マルチナのせくしーカレンダー
――1月7日、504JFWにて
「え? ルチアナへの誕生日プレゼント?」
「うん。何をプレゼントしたらいいと思う?」
ルチアナの誕生日を3日後に控えたその日、ぼくはフェルを自分の部屋に呼んでルチアナへのプレゼントの相談をしていた。
一応、隊のみんなでお金を出し合って購入したプレゼントはあるのだけれど、それとは別にいつもお世話になってるルチアナに
日頃の感謝を込めて、ぼく個人から彼女に何か特別なものをプレゼントしたいと考えていた。
そこで、原隊の隊長でケンカ友達でもあるフェルに相談を持ちかけたんだけど……
「そうねぇ……リボンを身体に巻いて『ぼくがプレゼントだよ♪』って言うのはどうかしら?」
「それ、ぼくが前にジェーンやシャーリーに勧めた方法じゃん。自分でやるのは何だか恥ずかしいよ」
「あら。人に勧めといて自分はできないの?」
「じゃ、じゃあフェルは、竹井にプレゼントとして自分を差し出せるの?」
「な、なんでそこで竹井の名前が出てくるのかしら!? でも、そう言われると確かに、
自分をプレゼントにするのって恥ずかしい気がするわ……」
「だよね……」
ぼくもフェルも顔を真っ赤にして黙り込んでしまう。
ぼくったら、何て恥ずかしいことを人に勧めてたんだろう……
「えっと……じゃあ裁縫道具セットをプレゼントするのはどうかしら? ほら、ルチアナって裁縫得意だし」
しばらくの沈黙の後、フェルが口を開く。
「それは去年プレゼントしたよ」
「それじゃあ、調理器具とかは?」
「それは一昨年」
「う~ん、やっぱり自分をプレゼントするしかないんじゃないかしら?」
「だから、それは絶対ダメだって~」
「ふふふ、話は聞かせて貰ったわ!」
その時、突然ベットの中からフェデリカ少佐が現れた。
ええ!? 一体どうなってるの!?
「少佐、いつからそこに!? てゆうか何でぼくのベッドから?」
「細かいことは気にしないで。それよりティナ、誕生日プレゼントに困ってるならいいアイデアがあるわよ」
「え? なに」
ところでさらっと流そうとしてるけど、人の部屋のベッドに潜り込むのは「細かいこと」じゃないと思うんだけど。
「ふふっ、それはね……ティナのせくしーカレンダーよ!」
「は?」
一瞬、フェルの部屋に再び沈黙が流れる。
呆れ顔のぼく達とは対照的にフェデリカ少佐の顔は妙に得意げだった。
せくしーカレンダー――それは、前線で戦う兵士達の戦意高揚のためにかつてフェデリカ少佐が企画した
文字通りウィッチのせくしーなカレンダーのことだ。
まぁ結局、「高揚し過ぎちゃうから危ない」との理由でロマーニャ公からやんわりと止められたらしいけど……
「それって少佐の趣味じゃ……」
「ええそうよ。私はティナのあんな写真やこんな写真を撮ることができるし、ルチアナは喜んでくれる。
こういうのを扶桑の諺で『一石二鳥』っていうらしいわ」
うわ、あっさりと認めちゃったよこの人。
でも、考えてみればカレンダーは貰って困るものじゃないよね。
少佐の言う「あんな写真」や「こんな写真」がどんなものなのかはちょっと気になるけど……
「分かった。やってみるよ」
ぼくがそう言うと、少佐はお菓子を貰った子供のような笑顔を浮かべてきた。
「ティナならそう言ってくれると思ったわ。それじゃあ早速だけど、これを着て頂戴」
少佐がぼくの部屋のクローゼットからバレリーナの衣装を取り出しながら言う。
「え? これを着るの?」
「ええ、ティナにバレリーナの衣装は欠かせないでしょ。フェル、悪いんだけど私の部屋からカメラを取ってきてくれるかしら?
