雷帝


漆黒の闇に覆われた空を稲妻が走った。
無機質な白色の光が世界を照らし出すと同時に、大砲を思わせる轟音が大気を揺さぶる。
サーニャとペリーヌは稲妻の下を基地に向けて飛んでいた。
「…!」突然サーニャが立ち止まって後ろを振り返る。
「どうしたんですの?」ペリーヌが不審そうに尋ねた。
終末を連想させる荒れた空の下で、サーニャの魔導針は確実にネウロイの姿を捉えていた。
「待って…ネウロイの姿を補足したわ。
現在○○上空を時速500kmで通過…30分後に接触」
「ネウロイ!」ペリーヌの体が強張る。
何もこんな嵐の日に来なくても…という思いが一瞬ペリーヌの胸をよぎる。
「分かりました。基地へ連絡して私達は此処でネウロイの足を止めましょう」
サーニャが頷く。

サーニャの魔導針がネウロイの姿を追尾する。距離は10kmを切っていた。
「ネウロイが来るわ…」
目を閉じて沈み込むような口調で言うと、おもむろにフリーガーハマーを撃ち込んだ。
稲妻の駆け巡る漆黒の空にオレンジ色の軌跡を残して3発のロケット弾が走る。
数秒後に雲の彼方に大きな火球が広がった。外した…?
ネウロイは極端に速度を落として、雲の中を探るようにゆっくりとこちらに近づいて来る。
肉眼で確認することは出来ない。ペリーヌにはまだ敵の姿が見えていなかった。
雲の一点を指差してサーニャが叫んだ。
「あそこ!ネウロイが出るわ!」

サーニャの指差す場所をペリーヌが見つめる。雲の一点に稲妻が集中していた。
「サーニャさん後ろに下がって!」ペリーヌが叫ぶ。
黒色の雲が青白い光を発して僅かに揺れると、まるで雲の中から沈み落ちてくるように、
ゆっくりとネウロイが姿を現した。
ネウロイの下部には白色の砲塔状の突起が六本あり、その突起が激しい放電を発している。
突起を持つ独特な形状のシルエットは巨大な櫂を持つガレー船にも、あるいは
脚を広げて襲撃してくるドラゴンのようにも見えた。

突然ネウロイの発した雷撃がサーニャを襲った。
サーニャは咄嗟にシールドするが、雷撃はシールドの表面で拡散し、
四方から回り込むようにしてサーニャに達する。
「サーニャさん!」
サーニャは魔法力を総動員して雷撃を凌ぎながら、フリガーハマーを手放した。
フリガーハマーがサーニャの肩口で爆発する。新たなシールドで爆発を受けながら体を沈めて間一髪で回避した。
回避と同時にサーニャの重機関銃がネウロイを襲撃する。

なんて戦闘能力だろう…ペリーヌが信じられない面持ちでサーニャを眺めた。
しかし、ネウロイの固有魔法。あの雷撃が相手では如何にサーニャといえども分が悪い。
「サーニャさん下がって! 私が相手になります!」

ペリーヌはサーニャに近づいて機関銃を手渡した。
「ペリーヌさん?」
「サーニャさんは後ろに下がって。…電撃戦なら、わたしくしの方が有利ですわ」
サーニャが頷く。ペリーヌは魔法力だけで戦うつもりだ…後ろに下がって銃を構えた。

ネウロイに突進していくペリーヌの両腕は、激しい放電を始めて雷撃を纏っている。
ペリーヌはネウロイに近づくと両腕を頭上にあげて、巨大な槍状の雷撃を作り始めた。
その間にネウロイの雷撃が続くがペリーヌには通用しない。
時折発する赤色のビームはシールドに阻まれた。
サーニャが後方からネウロイを狙撃する。ペリーヌは一撃でケリを着ける積もりだ。
槍状の電撃が完成するまで時間を稼がなくては…。サーニャは後方で大きく揺さぶりをかけながら狙撃した。

ペリーヌの作る電撃の槍はますます巨大になっていき極限に達している。
その槍を見つめるサーニャが何かを思い出した。
「あれは…サイコスピア…? 伝説の魔女が使った技? 第一次世界大戦の…」
その瞬間、ペリーヌの巨大なサイコスピアが放たれネウロイを直撃した。
漆黒の空が大爆発を起こし、白色の光に覆われる。津波のような衝撃波が広がり、
周囲の雲を次々と蒸発させていった。
衝撃波にサーニャの体がシールドごと突き飛ばされる。凄まじい破壊力だった。
ネウロイは結晶化して灰になる暇もなく、鋼鉄の装甲ごと蒸発してしまった。
空には何本もの稲妻を纏った巨大なキノコ雲ができ、ペリーヌが涼しい顔で眺めている。

「雷帝…第一次世界大戦の伝説の魔女…ガリアのエース。
何故ペリーヌさんが…?」
サーニャが不思議そうにペリーヌを見つめた。


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