they need you, i need you...


 アメリーはトラックから降りると、どんと眼前にそびえ立つ501基地を眺めた。
「これが、501の……」
 ごくり、と唾を飲み込む。自由ガリア空軍からの補給……ストライカーユニットの部品や食料、
些細だが「慰問」と称して贈られる幾つかの嗜好品など……の護衛を任され、ようやくかの地へ辿り着いた。
 そして何より、アメリーにはどうしても逢いたいひとが居た。今日こそは。
 いつの間にか門前で仁王立ちしている自分に気付き、アメリーは慌てて501の基地へと向かった。

「ようこそ501統合戦闘航空団へ。補給及び連絡の任務、ご苦労様です、プランシャール軍曹」
 執務室に通されたアメリーは、大人びた風貌の佐官からねぎらいの言葉を受ける。カールスラント空軍の制服を着ている。
「あっありがとうございます」
「礼を言うのはこちらの方だ。補給品だけでなく他にも色々と……。こんなに良いのか?」
 扶桑人と思われる佐官も、書類のリストを見てアメリーに聞いてくる。
 よく見るとこの扶桑人、以前ブリタニア駐在時にあの人をスカウトしに来た……? と気付くアメリー。
「ほ、ほんの気持ちですから! どうぞご自由にお使い下さい」
「では、後で隊員達に使わせるとするか。それで良いか、ミーナ」
「ええ、そうしましょう」
「あっあのっ!」
 意を決したかの様に、問いかける……つもりが大声をだしてしまい自分でも慌てるアメリー。
「どうした、そんなに焦る必要もないだろう」
 笑う扶桑の佐官。
「ごっごめんなさい。その、あの……ペリーヌさんは何処に居ますか!」
 あっ、と自分の口を手で覆う。そして言い直す。
「すいません。クロステルマン中尉は、どちらに……?」
「ペリーヌさん? 確か……」
「今はロンドンの自由ガリア空軍連絡所に出掛けている筈だが」
「えっ」
 動揺を隠しきれないアメリー。
「何でも使用しているストライカーユニットの件で軍と連絡を……おい、どうした?」
 アメリーの目に溜まる大粒の涙、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「そんな、すぐに帰って来るから、泣かなくても」
「せっかく会えると、思ったのに……」
 ぐすっと鼻を詰まらせる。涙が止まらない。
「いや、あと半日もすれば戻って来る筈だ」
「は、半日!?」
 思わず大声を上げた事に、佐官ふたりはぎくりとした。
「半日がどうかしたの?」
「私、あと一時間程で帰らないと……。ぐす……、うええっ……」
「あら……。それは残念ね」
「会いたかったです~」
 落胆が悲観に代わり、泣き止まないアメリー。
「参ったな……こう言う時は誰を呼べば良いんだ?」
「そうね。リーネさんと宮藤さんをここに」
「了解。適任だな」

「はいどうぞ。カモミールティーですよ」
 ブリタニアの軍曹からカップを渡されたアメリーは仰天した。リンゴの様な、爽やかな香り……
「こっ、これは」
「どうかしました?」
「このカモミールティー、何処で?」
「何処でって、ペリーヌさんが教えてくれたんですけど」
「ああ、なるほど……」
 複雑な表情をするアメリー。
 そんなアメリーを見たブリタニアの軍曹と扶桑の軍曹は、顔を見合わせ、どうしよう、と呟いた。
 アメリーは二人に問うた。
「あの、ひとつ聞きたいんですけど」
「はい」「なんでしょう?」
 同時に答える二人の軍曹。
「お二人は、ペリーヌさんのお友達さんですか?」
「えっ!? え、は、はい」
「私はどうか分からないけど……一応、仲間、かな」
 戸惑い気味に肯定するブリタニア娘、苦笑いして頭を掻く扶桑娘。
 カモミールティーに口を付けるアメリーを見て扶桑娘は言った。
「やっぱり。ね、リーネちゃん」
「でも芳佳ちゃん、この人、何だか悲しそう……」
「お気になさらず。私もガリアの軍人ですから……ですから」
 またも涙目になるアメリー。
「ああっ何故泣くの?」
 人目も憚らず、アメリーはまたも涙目になった。
「ペリーヌさんに会いたかった……」
 ぽつりと、呟く。
「ごめんなさい、今日は居ないの。代わりにこのカモミールティー、飲んで」
「ありがとう、ございます……」
 ブリタニア娘は、少し顔を覗き込んで言った。
「ペリーヌさんが言ってました。このお茶を飲むと落ち着くって」
「……それ、私がペリーヌさんに教えて差し上げたんです」
「そうだったんですか」
「意外なルーツ発見だね、リーネちゃん」
「そうだね芳佳ちゃん」
「……あ! て事は、貴方があのアメリーさん?」
 何かに気付いた扶桑娘は身を乗り出した。
「ほえ? 私ですけど、どうかしました?」
 カップを手にきょとんとした顔をするアメリー。