隊の記録用のじゃなくて、私の趣味用の方ね」
「了解」
――数分後
「少佐、カメラを持ってきました」
ぼくが(フェデリカ少佐に凝視されながら)バレリーナの衣装に着替え終わると同時に、フェルが少佐のカメラを持ってやってきた。
「ご苦労様。それじゃ、始めましょうか」
「う、うん」
こうしてフェデリカ監督のもと、カレンダー用の写真撮影が始まった。
最初の数枚はベッドに座ってるだけのシンプルな写真の撮影だったんだけど……
「う~ん、今のままでも可愛いけど、もうちょっとせくしーなポーズが欲しいわね」
4枚目の写真を撮り終わった後、少佐が不意に呟いた。
「せ、せくしーなポーズって何!?」
「口で説明するより、実際に見て貰ったほうが早いわ。フェル、お手本を見せてあげて」
「な、何で私が!? てゆうか私もせくしーポーズがどんなものなのか知らないんですけど」
「それなら大丈夫。私が教えてあげるから。あのね……」
少佐はフェルにこっそりと耳打ちをする。
黙って聞いていたフェルの顔がだんだんと真っ赤になっていく。
あれ? 口で説明できるなら、少佐がぼくに直接教えてくれれば良かったんじゃ……
「ふ、ふざけないでください! なんで私がそんなポーズを……」
「あら。赤ズボン隊のリーダーさんは、困っている仲間を見捨てるような薄情者だったかしら?」
そう微笑みながらフェルに圧力をかけるフェデリカ少佐。
……絶対にサディストだよ、この人。
「わ、分かりました! やりますよ。いい、マルチナ? よ~く見てなさい」
フェルはそう言うと、ぼくの口からはとても言えないようなポーズをとり、それを少佐に激写される。
ヤバイよこれ。バレリーナの格好でそんなポーズとったら、色々とシャレになんないって!
「さ、こんな感じでせくしーポーズとってみて」
せくしーポーズをとるのはすごく恥ずかしいけど、フェルの犠牲を無駄にしちゃダメだよね。
ぼくは覚悟を決めてせくしーポーズをとる。
父様、母様、何て言うか……名家のレディらしからぬ親不孝な娘に育っちゃってごめんなさい。
――そして3日後の昼、談話室にて
「それで、これが完成したティナのせくしーカレンダーってわけね」
カレンダーの完成品を見ながら竹井がそう呟く。
「……恥ずかしいからあんまり見ないで」
結局、あの後バレリーナでの撮影を終えるとフェデリカ少佐の部屋に連れて行かれ、
水着やナース服、更にはサンタ服など計11着の衣装に着替えさせられた。
しかも、全部の衣装でそれぞれ違うせくしーポーズを強要された。
もし、父様や母様がこのカレンダーを見たら一体何て言うだろう……考えたくもないや。
「ルチアナ、こんなカレンダーで喜んでくれるかな」
「大丈夫よ。だって、ティナが身体を張って撮ったカレンダーだもの。きっと気に入ってくれるわ」
ぼくの頭を撫でながら、そう微笑んでくれる竹井。
竹井は本当に良い人だね。少佐やフェルが一目置くのも分かる気がするよ。
「ありがと、竹井。それじゃあルチアナに渡してくるね」
「頑張ってね」
ぼくは談話室を後にして、ルチアナの部屋へと向かう。
ああ、なんだか胸がすごくドキドキしてきた……
「ルチアナ、いる?」
ぼくは、ルチアナの部屋の扉をコンコンと2回叩く。
「ティナ、どうしたの?」
10秒も待たずにルチアナが扉を開けてくれた。
ちょ、ちょっと待って! まだ心の準備ができてないんだけど!
「えっと、ルチアナ、た、誕生日おめでとう! これ、ぼくからのプレゼントだよ!」
ぼくは勢いに任せてルチアナにカレンダーを渡す。
「ありがとう。これは……カレンダー?」
ルチアナがぼくのせくしーカレンダーを1枚ずつゆっくりとめくっていく。
うぅ、自分をプレゼントにするのよりよっぽど恥ずかしいよ。
「ティナ、すごく可愛いよ。これを私のために?」
「うん、発案したのはフェデリカ少佐だけど」
「本当にありがとう、ティナ。素晴らしい誕生日プレゼントだよ」
ルチアナがそう微笑みながら、ぼくを優しく抱きしめてくれた。
「ふぇ……ル、ルチアナ!?」
「このカレンダー、大切に使わせてもらうね」
「う、うん……ありがと」
その言葉通り、ルチアナはぼくのせくしーカレンダーを部屋に飾ってくれた。
彼女の部屋を訪ねる度に自分のあられもない姿が映ったカレンダーが目に入るのはやっぱり恥ずかしいけど、
ルチアナが喜んでくれて本当に良かったよ。
~Fin~