the night watch bell
ごーん、と低い音が周囲に響く。
「うむ、これを聴くと、年越しを感じるな、宮藤」
「はい、坂本さん! でも……」
「どうした?」
「ロマーニャの基地に勝手に持ち込んで、取り付けて、鳴らしちゃって良いんでしょうか?」
「はっはっは、問題無い! ミーナから許可は貰っている。わざわざ扶桑から取り寄せたんだ、風情も出るだろう」
「さすが坂本さん」
「それに、501は煩悩を持った者が妙に多いからな。……宮藤、お前もだぞ?」
「え? は、はい!」
「だから今夜は百八回……いや、全員分の鐘を突く位の勢いで鐘を突いて突いて突きまくるぞ! はっはっは!」
「坂本さん、それは多過ぎです。流石に夜が明ける気がします」
「はっはっは、問題無い! 扶桑の有名な寺では一日中鳴り響いて皆の煩悩を清めているのだ」
「はあ……」
「ちょっと美緒! 今の音、何!?」
「ああミーナか、良い所に来た。除夜の鐘をだな」
「これが……貴方がさっき言ってた、鐘? 随分重厚で大きいのね」
「これでもサイズは小さい方だぞ、ミーナ。扶桑にはシャーリーが数人分位すっぽり入る大きさの鐘だって有るんだ」
「……扶桑の習慣ってホント、変わってるのね」
「どうしたんですかミーナ中佐、眉間に皺寄せて」
「基地の者全員に、この鐘の音をどう説明しようかと思って」
「扶桑の者なら誰もが知っている! 問題無い! はっはっは!」
「他国の人間は誰も分からないわよ! いきなり基地中に鳴り響いて、びっくりしたわ……」
「ではミーナ、教えてやろう。この除夜の鐘とは、大晦日の夜、百八回鳴らす事で、個人の煩悩を清める効果が有る、とされている」
「そ、そうなの……しかし、この鐘、妙に余韻が耳に残るわね」
「欧州の教会に有る様な鐘とは構造も鳴らし方も違うからな」
「ウジャー ここだよシャーリー! 見つけた!」
「ああ、これかあ。さっきの妙な音の発生源は」
「おお、シャーリーとルッキーニ。ちょうどいい所に来た。お前達も鐘を突け」
「え? あたし達が鐘を?」
「ウニャ なんで?」
「この鐘を突くと煩悩が消えるのだ。ルッキーニ、お前は煩悩だらけだからな」
「なにそれー」
「まあ、良いからやってみろ」
「ホイショー」
コーン
「ルッキーニ、それじゃあ力が足りんな。かすった程度で軽い音になっているぞ」
「じゃあ、バルクホルンを呼んで来よう。確かミーティングルームに居た様な。あいつに魔力解放して貰って……」
「鐘が割れるから止めてくれ」
「ああ、やっぱり。じゃあ、代わりにあたしが」
ゴーン……
「おお、なかなかスジがあるぞシャーリー! 良い響きだ! ……ん? ルッキーニは何処へ行った?」
「アウアー…… シャーリー、中響く……」
「おいルッキーニ大丈夫か!? 何で鐘の中に入ってたんだよ?」
「何か面白~い響き方してたから、中入ったらもっと面白~いかもと思ってぇ……」
「だからって中に入る奴があるか? 耳大丈夫か?」
「耳は大丈夫だけど、頭の中がごわんごわん、ゆれてる感じする……」
「おいおい……」
「はっはっは! ルッキーニも少しは煩悩が消えたか?」
「少佐、それはちょっと違うと思います」
「じゃあ、次は私が鳴らしますね」
「宮藤さん、私にもやらせて頂戴」
「あ、はいミーナ中佐。どうぞ」
ゴーーーン……
「ミーナもなかなか良いぞ! 力がこもった、良い突き方だ」
「美緒、貴方の為を思って、ね。例えば、この前の、遺跡の事とか……」
「私? 遺跡? 何の事だ? はて……」
「こ、これだからッ!!!」
「ちょっ、おいミーナ待て! すまん宮藤、適当に突いててくれ。私はミーナを追い掛ける」
「は、はあ……坂本さん行っちゃった」
「少佐……。ありゃ中佐がかわいそうだわ」
「まあ、とりあえず鐘、突きますね。501の皆さんの幸せを祈って」
「何かそう言うと雰囲気出るな、宮藤」
「はい」
「あたしももう一回鳴らす~」
除夜の鐘は尽きることなく朝まで続く。
end