cherry and berry III


 もう幾つ夜が明け、朝を迎え、そして日が暮れたのか分からない。
 芳佳は目隠しを外して貰えないまま、ただサーニャにされるがまま、欲望の檻の中でもがいていた。
 欲望……。
 どちらの?と問われれば答えに困る。
 嫌がってもサーニャは迫ってくる。容赦なく、執拗に。そしてなすがままにされ……やがて墜ちる。
 不思議と、サーニャと共に過ごすうち、芳佳はサーニャのことだけを考えるようになった。
 501がどうだとか他の隊員がどうとか、そういうことは既に考えなくなり、ただ目の前にいる筈の、
 サーニャそのひとのことを想わずにはいられない。
 そんな芳佳は、今日もサーニャから“おやつ”を食べさせられ、間もなく淫靡な“遊び”へと導かれる。

 はあ、はあ、と荒い息をつく。またもサーニャの責めに耐えきれず身体が悲鳴を上げた。
「芳佳ちゃん、どんどん敏感になっていくのね。嬉しい」
「サーニャちゃん……ずるいよ」
 サーニャは芳佳の股からたらりとたれる愛液を拭い、指でにちゃっと言わせてみせた。
「芳佳ちゃんは私だけのものだから」
「サーニャちゃん……」
 唇の端からたれる涎も気にせず、サーニャは芳佳の唇を塞いだ。

「サーニャちゃん……お願いがあるの」
 芳佳は、サーニャの声がする方を向いて懇願した。
「なあに?」
「あのね。目隠しを、外して欲しいの」
「もう何日も、何も見てないから……もう何も見えないかもしれないけど」
 えっ、と思わず声を上げた芳佳に、サーニャは悪戯っぽく笑いかけた。
「冗談。外せば見えると思うけど……ここはそんなに明るい場所じゃないから」
 それにね、とサーニャは芳佳に言った。
「芳佳ちゃんには見て欲しくないものもあるから」
「それってどんな?」
「内緒」
「……ならいいけど。サーニャちゃん」
「どうしたの芳佳ちゃん。おなかすいた?喉渇いた?」
「そうじゃなくて。サーニャちゃんのことが気になるの。というか、心配」
「私のことを心配してくれるの?嬉しい」
 サーニャは芳佳の頬を、慈しむようにそっとなぞり、それから子供をあやすように優しく唇を落とす。
「でも、芳佳ちゃんがそんなこと考える必要なんてないよ。
 私のそばにずっといてくれるだけでいいの。ずっとずーっと……」
「でも、知りたいの」
 目隠しをされ、腕を拘束されたまま、そして何も抵抗出来ない筈なのに、サーニャの方を向いて喋る芳佳を見て、
 サーニャは僅かな苛立ちを覚える。
「どうしてかな……」
 サーニャは何か考えあぐねている様だった。しばしの沈黙の末、口を開いた。
「芳佳ちゃんは、そういうところ、強いよね。羨ましい。扶桑の魔女だから?」
「それは、関係ないと思う」
 芳佳はサーニャの方を向いたまま、喋った。
「サーニャちゃんが心配なの。だから」
「だから?」
「少し、腕の紐を緩めて欲しいの」
 芳佳の腕は時にベッド、時に天井からたれる紐と、常にどこかしらに結ばれていた。
 サーニャは芳佳を試す意味も込めて、無言で芳佳の戒めを解いた。勿論、まだ緩めに紐で結んではいるが。
「ああ……腕が自由になるっていいね……ちょっと関節が鳴ってる」
 芳佳は腕をぐるりと回し、自由になった両手を自分の感触で確かめる。
「芳佳ちゃん、それだけ?」
 呆れた様なサーニャの物言いに、芳佳は違うよ、と言葉を掛けた。
「私、サーニャちゃんにされてばっかり。今度は、私がしてあげたい」
「どうして?芳佳ちゃんは私のものなのに」
「だからこそ、サーニャちゃんのこともっと知りたい」
 芳佳はサーニャの声のする方へにじり寄った。思わず身を退くサーニャ。
 しかし芳佳がサーニャの身体に触れる方が早かった。脇腹と思しき部位に触れる。
「つかまえた……やっと、サーニャちゃんに触れた」
 嬉しい、と芳佳は呟いた。目隠しの部分から、涙が一筋流れる。
「どうして泣くの」
「だって、サーニャちゃんが私のものなら、サーニャちゃんを心配しないでどうするの?」
「意味が分からないよ、芳佳ちゃん」
「私、サーニャちゃんに色々されて、最初はすごく怖かったの。このままじゃいけないってあれこれ考えてた。
 でもサーニャちゃんとのことも、ずっと考えちゃってた。それで気付いたの。
 このままじゃいけないのは、私自身の方だって。私の考えが正しいなら……」

