noblesse oblige


「さっ…寒みぃ…」
吐く息が白い。1月のある寒い夜、菅野は真っ暗な部屋の片隅で震えていた…。
菅野は地面がコンクリートで出来た独房のような場所に拘置されていたのだ。

それもそのはず、担当区域ではない場所へ応戦した…つまり『軍紀違反』を犯したのである。

コツコツコツ...

すると、遠くから足音が聞こえる…。

キイッ...

「…は、伯爵?」
「自分はカールスラント空軍第52戦闘航空団第6中隊所属、現第502統合戦闘航空団所属のヴァルトルート・クルピンスキー中尉!」

クルピンスキーが入って来たのだが、いつものおちゃらけた表情はどこかに封印し、いつもは見せない堅苦しい…まさに『軍人』の表情をしていた。

「…あぁ知ってるぜ」
「管野直枝中尉の身柄引き渡しに参りました!」
「…そうか」
「AKB48では断然、高橋みなみ派です!」
「知らねえよ!」
「良かったぁ…ナオちゃん、すっかり元気が無くなってるかなって思って」
「てか寒みぃよ…早く出してくれよ」
「それがさあ…今、ラル隊長とここに来たんだけどこっちの隊長さんと飲んで盛り上がっちゃってんだよねー」

すると菅野はベッドへもぐりこむ...

「…へ、ナオちゃん…もしかしてボクがそのベッドの中へ誘ってるのかい?」
「ちげーよバカ!ふて寝だ、ふて寝!」
「あらら…残念」
「…行かなくて良いのか?」
「どこにさ?」
「隊長んとこ」
「うーん…なんか管理職の愚痴を言いあってて、ボクが会話に入り込む余地がないんだよねー」
「なあ、一人にさせてくれないか」
「…どうしてさ?」
「一人になりたいんだって」
「…だが断る!ってね」
「はあ?」

するとクルピンスキーは地面にあぐらをかき始めると、

「あんまこうゆう話って好きじゃないんだけど…するね。本当はしたくないんだけれど」
「早く言えよ…」

菅野は顔を壁に向きながらそう発言する。

「今回はさ…ナオちゃんの味方は出来ないよ」
「…は?」
「隊長だって熊さんだって、まずナオちゃんの心配をしてるんだよ?」
「わかってる…」
「お願いだからさ…心配させないであげてくれるかな?あ、ボクも人のこと言えないよね~!あはは~」

ドンッ!!!!

いきなり菅野は冷たい壁を殴った...

「…っ!!じゃあ今にも撃墜されそうな味方を見殺しにしろってのか??!!」
「はあ…別にボクはそんなことを言ったつもりじゃ」
「同じだ!!!!」
「手、大丈夫?今思いっきり壁を殴ったけど?」
「話を聞け!!答えろ!!!!」
「…ナオちゃん、今日の戦い方ヘンだったよ?あれじゃあいつネウロイにやられてもおかしくなかったよ」
「必死だったんだ!」
「良いことを教えてあげようか、前のボクの上司が言ってたんだけど…感情的になるなって」
「べっ、別に感情的になんか!」
「なってたさ!!!!」

突然クルピンスキーは声を上げたのだ。
普段、怒る姿を見たことのなかった菅野は体をこわばらせた…。

「ジョゼ君のサポートがなかったらストライカーの破損どころか、ナオちゃん自身危なかった!それをわかって言ってるのかい?!」
「うっ…うっせ…」
「ちょっと自惚れた部分があったんじゃないの?!自分の担当じゃない所へサポートして、カッコ良い所を見せようとして」
「そっ…そんなんじゃねえよ!!!!」

ベッドから飛び起き、いきなりクルピンスキーの胸倉を掴む菅野。
しかし、クルピンスキーはいつの間に笑っていた...

「…ふふっ…そんなワケないよね、ナオちゃんは」
「…はっ?」
「そんな計算高くないもんね?」

安心したのか、クルピンスキーの胸に顔を埋める。

「おやおや、今夜は積極的だねえ…ま、ボクは爆乳じゃないけど楽しんで」
「………」
「…ねえナオちゃん、悔しい?」

クルピンスキーは優しく髪を撫で始めた...
そして嗚咽をしながら泣き始めた菅野であった…。

「悔しい…っ!!ものすごく悔しいっ…!!」
「お~よしよしよし………ボクらもね、すごく心配したんだよ?ジョゼ君があの時追いかけなかったら、死んでたんじゃないかってね」
「オレッ…謝るっ…みんなに謝るっ…!!」
「うんうん…あらあら、さっき壁殴ったからものすごく血が出てるよ?痛くないのかい?」
「痛い…」
「…この痛みがわかるってことはいつものナオちゃんだ」
「痛い…痛いよォ…」
「ちょっと待っててね、包帯を持って来るから」















そして、夜が明ける。
菅野はスヤスヤとベッドで寝ており、クルピンスキーはその側に座りウトウトとしていた。
そして、拘置されている場所にラルがやって来た。

「…伯爵、菅野はどうだ?」
「あ、ラル隊長おはようございます」
「あぁ、おはよう」
「ナオちゃんは…元気です」
「そうか…今回ばかりはお灸を据えなければなと思ったんだが…」
「昨日ちゃんと調教…じゃない、説教したんで問題ないと思います」
「ほほぅ…ナンパじゃなくてか?」
「そりゃしましたがもちろんダメでしたよ」
「そうかそうか…っておい!」
「わ~、ラル隊長ノリツッコミがウマ~い!」
「…まっ、私がロスマンやサーシャに報告しとく」
「じゃあボクは先生と熊さんを頂きます」
「………」
「…あれ、ノッてくれないんですね;;ふあ~…っ」
「寝てないのか?」
「えぇ、だってここ寒かったんですもん」
「お疲れ様、伯爵」
「いえいえ…。隊長、こんなこと聞いたことあります?」
「あん?」
「ガリアの言葉だそうなのですが、『noblesse oblige』って言葉を」
「ノッ…ノブ?…小栗旬?」
「ノーブレス・オブリージュです…意味は『高貴さは義務を強制する』…彼女こそホンットの伯爵なのかもしれない…」
「???」
「確かに彼女は間違ったことをした、でも人間としては正しいことのはずなのになあ…って」
「何が言いたいんだ?朝でまだアルコールが抜けきってないからわかりやすく言ってくれ…」
「…何でもないです。さっ、帰って先生と熊さんを食べようかなあ~♪…ふあ~っ」





―――『noblesse oblige』…やはり、彼女ほどの正義感を持つ者の然るべき行為だったとボクは考えている。



【END】


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