ゴニョゴニョするの
「う~ん、どうしよっかなー」
商品棚に並んである可愛らしいぬいぐるみを見ながら、あたしはぽつりと呟く。
ここはローマのとあるお店。
以前、ルッキーニや宮藤と一緒に買い出しに来たこともあるこのお店であたしが何を探しているのかと言うと……
「あら、シャーリー大尉じゃない」
「ん? その声は……」
聞き覚えのある声に呼ばれ、振りかえるとそこにいたのはフェルナンディア、マルチナ、ルチアナの3人。
504の赤ズボン隊の面々だ。
「おう、ティナにルチアナ。それに、フェルニャニュデュ……」
「フェルナンディアよ。わざとやってるでしょ」
あたしがわざとらしく名前を噛んだことにむっとして、頬を膨らませるフェル。
怒ってる表情も可愛らしい奴だな。
「ごめんごめん、ほんの冗談だよ。それで、フェル達はどうしてここに?」
「物資の補給です。ここには大抵のものが揃ってますから」
「そう言うシャーリー大尉こそ、どうしてここに?」
「実はさ、ルッキーニへの誕生日プレゼントを買いに来たんだ。まぁ、まだ何を買うかは決めてないんだけど」
「へぇ~、ルッキーニちゃんってもうすぐ誕生日なんだ? 何日生まれなの?」
「24日だよ」
今日は12月21日、ルッキーニの誕生日が3日後に迫ってるというのにあたしはと言えば、まだ彼女へのプレゼントを決めていなかった。
いっそのこと、出かける前にルッキーニにそれとなく何が欲しいのか聞いとくべきだったな。
「クリスマスイブに誕生日だなんてなんだが素敵ですね」
と、目をきらきらさせながら言うルチアナ。
「そうかなぁ? クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にされそうだし、ぼくは嫌だな……あっ、そうだ!
良いこと思いついたよ。フェル、ルチアナ、ちょっと耳貸して。ごにょごにょ……」
ティナがニヤリと笑いながらフェルとルチアナにこっそりと耳打ちをする。
一体何の話をしてるんだ?
「あら、それは名案ね。シャーリー大尉、ちょっと来てもらえるかしら?」
「へ?」
――数分後、パンタローニロッシグッズ、いわゆる赤ズボン隊のグッズが置いてあるコーナーにあたしは連れてこられていた。
「こ、これをあたしがルッキーニにプレゼントするのか?」
「そうよ。可愛いでしょ」
猫の模様が入った赤いズボンをあたしに見せながら、フェルは微笑む。
確かに、赤ズボン隊のグッズが売ってるっていう話は前に聞いたけど、まさか赤ズボンそのものが売ってるとは。
なんでもロマーニャではこの赤ズボンをクリスマスにプレゼントする習慣があるのだとか。
「それで、シャーリーはルッキーニにこれをプレゼントして、こう言えばいいんだよ。ごにょごにょ……」
ティナが今度はあたしにそっと耳打ちをしてきた。
「な!? あたしがそれをルッキーニに言うのか!?」
「うん。そうすればきっと、シャーリー達は素敵なクリスマスを過ごせると思うよ」
満面の笑みをあたしに向けながらそう言うティナ。
可愛い顔して随分と大胆なことを言う奴だ。赤ズボン隊、恐るべし。
――そして、ルッキーニの誕生日当日
「じゃじゃーん! みんな、見て見て~」
クリスマスパーティー兼ルッキーニの誕生会が終わり、みんなが談話室で談笑しているところに、
ルッキーニがあたしがプレゼントした赤いズボンを身に付けて入ってきた。
……やばい、可愛すぎる。
今のルッキーニにはいつもの縞々のズボンを穿いてる時とはまた違う可愛らしさがあって、なんだかすごく胸がドキドキしてくる。
お、落ちつけシャーリー。ここでドキドキするのはまだ早いぞ。
「わぁ、ルッキーニちゃん、可愛い~」
「でしょでしょ? 芳佳、もっと褒めて~。ねぇシャーリー、どう? 似合ってるかな?」
「ああ、似合ってるぞ。なぁ、ルッキーニ」
「なに、シャーリー?」
いよいよだ、いよいよ3日前、ティナに耳打ちされたことをルッキーニに言う時が来た。
あたしの胸の鼓動は先ほどより一層高鳴りを増す。
「実はさ、そのズボン、誕生日プレゼントじゃなくてクリスマスプレゼントなんだ」
「へ? それってどういう意味?」
「誕生日プレゼントが別にあるってことさ」
「え、本当!? どこにあるの?」
ルッキーニが目をきらきらさせながら、あたしの方を見てくる。
あたしは、そんな純粋なルッキーニの唇にそっと口付けを落とす。
「んっ……シャーリー?」
「……ルッキーニ、あたしを誕生日プレゼントに貰ってくれないか?」
「え?」
談話室に少しの間、沈黙が流れた。
その場にいた全員が、顔を真っ赤にしながらあたし達のことを見ていた。
最も、ハルトマンと坂本少佐は半分ニヤついていたけど。
「……それってつまり、あたしがシャーリーのことを好きにしてもいいってこと?」
沈黙を最初に破ったのはルッキーニだった。
心なしか彼女の目はさっきより一層輝いてるように見えた。
「ああ。なんてったってあたしはルッキーニの誕生日プレゼントだからな」
「ぱふぱふやゴニョゴニョもOK?」
「ああ、もちろん」
あたしがそう応えると、ルッキーニが今日一番の笑顔で笑ってくれた。
「やたっ! ぱふぱふし放題~。じゃ、行こっシャーリー」
あたしはルッキーニに腕を引っ張られながら、談話室を後にする。
なぁ、みんな。
もしあたしがルッキーニにぱふぱふやゴニョゴニョされて明日の朝起きれなくて、
寝坊したとしても大目に見てくれよ。
~Fin~