ヘルマの出張
「レンナルツ…ちょっと」
「はい?…であります」
どうも、最近苦手なニンジンを克服しようと野菜ジュースを飲んでいる第131先行実験隊「ハルプ」第三中隊所属、ヘルマ・レンナルツであります!
「明日から、ロマーニャへ飛んで」
「…へ??」
「これに参加してきて」
…とハルトマン中尉から封筒の中から1枚の紙を取り出し、それを渡されたであります。
「…テストパイロット労働組合?」
「そう。これに顔出してきて」
「でも………」
「上の言う事を聞くのも、たまには大事」
「ははあ…」
ハルトマン中尉も珍しく上の人の話を聞いたのでありますね;;;
***
我々のいるカールスラント・アーヘンからロマーニャ・ベネツィアまで飛行機を乗り継いで約3時間。
機内にて、封筒に入っていた小冊子を読んでいたであります。
「何なに…今回、テストパイロット労働組合の設立にあたりささやかではございますが親睦会を兼ねた立ち上げ式を催したいと思います………世界はまだネウロイの被害を受けてるってのに呑気でありますね!」
でもまあ1人でプンプンしてもしょうがないであります!
もっと言えばテストパイロットとはウィッチとして「上がり」を迎えた…ベテラン、いわば様々な戦いを経験してきた先輩方が務めるもの。もしその会場にネウロイが攻めてきても大丈夫なんじゃないですかね?
「代表のフェデリカ・N・ドッリオ…この人、絶対に自分の事が大好きなんであります!」
だって表紙が…自分の水着姿なんでありますよ…?;;
「う…う~ん;;大丈夫…かなあ?;;」
***
ロマーニャ・ベネツィアにある高級ホテル。そこの宴会場にて立ち上げ式が催されてたであります…が!
「みんなドレスやスーツ…;;」
会場に居た様々な国から参加したテストパイロットの方々はドレス等を着用していたでありますが、私だけカーキ色の軍服。もしかして…浮いてるでありますか??!!
「しょっ、しょうがないであります;;;」
さっきも言った通り本来、テストパイロットは「あがり」を迎えたウィッチが務める役職。
なので13歳の私がこの役職に抜擢されるということは異例だそうで(シュナウファー大尉談)。
そしてパーティーの最中、様々なウィッチに声をかけられ…第一声は「若い!良いわねー!」と始まり、色々なアドバイスを頂いたであります。
先輩ウィッチ方の有難いお話を聞けるのは良いんですが、何せお酒は飲めない…まあこの間の失態もありますが、そのせいであまり楽しめないであります。
ちょっと話疲れた頃、
「えぇい、せっかくだから何か食べるであります!!!」
…とビュッフェコーナーにあったミートソースのパスタを食べるであります。
「うん、流石本場!美味しいであります!!」
「あら、ホント?」
「はい!!」
…ん?今声かけてきたの誰でありますか?!
「お口に合って良かったわ」
「…あなたは?」
「ん?私?…ジュリエッタ・マシーナよ」
「…それ女優さんじゃあ…?;;」
「あ、バレた??まあ良いわ。いらっしゃい、第131先行実験隊『ハルプ』第三中隊所属のヘルマ・レンナルツ曹長」
「有難うございます!!もしかして貴方様は…!?」
と私はリュックから小冊子を取りだすであります。
「表紙の…あ!ドッリオ少佐!失礼しましたっ!!!!」
「良いの良いのよ~…それにしても、なんで軍服??」
「軍人たるもの、軍服は死ぬまで着続けるもの…と!」
「うん;;その気持ちは大事だけど、時と場合によるわね;;」
「…と言いますと?」
「え~とね…このパーティーは普段疲れたウィッチ達を解放させる目的もあるの。なのにあなたのその格好を見たら仕事モードから離れられなくなっちゃうでしょ?」
正しい…!確かに、そう考えるとドッリオ少佐が言ってる事は正しいであります;;;
「ごめんなさい…」
「別に謝る事はないんだけれど!;;…あ、でも」
「何か…?」
ゆっくりと私の軍服の胸の辺りを指差すドッリオ少佐。
「胸が発達してない事でありますか…?」
「違う違う…もっと重大な事よ」
「…あっ!!??」
やってしまったであります…っ!!!
軍服に先ほどのパスタソースが…撥ねてるであります!
