霧の中


「くっ…!」
ネウロイのビームに反応して、サーニャのシールドが展開された。ネウロイの姿は濃霧に隠れて見えない。
濃密な霧でビームの威力は半減してるが、それでも殺傷能力は十分にある。
(まずい…このままじゃ魔法力を消耗するだけだ…)
複雑な回避飛行を続けながら、幾度となく全方位広域探査を試みるが、レーダーは全く効かなかった。
それどころか基地にいる仲間に連絡する事さえ出来ない。霧は強い磁気を帯びていた。
ビームを回避しながら、フリーガーハマーの残弾数を計算してみる。
…予備を含めて残り3発。
一晩の間に2度もネウロイと遭遇するのは初めてだった。1体目を撃破した直後に2体目が出現した。
体制を整える為に霧の中に身を隠したが、それがかえってアダになったようだ。
ネウロイの進行方向を計算すると真っ直ぐに基地に向かっている。ここで身を引く訳には行かない。
回避飛行するサーニャを再びネウロイのビームが捉える。
ビームの方向にフリーガーハマーを1発ぶち込んでみるが、まるで手応えがない。
おそらくホーミングレーザーだろう。
(敵の位置が掴めない。どうする…?)
息があがってきている。そろそろ限界も近い。日が昇るまで1時間程。
それまで持ちそうもなかった。
基地にいる仲間の事を考えてみる。こんな時エイラならどうするだろう?
またネウロイのビームが飛来する。どんな方法かは知らないが、敵がこちらの位置を把握してるのは間違いない。
回避飛行を続けているのにネウロイの攻撃は正確だ。しかしトドメは刺しに来ない。
執拗に繰り返される攻撃は、まるで獲物を弄んでいるようにも思える。
(そうか…フリーガーハマーを警戒して近づけないんだ)
サーニャはフリーガーハマーの弾を取り外してポケットに入れると、おもむろにフリーガーハマーを放り捨てた。
(遠距離での攻撃じゃ不利だ。なんとかして接近戦に持ち込まないと!)
空中でホバーリングしながら目を閉じて耳を澄ます。周囲の音を聞き漏らすまいと黒猫の耳がピンと立てられた。
濃霧の中を移動するネウロイの発する微かな空気の動きが感じられる。
ネウロイは攻撃を止めて真っ直ぐにこちらに向かっているようだ。
やはり武器を捨てた事を知っているのだ。サーニャの猫耳が慌ただしく動きまわる。
ネウロイは確実に距離を詰めて来ている。距離500…300…100…

瞬時に左足のストライカーユニットを脱ぎ、中にフリーガーハマーの弾を込めると、
自律航行モードでストライカーユニットをネウロイの方向に射出した。
僅かな間をおいて、ストライカーユニットがネウロイにぶち当たり、閃光と共に爆発する。
爆風と共に爆発の轟音が衝撃波となって襲いくる。
最大の魔法力を込められたフリーガーハマーの弾薬の破壊力は凄まじい。
爆風は周囲の濃霧を吹き飛ばし、オレンジ色の焔がネウロイの姿を露わにした。直撃だ。
ネウロイの装甲は大きく抉れており、コアが焔の明かりを反射して輝いて見える。
ネウロイは鋼鉄の巨体をのた打ちまわらせて咆哮する。
すかさず、サーニャのブローニングM2重機関銃が火を噴いた。
奥歯を食いしばりながら銃弾に魔力を込めて連射する。片足だけのストライカーユニットはバランスが悪い。
コアに照準を合わせても当たらない。ネウロイの姿が目前に迫った時、ようやくサーニャの銃弾がコアを撃ち抜いた。
唐突に鋼鉄の軋むような咆哮をあげてネウロイの装甲が崩壊していった。
空気を揺るがす衝撃波と鋼鉄の残骸がサーニャを襲う。
シールドで防御しながら、サーニャは無意識に片腕で防御の姿勢をとっていた。
硝煙の匂いが立ち込めるなか、結晶化したネウロイの破片がサーニャの脇を吹き抜ける。
「…終わった?」
肩で大きく息をしながら、思わず呟いた。暫くのあいだ呆然としたまま身動きすることも出来なかった。
重機関銃を撃っていた右腕が僅かに震えている。

やがて、気を取り直したように大きく深呼吸すると、
乳白色の霧が立ち込める空を、サーニャは基地に向かってゆっくりと飛び始めた。
「今回は使い魔の黒猫に助けられたみたい…ありがとう」


『使い魔』ウィッチが魔力を使う時にサポートする存在。
使い魔が使役されてる間、ウィッチにはその使い魔と同じ耳と尻尾が現れ、使い魔となった動物の特性を得る。
猫の聴力は、犬よりも広い6万~10万ヘルツの哺乳類トップクラスであり、
音源までの距離と方向を正解に把握することが出来ると言われている。


コメントを書く・見る

戻る

ストライクウィッチーズ 百合SSまとめ