cherry and berry


 芳佳は目覚めた。目覚めたと言うより、起こされたと言った方が正しい。
 太腿に、何かの感触が残る。それは指か何かやわらかいモノが、這いずった痕。そのショックで起きたのかも知れない。
 目を開けるも、視界はタオルか何かの布で縛られて、何が起きているか分からない。
 口も布で縛られる。んー、うー、と唸るのがやっと。
 全身が束縛されている。椅子に手足を縛られ、がたがたと揺らすも、身動き一つ取れない。
(どうして私が?誰か!)
「おはよう、芳佳ちゃん」
 声の主はサーニャだった。穏やかで優しげな声。
(サーニャちゃん!?)
 芳佳は大声を上げたつもりだったが、がっしりと食い込んだ布に阻まれ、言葉が出ない。
「やっと起きてくれた?寝間着姿も可愛いよ」
 闇の中で、声と気配が動く。正面から右、背後、そして耳元。
「これでもう大丈夫だね」
(……!)
 射抜かれるような、昏く冷たい囁き。その一瞬の変貌に芳佳は恐怖した。
 しかしそれがまるで気のせいであったかと錯覚するような優しい声が続く。
「芳佳ちゃんがもうどこにも行かないって思うと、すごく安心する……」
(何でそんな嬉しそうなの?それに、何でこんな……)
 芳佳は戸惑った。どうしてこうなったのか聞きたかった。そして早く解放して欲しかった。でも……
「ねえ、芳佳ちゃん。リーネさんばっかりって、ずるいよね」
 およそ考えつかなかった科白に困惑する芳佳。唸りながら首を横に振る。
 その様子を見てサーニャは満足そうに微笑むと、おもむろに芳佳の身体を強く抱きしめた。
 動けない芳佳を、それでも足りないというようにきつく、苦しいほどに────
 そして首筋に顔をうずめ、甘い香りにうっとりと恍惚の表情を浮かべる。
 思いがけない温かさに少しだけ気を緩める芳佳であったが、
 次に聞こえてきたのは、背筋の凍りつくような、狂気さえ感じるほどのぞっとする声だった。
「嘘ばっかり。嘘吐きな子は、お仕置き、しないとね」
 耳元に、ふーっと息が吹きかけられる。ひゃうっと首をすくめる。サーニャの甘い吐息が、僅かに残る。
 数秒の空白。芳佳は、柔らかな耳たぶをじっとりと舐られて居る事を感じる。
 びくびく、と身体が勝手に動く。
「芳佳ちゃん、ここも弱いんだ」
「う……あ……」
「ふふっ、言わなくても大丈夫、芳佳ちゃん」
 首筋に、唇を這わせる。唾液の雫が僅かに滑り、痕を引いて鎖骨にまで到達する。
 身じろぎ出来ない程、きつく締められている。抵抗出来ない。関節がぎりぎりと軋む。
 ふう、と息をつき、舌なめずりする音が聞こえる。
(まさかサーニャちゃん?)
 ぺろり、と不意に鼻先を舐められる。んんっ、と思わず首をすくめる。
「可愛い芳佳ちゃん」
 サーニャは芳佳をそっと抱きしめ、布の上からそっと唇を重ねた。
 僅かな感触だが、触れ合う事で、サーニャ本人である事、彼女の意志で行為が続いている事を知る。
 長い長いキスが終わり、サーニャはぎゅっと、芳佳を抱きしめた。
「次はどうしようかな……」
 サーニャはそう言うと、両手で芳佳の体をまさぐるように撫で始める。
 そしてぴったりくっついた芳佳の太腿に触り、無理矢理押し広げた。
「芳佳ちゃん、ふふ、その格好……」
 抵抗するも、サーニャのしなやかな指先で撫でられると、不思議と力が入らなくなる。何故?
 だらしなく股を広げている格好になる芳佳。羞恥心と、困惑と不安、それらが入り交じる。
「芳佳ちゃんの表情、もっと見てみたいな」
 そう言うと、サーニャはおもむろに芳佳の股をつつーっとなぞり、秘めたる場所に辿り着く。
 躊躇なくズボンの中に手を入れ、じんわりと湿ったポイントに、細い指を入れる。
 くちゅ、くちゅ、と音がする。
 芳佳は玩ばれている。音しか聞こえないこの状況で、サーニャにやられ放題。
 だけど。
 理性とは別に身体的反応は実に素直で、芳佳の秘所はサーニャの指のリズムに合わせて、じんわりと汗をかく。
「んーっ!んんー!」
「ここが良いの?芳佳ちゃん、随分いやらしいんだ……」
 サーニャは指を更に奥に入れ、乱暴にかき混ぜ、敏感な場所をいじり、つねり、きゅっとつまんだ。
「んんんーーっ!」
 芳佳は自然と腰を振っていた。サーニャの指に反応して、自分から求めていた。
(違う、違うの……こんなんじゃ……)
「んっ、んん、んんっ……」
「芳佳ちゃんのイク顔、見せてね」
