ヘルマの風邪


「くしゅんっ!!!!」

ハルトマン中尉の部屋…なんだか寒いような…?

「風邪…?」
「いえっ!誰かが私の事を噂してたんだと思います」
「…じゃあヘルマ、よろしく」
「りょ、了解でありますっ!!!!」

この間フルーツ風味の歯磨き粉を卒業しました!!ヘルマ・レンナルツであります!(ビシッ
普段、私の所属している部隊は実験ばかりしているのですが…なんと今回!!ハインリーケ大尉の部隊に期間限定ですが、出向することになったのであります!
なのでその報告をハルトマン中尉にしているところであります。


***


「しっ、失礼するであります!」
「入れ」

ガチャッ...

「本日よりそちらに出向します、ヘルマ・レンナルツ曹長であります!」
「知っとる」
「よろしくお願いします!」
「ふっ…」

ハインリーケ大尉は足を組み、こちらを見てるでありますね;;
ホンットに裏で『姫』って呼ばれてるだけあります。

「まっ、せいぜい頑張るが良い」
「はい!…え?」
「何故か妾の下に来た新人の部下は皆『親が危篤で』『風邪を引いて』『家のペットが心配なので』…と何かしら理由を付けて、出向期間途中に原隊へ帰ってしまうヤツが多いのだ。まっ、そうならんようせいぜい頑張れ」
「は…ははあ…」
「前にここにおったヤツも一昨日までここに居たんだが…急に『原隊でトラブルがあった』と言って帰ってしまったのだ」

うわあ…何ですか、その典型的なウソは!!;;
…でもそんなに辞めてく人間が多い部隊なんですね;;;

「軍の方に緊急に兵を補充してもらうよう頼んだんだが…まさかお前だったとは」
「人を車検の代車手配のような感覚で呼ばれたんでありますね;;…でも!空の上とプライベートは関係ありません!以後、よろしくお願い…へっ…へっ…へっくしょん!!!!」
「…よろしく」



私が何故この部隊に呼ばれたのかと言うと、夜間哨戒担当のウィッチが不足しているからであります。
そもそもハインリーケ大尉とその一昨日まで居たウィッチが1日ごとに交代して行っていたのでありますが、今はもういない…。
そして急遽、ヒスパニア方面から本国へ夜間哨戒担当ウィッチが来るはずだったのでありますが…戦況の悪化のため足止めをくらってしまっている状況であります。
なので来るまでの間、私がハインリーケ大尉と交代で哨戒をすることになったんであります!

そしてその日の夜…

「ヘルマ・レンナルツ曹長…行きますっ!!!!」

ジェットストライカー…はまだ研究中なため貸与してもらえず、ここの部隊から借りたストライカーで哨戒任務に就いたであります!
それにしても………

「寒いっ!」

いくらシールドを張れるとは言え、なんだか寒気が…;;

「くしゅんっ!!!」

くしゃみを寒い夜の空の下で連発するであります…。
もしかして…風邪でありますか??!!
でも大尉は………
「何故か妾の下に来た新人の部下は皆『親が危篤で』『風邪を引いて』『家のペットが心配なので』…と何かしら理由を付けて、出向期間途中に原隊へ帰ってしまうヤツが多いのだ」
と言ってたであります;;このままだと私は…?

「くしゅんっ!!」

以前、風邪だと思うからさらに悪化する…と聞いたことがあるであります!!こうゆう時は楽しい事を妄想するに限ります!!
楽しい事楽しい事…あ、バルクホルン大尉とマルセイユ大尉のどちらかが私を巡って部隊への引き抜きをするかをモメてる…と言うシチュエーションで妄想しましょう!

「くしゅん!!」

…ダメであります、今のくしゃみで興ざめしたであります…。
とりあえず、任務が終わったらバファリン飲むであります!!





「ただいま戻りました!」

朝方、私が部隊の宿舎へと戻ると一目散に風邪薬を飲むであります。

ゴクゴクッ...

「…ぷはぁ…よくなると…良いであります」

とにかく寝るであります!!
私は用意された部屋へ向かい、仮眠を摂ったであります…。


***


「40.3度…ゴホッ」

起きた後、計った体温計を見て愕然とするであります…
あれ…頭がボーッと…

「ゴホッ…いや、ここで倒れてたまるもんでありますか!!!!ゴホッゴホッ」

そう自分に言い聞かせるであります!
とりあえず薬箱から風邪薬を2錠ほど水で流しこみ、哨戒へ向かうであります!















「たっ…只今戻ってきたであります…ゴホッ」

宿舎に帰ってきた私…ヤバい、冗談抜きでヤバいであります!!
なんかこう…視界がフラフラし出して、まっすぐ歩くのもやっと…?って感じで;;;

「…おかえり、レンナルツ曹長」
「ただいまであります…ゴホッ」
「おっ、貴様も早速仮病かぁ」
「ちっ、違うであります!これはガチで!…ゴホゴホッ」
「ふっ」
「いっ…行かないでっ!!」

と言い残し、スタスタと何処かへ行ってしまうハインリーケ大尉。おっ、置いてかないでくださいであります~っ!!
必死にハインリーケ大尉を追いかけようとする私…勢い余って………

「わっ!!」

後ろから大尉を抱きしめるような感じになったであります…いやあ…その前に、ツラい;;

「なっ、何をしておるっ!!!」
「ごっ…ごめんなさいであります…」
「ったく…」

しかし、その廊下の角から2つの目が光っていた…。

「みみみ…見ちゃった!!」


***


「ねえねえ、知ってる?あのちびっこ補充員の話」
「知ってる!何でも昨夜、大尉に廊下で抱きついたとか?」
「わっ、ダイタン~!!」
「どうやら『行かないで!』って必死に懇願して抱きついたらしいわよ」
「もう許されない愛ね、上官と部下の恋愛って…ロマンチックだわ~!」
「で、ここがそのちびっこ補充員の部屋かぁ~」