 小一時間後。
 扶桑の娘と、ブリタニア娘から、事の次第を聞いたアメリー。
 ペリーヌが、かつての自由ガリア空軍時代の事を皆に話した事。
 扶桑の軍人がやって来て……、模擬戦でこてんぱんにやられた事……、501JFWへのスカウトを受けた時の事……
 その後アメリーからカモミールティーを振る舞われ、淹れ方を教わった事。
 そして……。
「そうですか……ペリーヌさん、忘れてなかったんですね」
 手にしたカップの中で漂う液体、花びらの一片をじっと見つめるアメリー。
 爽やかな香りは、何故か自分が教えた筈なのに、いつのまにかあのひとそのものに見えて。
「ペリーヌさん」
 アメリーは、お茶の中に自分の存在を見出し、ふと、微笑んだ。

「帰りは気を付けてな」
「何も無いとは思うけど、万が一の時はすぐに連絡を。掩護に向かわせるわ」
 501の佐官ふたりが見送る中、トラックに乗り込んだアメリーは礼を述べた。
「お気遣い有り難う御座います。一応、トラックには私のストライカーユニットと武装、発進ユニットを積んでありますから」
「それは頼もしいな。でも501に来たんだ、もっと我々を頼ってくれても良いんだぞ?」
「いえいえ。……あの」
「? どうした」
「すいません、取り乱して……色々と」
 恥ずかしげに言ったアメリーの言葉を一蹴するかの様に、扶桑の佐官は笑った。……あの時と同じ笑い声。
「扶桑の諺に『旅の恥はかき捨て』と言うのが有ってな。長居する訳では無いから、特に気にするなと言う意味だ」
「はあ」
「だから、ペリーヌには内緒にしておく」
「そ、それはどうも」
「ただ、プランシャール軍曹が来た事だけは伝えておこう。……何か伝言は有るか?」
 不意に扶桑の佐官から聞かれ、答えに詰まるアメリー。
「あ、あの……」
 咄嗟に思い付かない。そして繰り返してしまう。
「お会いしたかったです、と……」
「そうか。分かった。伝えよう。何、大丈夫。すぐに会えるさ」
「えっ、何で分かるんですか?」
「なぁに、勘だよ、勘。何となくそんな気がしてな」
 笑っていた扶桑の佐官は、ふと顔を引き締めて言った。
「だから会えるまで、絶対に生き残れよ」
「は、はい! 頑張ります」
「宜しい! ペリーヌも喜ぶだろう」
 またも笑う。呆れ顔をするカールスラントの佐官は、アメリーに言った。
「では、そろそろ時間ね。気を付けて」
「はい。皆様も、ご武運を」
「有り難う」
 こうして、アメリーは501基地から去った。帰路敵襲も無く、基地に戻る頃にはトラックの席でうつらうつらとしてしまっていた。

 後日、アメリーに一通の手紙が届く。
 ペリーヌからだ。
 生憎の“不運”を嘆く言葉、様々な補給品に混じり、乾燥カモミールティーを差し入れしてくれた事の感謝。
 手紙によると、基地でアメリーが飲んだカモミールティーが、501に残っていた“最後の一杯”だったらしい。
 ちょうどのタイミングで、入れ替わる様にやって来た事を喜んでいる様だ。
 乾燥カモミールティーはいつでも手軽に使える事から、重宝しているとの事。
 そして、ペリーヌも基地の中庭で、カモミールの花を育てている、と言う事も書かれていた。
 手紙を読み終え、アメリーは決心した。
 もう一度、カモミールティーを淹れてあげたい。
 もう一度、会いたい。
 その為にすべき事はひとつ。あの扶桑人が言っていた事を、する。
 それが自分の為にもペリーヌの為にもなると、彼女だけでなく、皆が分かっている事だから。

end


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