迷子
「エイラさん、もしかして道に迷ったんですかー?」
からかうような口調で宮藤が尋ねた。
「ナニ言ってんだー? 私が道に迷う筈ないじゃないか!」
「だってエイラさん、さっきから地図を広げて同じ所をグルグルしてますよ?」
「…」
「やっぱりサーニャちゃんがいないと駄目なんですね?
私達だけで夜間哨戒なんて、最初から無理なんですよ」
「サーニャは風邪で寝てるんだぞ! 仕方ないじゃないか」
雲の中に入った時に方向を見失った。
雲を抜け出たのは良いが風で相当流されたらしい…
現在位置がさっぱり分からない。正直途方に暮れた…。
「そんなことより宮藤、腹が減ったろ? そろそろ休憩にしないか」
「賛成! あそこに丁度いい広場がありますよ!」
「広場? …本当だ。此処って何処かの街の上だったんだな…」
「やっぱり…」宮藤が咎めるような眼差で見つめる。
広場で手早く食事済ませると、エイラは再び地図を広げて唸り始めた。
「人の苦労も知らないで…」
子犬のようにはしゃいでいる宮藤を横目に、エイラは溜め息をついて仰向けになった。
「サーニャ…私がサーニャの代わりになるから、
サーニャはゆっくり休んで早く元気になるんだぞ…」
「エイラさん!エイラさん!起きて下さい!」
「もー何だよ五月蠅いな!」
「此処って、もしかしてブランデンブルク門じゃないですか?」
「何言ってんだー宮藤? ブランデンブルク門があるのはベルリンじゃないか?
ベルリンはネウロイの巣の中心にあるんだぞ!」
「でも、あの門の写真を教科書で見たことあります!」
「宮藤ぃ…お前は歴史や地理が得意か?」
「勉強は苦手です!」
「ほらみろ!」
「でも…」
「そんな事より、そろそろ帰るぞ宮藤!」
「基地の方向が分かるんですか?」
「わたしのダウジングを信用しろ!」
「はい!」
エイラ・ユーティライネン中尉及び宮藤芳佳曹長による夜間哨戒任務の報告
『両名はやむを得ない諸事情により単身ネウロイの巣に突入するも、無事に任務を遂行し奇跡の生還を果たす』