んんんっ…
何だか廊下が騒がしいであります…
昨夜からずっと部屋に閉じこもって寝ているであります。
熱は一向に下がらず………うん、今日こそ医務室へ報告しに…!!
でも………
「何故か妾の下に来た新人の部下は皆『親が危篤で』『風邪を引いて』『家のペットが心配なので』…と何かしら理由を付けて、出向期間途中に原隊へ帰ってしまうヤツが多いのだ」
この大尉の言葉が頭の中でグルグルと…。ここで「私は風邪だ!」と言ってしまったら絶対に仮病扱いされてしまいます…。どうするでありますかぁ~…。


***


「ハインリーケ大尉!!!!」
「…何じゃ?」
「おっ、乙女の純情を弄ばないでください!!!」
「はあ?何を言っておる?」

―――後から聞いた話なのでありますが、いつの間にか私の『許されざる恋』を応援する女性兵30名ほどの小集団が結成されたんだそう。そして、意を決してその集団の代表が大尉の部屋に押し入ったそうです。

「レンナルツ曹長は…あなたの事が大好きなんですよ?!どうして受け入れないんですか??!!」
「待て待て待て、一向に話が理解できぬ」
「理解するモンじゃありません!…感じるモンです、愛ってのは!!!!」
「バカか、コイツは…」
「わっ、私の予想だと…レンナルツ曹長は今夜の哨戒へ行く寸前に愛の告白があると思います!そこでイエスかノーかはっきり言ってください!!」
「???」

―――そう言うと、そそくさと部屋から出て行ったそうです。

「…レンナルツが、妾を…?まさか………!!」




















そして、哨戒へ飛ぶ直前。
何やらハンガー付近には大勢人が居るでありますが、今夜こそ意を決して…っ!!!!
…あれ、でも何故大尉がハンガーに居るのでありますか?
若干フラフラしながらも近付きます。

「…ハインリーケ大尉」
「レレレレレンナルツ曹長!!ここここ今夜も今までに異常はないそうだ!!!!」
「そ…そうでありますか…」
「………」

あれ、なんで大尉は頬を赤くしてポリポリと掻いているんでありますか…?

「なっ、何かあったら遠慮なく言うのだぞ!」
「…あの」
「どっ、どうしたのだ?!」
「今夜…大尉にどうしても伝えなくてはならない事があります…」

『キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!』

ん…?なんだかバッグヤードが騒がしいでありますね…;;
熱のせいで耳が若干遠くても、聞こえるであります…。

「なななな何だ??!!」
「言いたくても…ずっと言えずにいまして…」
「うっ…うん…」
「この気持ちはウソなんじゃないかって大尉に思われるのがイヤで…」
「わっ、妾は全て受け入れるつもりだ!」
「あの…っ!!!!私、医務室へ行ってもよろしいでしょうか?」
「あ…ああ!もちろんだ!!!…へっ???」

ズテーーーーーーン!!!!

なんか後ろの方で盛大にズッコけたという、典型的な音がしたであります…。

「い…医務室…?」
「はい…ここ3日、ずっと熱が出てまして…」
「はっ…早ぅ行け…」
「すみません…今夜の哨戒、お願いします…」


***


「う~っ!!!!」

ハンガーでの告白から2日後、私は医務室で診てもらい…そのまま、アーヘンの病院へ緊急搬送。
早いハナシ、原隊へ強制送還されたってワケであります…。
あ、大尉の部隊には既にヒスパニアから無事到着したそうでありますね!

「思ったより…」
「元気そうねぇ」
「あ、ハルトマン中尉とシュナウファー大尉!」

両名がお見舞いに来てくれたであります!

「まさかヘルマが入院だなんて…」
「それ聞いてビックリしたわよ」
「すみません;;己の体調管理を全くやってなかったばっかりに…。あ、でも実験の方は?」
「大丈夫、まだ設計図を描いてる途中だから」
「退院したらすぐ実験へ参加しますので…」
「まあ、完治するまでゆっくりしてなさい」
「ありがとうございます」
「あ、それと…」

ん、シュナウファー大尉が小包みを持ってるであります。

「ハインリーケ大尉からこれを渡すよう頼まれたわ」
「え…?」

あんなに迷惑かけたのに、お見舞い品なんて…!!

「途中で帰って来て、悪い
「あの人、ああ見えてもちゃんと他人へ思いやる気持ちがあるのねえ…」
「…ハインリーケ大尉」

なんだろう…この『キュン』となる気持ちは…;;;

「打ち合わせがあるから戻る」
「じゃっ、私も戻るわ」
「ご心配をおかけして本当に申し訳ございません!そして今日はありがとうございました!!」

両名が病室から出て行ったあと、ハインリーケ大尉のくれた小包を開くであります。
その小包の中には箱が入っており、中を開けてみると………!?

「わっ、わあっ!!??」

思いっきりベッドから落ちたであります;;
あのですね…箱の中身は…

「なっ、何でありますか!?これはっ!!??」

何かの動物の骨が入ってました;;
そして同封のメモには赤いインクで『許すまじヘルマ・レンナルツ』と。
………どんだけ恨んでるんですか!?私を!!


風邪だから仕事を休む、
しかし休んではならない。
では風邪を二の次にして良いものなのか…?
それを痛感した出来事でありました…。


【おわれ】



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