたけど……そんなに効果が有るんだろうか」
「ま、竹井の言う事だから案外効果あるんじゃない?」
「らしい……か」
 つんつんと湯に浮かぶ柚子をつつく。
「皮と実から出るオイルとかエキスが良いんだって。もっと綺麗になったら私ホレちゃうかもね~」
 ニヤニヤしながらアンジーを見るパティ。
「こ、こら! 私をそんな目で見るな! 可愛いとか関係無いだろ!」
「やだもうアンジーったら、可愛いんだから」
「……もう出る」
 顔を真っ赤にして浴槽から立ち上がるアンジー。照れか湯の火照りかは分からない。
「もうちょっとだけ一緒してよ、アンジー、お願いだから」
 パティにすがりつかれ……アンジーはやれやれと言った顔でもう一度ゆっくり浴槽に腰を下ろした。
「仕方ない」
 そんな二人のやり取りを見ていたドミニカ。
「大将、どうしたんです?」
「美容に良いらしい」
「さっきアンジェラさんとパトリシアさんが言ってたじゃないですか」
「ひとつ貰っていくか」
「へっ?」
 周りに浮いていた柚子の中でも特に色艶の良いのをひとつ掴むと、ざばあとドミニカは立ち上がる。
「さ、出るぞジェーン。一つ試したい事が出来た」
「それは何です?」
「まあ、来れば分かるさ。じゃあお先に」
 ドミニカは、浴槽から出たばかりのジェーンを引っ張り、風呂から去っていった。

 そんな“おしどり夫婦”を見ていたパティは、アンジーの脇をちょちょっと突いて言った。
「ねえ、どう思う? あの二人?」
「……割とどうでもいい」
「やっぱり……」
 湯気がほのかに香り、水蒸気となって窓や天井に付着し、雫となり、垂れ、落ちる。
 ぽたりと、一滴アンジーの頭に落ちた。
「つめたっ」
「水も滴る……ってね」
「風呂だぞ」
「そう言えばそうね」
 それきり何も言わず、ただそっと寄り添い、風呂を楽しむ二人。
 のんびりと、冬至の夕暮れは過ぎて行く。

end


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