「私を月まで連れてって」
少し照れた眼差しでサーニャが呟いた。
「…えっ?」
「この曲の名前。エイラが訊いたんでしょ?」
「そ、そうだった。私を月まで連れてって…か。変な名前だけど私は好きだナ、この曲」

二人で夜間哨戒するのは久しぶりだ。
サーニャが聴かせてくれる遠い異国のラジオの曲、月明かりに柔らかく照らされたサーニャの姿…
その幻想的な雰囲気に目眩を感じて月を見上げる。

突然ラジオに雑音が入り込み、やさしい曲の音色を掻き消した。
代わりに誰かの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
『…偉大なる時代が…諸君らが望んで…闘争を続けねばならない…』
サーニャは眉をしかめて魔導針を解除した。
「サーニャ?」
「この人…」
「うん。カールスラントの総統だナ。南リベリオンから戻って来たんだろ。私は嫌いだな」
サーニャが暗い表情で頷く。
その場を取り繕うようにエイラが慌てて続けた。
「みんな戦争の噂をしている。でも人間はそれほど馬鹿じゃない。
みんなネウロイに苛立ってるだけなんだ。私たちがネウロイを倒せば、
また平和な世界が戻ってくる。そしたら…」
「そしたら?」サーニャが覗き込むように尋ねた。
その先を考えていないエイラが苦し紛れに言葉を続ける。
「そしたら…人間は再び手を取り合って歩き続けるんだ。
みんなが助け合えば人間に不可能なんてない。
だから…人間はいつかあの月にだって行けるんだ!」
「それはエイラの予知魔法?」サーニャがクスクスと笑う。
「そ、そうだ。わたしの予知魔法だ。だから絶対に間違いないんだぞ!」
「それじゃエイラが私を月まで連れてってくれる?」
「もちろん。約束する!」
他愛のない冗談に2人が笑い出す。

寄り添うように指切りを交わした瞬間、
エイラの意識が跳んでサーニャの魔導針が反応した。
「サーニャ…?」
ラジオから再び誰かの声が聞こえてきた。
今度はさっきよりも遠くから聞こえてくる感じだが、明瞭に聞き取ることが出来た。

『接触灯点灯。オッケー。エンジンストップ。ACA解放』
『ACA解放了解』
『モードコントロールオート。降下用エンジン指令停止。エンジンアームオフ。413イン』
『ヒューストン、こちら静かの基地。イーグルは着陸した』

7月20日
エイラ・ユーティライネン中尉及びサーニャ・リトヴャク中尉による夜間哨戒飛行。
…特記すべき異常は見られず。


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