 サーニャは耳元で言うと、芳佳のアナルにまで指を伸ばし、中指を挿れ、こすり、前と後ろ両方で玩ぶ。
 耐えきれなくなった芳佳はがくがくと腰をびくつかせ、極みに達すると、だらしなく力が緩んだ。
「可愛い、芳佳ちゃんのイク顔。もうちょっと見せてね」
 サーニャはまだ痙攣が止まらない芳佳を更に虐めた。間も無く、快楽の第二波が絶頂となり芳佳を襲う。
 俎の鯉。まさに魚のように激しく、小刻みに痙攣して、動けない体が跳ねる。
 サーニャは腹で息を繰り返す芳佳の太腿にまたがり、縛っていた轡を解く。
 呼吸を整える間もなく、もう一度強引に、今度は直に口吻を交わす。
「っぷは、はあっ……はあっ……サーニャちゃん、どうして、こんな……んんっ……」
 サーニャは芳佳の口に、先程まで自身を苛めていた指を入れた。
「自分のは、自分で綺麗にしないとね」
「ん……」
 もう片方の指を、にちゃっと言わせ、代わる代わる指を芳佳に舐らせるサーニャ。ふふ、と笑う。
「じゃあ、いい顔をしたご褒美」
 息つく暇も無く、口に何かが押し込まれる。ほのかに甘い。パンケーキらしかった。
「しっかり食べて、元気出してね?」
 とんでもない状況なのに、サーニャの言う通りにしてしまう芳佳はもはや考えることもできない。
 一口、二口と食べさせられると、サーニャの濃いキスが待っている。
「芳佳ちゃん、お水欲しい?」
 サーニャは立ち上がって薄手のカップに紅茶を注ぐと、芳佳に咥えさせた。
「うまく飲んでごらん。落とすと火傷するかも?」
「ほ……ほんはあ……」
 カップを噛んだまま、何も出来ない芳佳。サーニャはそんなのお構いなしに、芳佳の鎖骨につーっと舌を這わせる。
「ひっ!」
 びくりとした拍子に、カップを落とす。太腿の上で一度バウンドして中身を芳佳にぶちまけた後、
カップは床に落ちてばりんと割れた。
「あっつい!」
「もう、粗相しちゃダメでしょ、芳佳ちゃん?」
「サーニャちゃん、酷い……ひどいよぉ……」
「泣かないで芳佳ちゃん。だって私だけの芳佳ちゃんだから」
「どうして?どうしてサーニャちゃん?」
 サーニャはひとつ縄を解くと、芳佳の寝間着に手を掛けた。
「あ、サーニャちゃん、待って」
 肩の端を引っ張り、ずるっと剥く感じで下に下ろし、肌を露わにさせる。
 芳佳の乳房が顔を出した。
「残念賞?でも私にはとっても可愛く見える」
 サーニャは寝間着の間から飛び出した芳佳の乳首をじっくりと眺める。
「み、見ないで……」
「わかった」
 言うなり、サーニャは芳佳の乳を、吸った。マシュマロの様な柔らかさを楽しんでいる。
「いやぁ……やめて、サーニャちゃん……」
「もっと刺激を与えれば、もっと大きく、可愛くなれるから」
 サーニャは執拗に芳佳に乳首を舐り、舌の上で転がした。
「お乳と言えば、ミルクよね」
 いつ用意したのか、温かなミルクの入った瓶を、芳佳の乳房にたらりと流す。
 胸から腰に掛けて、白い液体が流れていく。
 そしてゆっくりと、ほんのり甘味のついた芳佳の乳房を舐るサーニャ。
「いや……やめ……うんっ……あはあっ……」
「いやらしい芳佳ちゃん。上も下も、びしょ濡れ」
「ち、違うの、サーニャちゃん……私、私……」
 サーニャがほんの少し歯を立て、きゅっと吸った。
 スイッチが入ったのか、芳佳はだらしなく喘ぎ、またもがくがくと身体を震わせた。
「胸でもいっちゃった。いやらしいんだから。でも、可愛い」
 椅子の下には既に、芳佳の体液とミルクがだらしなく混じり水たまりが出来ていた。
「芳佳ちゃん、次のお願い聞いてくれたら、椅子からベッドに移してあげる」
「サーニャちゃん……」
 芳佳は既に逃げる気力も失せ、ぼんやりとサーニャを見ていた。
 逆らえない。
 抗えない。
「これからはちゃんと、私だけを見て」
 芳佳は、耳元で囁くサーニャの甘い吐息を胸一杯に吸い込み、吐き出した。
「うん……」
 小さく、頷く。
「じゃあ、行きましょう」
 ここが何処かも分からず、未だ身体の自由が利かないまでも、芳佳は、ただ全てをサーニャに委ねる他無かった。
 椅子ごとベッドに持って行かれ……そして何かに繋ぎ止められ……ごろりとベッドに転がる。
「可愛い。芳佳ちゃん。もうずっと、一緒だよ?」
 サーニャの声が、頭の上から聞こえた。その後何をされどうなったのか、芳佳の記憶は途絶えた。

end


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