「随分勝手な物言いなのね、芳佳ちゃん」
 サーニャに構わず、ずいと迫る芳佳。
「サーニャちゃんと、一緒に……」
「? ……ひゃうっ!」
 芳佳はサーニャの身体をまさぐった。ただむやみに触ったのではなく、どこがサーニャのどの部位なのか、触覚で確かめるために。
「いやっ、芳佳ちゃん……」
「だめ……逃げないでサーニャちゃん」
 芳佳はサーニャを片手で抱きしめると、指をつつっと伸ばし、サーニャの太股に触れ、そのままの勢いで付け根の……敏感な場所へと指を絡めた。
「あっ……いやあ……」
「サーニャちゃんも、私と一緒に……」
 サーニャの秘蜜の場所をくちゅくちゅといじくる。既に湿り、汁が溢れていることに気付く。
「サーニャちゃんも、我慢してたの?」
「ち、ちがっ……」
「サーニャちゃんが教えてくれたこと、私もしてあげたい」
 芳佳は脇腹から肋骨の端を舐め、つつっと迷走し、最後、胸の膨らみに到達する。ちゅっと吸い口を付け、
 柔らかな乳房を味わう。
「芳佳ちゃん……いつの間に、こんなこと覚えたの」
「全部今までにサーニャちゃんから教わったんだよ」
「いやっ……あふっ……んっ……」
 芳佳はサーニャの胸と股の二カ所を同時に触り、サーニャが芳佳にしたのと同じことをする。
 ただ、単なる仕返しとか憎悪由来のものではなく、優しさに溢れている。
 それはサーニャの身体を受け止める腕が、サーニャを触る手が、乱暴でなくとてもソフトで……
 肩を掴んで押し返そうとしていたはずのサーニャの両腕は今や芳佳の身体をきつく抱き寄せている。
 このまま身を委ねてなすがままにされたいような、不思議な気分───。
 それは、芳佳の体だけでなく心も、言葉も、何もかもを手に入れたという高揚感だった。
 全身を包み込む体温を強く実感し、胸の奥深くに渦巻く独占欲が僅かに笑みとなって浮かぶ。
 しかし、それだけではサーニャは良しとしなかった。
 おもむろに芳佳の身体に手を伸ばし、お尻をじわじわと揉む。
「んあっ……サーニャちゃん……」
「私も……一緒に……芳佳ちゃんと、一緒に。いいでしょ?」
「サーニャちゃん……ああっ」
「芳佳ちゃん、お尻弱いもんね」
 サーニャは慣れた手つきで芳佳のアナルに指を一本すっと入れ、くるっとかき回す。
 びくっと身体が震え、穴がきゅっと反射的に締まる。
「こっちも……もうぐしょぐしょ」
 サーニャは芳佳のヴァギナを触った。ズボン越しに滴る、芳佳の滴。
「あ……わ、わ、私だって……負けないんだから」
「んっ……芳佳ちゃん、上手……ふわあああっ」
 お互いの衝動をこれでもかという程に突きつけ迸らせる。
 一層激しく昂ぶる二人の身体。どちらからともなく、ヴァギナを合わせてぐいぐいとこすり合わせる。
 溢れ出る愛液は混じり合い、ぽたぽたとベッドに落ちて染みを幾つも作る。
「あっ……いく……芳佳ちゃん……もう……!」
「はあっ……あぁ…サーニャちゃん……私、だめ……!」 
 やがて……。
 二人は同時に悲鳴を上げ、びくびくと身体を痙攣させた。

 足を、腕を絡ませたまま、二人はベッドの上で抱き合い、横になる。
 二人は満ち足りた二人だけの空間で、お互いをじっくりと味わう。
 お互いの肌を感じ、汗を感じ……。互いの腕の中で気持ちを通じ合わせる。
「ねえ、芳佳ちゃん」
「サーニャちゃん、どうしたの?」
「やっぱり、芳佳ちゃんは素敵。私が見えないのに、私の思いが分かるなんて」
「サーニャちゃん……」
 言いかけた所で、サーニャに唇を塞がれる。
 しばしの沈黙。ゆっくり唇を離すと、涎が一筋の滴となって糸を引き落ちた。
 ふふ、とサーニャは芳佳の頬を撫でる。その瞳はもう、あの凍てつくような昏い色を湛えてはいない。
 ただ優しく、深く。満たされた者の慈愛に溢れて───
「芳佳ちゃんは一生私のものなの。だから、目隠しも取ってあげない。いい?」
 サーニャは笑った。その笑顔に宿ったものが、芳佳の瞳に映ることはなかった。

end


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