「あぁぁぁぁ…っ」
「替えの服はあなた、持ってないの?」
「はい…この軍服しか…。どうしよう…」
「あっ!」
今一瞬、ドッリオ少佐の頭の上に豆電球が!?;;
「良いわ、ちょっとこっち来て!」
「へっ?!」
…と少し強引に腕を掴まされ、会場を出たであります。
連れて行かれる事約3分…着いたのは1階のロビー近くにある貸衣裳屋さん。
「あ、ここで服をお借りすれば!」
「う~ん…ただ単に服を借りるだけじゃツマらないわね」
「え??」
「良いわ、メイクさんも」
「っ!!??」
…ドッリオ少佐、強引過ぎます;;
と言うかこの貸衣裳屋さん!ドレスしかないではありませんか!!!
「よし、さっそく変身してみよう♪」
「変身って…えぇっ?!」
***
約30分後。
シャーッ...
試着室のカーテンが開かれるとともに、ドッリオ少佐は
「うわあ…可愛い!可愛過ぎる!可愛過ぎて殴りたくなるわ!!」
「それ、冗談なんですか?本気ですか?;;」
「ウソに決まってるじゃな~い。ものすごく似合ってるわ!」
実は言うと…鏡は一切見てなかったであります;;
何故か怖くて…軍服を脱いだ自分はどうなんだろう?と言う一種の不安があったんであります。
恐る恐る目を開け、全身の写る鏡を見たであります………
「えっ…これ、自分でありますか…?」
「うん、そうよ」
そこにはフリフリとした薄いピンク色のドレス、そしてツインテールの髪型にした自分が居たであります。
ただこの髪型だとずいぶん幼く見えるでありますね;;;
「でも…ちょっと恥ずかしいであります;;」
「なぁに言ってるの、会場の中だけなんだから。それで外へ出なさいとは言わないから;;」
「でも…うわあ…うわあ!!!!」
「ふふふふ…」
何だろう、自然と笑みがこぼれて来たであります!変わった自分…これはこれで楽しいのかもしれませんね!!!
「仕上げにっと…」
「何ですか?」
そして瓶を片手にドッリオ少佐は笑っていたであります。
「あ、これ?ガリアのなんだけどね…シャネルの『No.5』って言うフレグランスよ」
「チャンネル?」
「シャネル!そんなうさんくさいブランド品じゃないんだから;;」
あ…良い匂いであります!教科書で読んだ、ガリアに居た昔のお姫様…マリー・アントワネットになった気分でありますね!
「さっ、行こっか」
「はい!」
その後、おめかしした格好でパーティーへまた行ったであります。
お姫様の時代にあった「社交界」…なんだか今の私にわかる気がするかもでありますね!
最後に参加全員で記念撮影!…カメラマンの方にワガママ言って、こっそり私だけの写真も撮ってもらったであります!
***
「ヘルマ・レンナルツ曹長!只今戻ってきたであります!」
帰国し、まずはロマーニャのお土産を私にウルスラ・ハルトマン中尉の研究室へ。
「………」
「あの~ぅ、ハルトマン中尉…只今戻ってきたであります…?」
「………」
「あの~…」
「知ってる」
あれ…?
なんか不機嫌でありますね;;;
「………」
「あ、ハルトマン中尉。これ、お土産の『ロマーニャまんじゅう』です」
「………」
「えっと…」
すると無言である紙を出してきたであります。
「何ですか?これ?」
「…請求書」
「へ???」
「別に遊びに行けって私は言った訳じゃない」
「はっ、はあ…」
「そして経費を私用に使うのは良くない」
…んんっ!!??
それは………
「ドッ、ドレスの請求書?!」
貸し衣裳のドレス代、ヘアメイク代、軍服のクリーニング代、お写真代、二次会のカラオケ代、ちょっとお姫様気分になりたくて注文したルームサービス代、そしてホテルのサービス料込で…
「えっと………え?!これ…ゼロが2つほど多い気が;;」
「そんな事、私は知らない」
扶桑円にして約15万円。
と言うかでありますねぇ!!あの流れだったら普通、ドッリオ少佐が…っ!!!!
「あとこんな写真も郵送で」
「っ??!!」
「…レンナルツにツインテールは似合わない」
…と謎の笑みを浮かべて、奥の部屋へ行ってしまったハルトマン中尉でした…。
ちなみにお代は私のお給料…だけじゃ足りなかったので、シュナウファー大尉に借りて事なきを得たであります!
こんな偏見はあまり良くないでありますが…さすが「細かい事を気にしないの陽気なロマーニャ人」と少し思ってしまったであります…。
【つづく】