jealously
「誕生日おめでとー」
のんびりとした雰囲気で始まったエイラの誕生日祝い。
まんざらでもない感じで祝福の輪の中心に陣取るエイラ。
ひとときの賑やかな時間を過ごしたエイラは、にやけ顔でミーティングルームを後にした。
そう言えば、と後ろを振り返る。さっきまで一緒に祝ってくれていたサーニャ。何故か機嫌が悪い。
「どうしたんダ、サーニャ?」
無言。
同じ事を繰り返すも、むすっとして、ぷいと顔を向ける。
だんだんと不安になってくるエイラ。
……何か変な事を言ったのか? サーニャにとって悪い事でも言ってしまったか?
あれこれ思い返すも、そんな事は全然無い。
ただ、賑やかに祝って貰っただけ。
拭えぬ疑問を抱いたまま、部屋に戻る。
「エイラ……っ!」
ふたり一緒に部屋に戻り、扉を閉めるなり、サーニャはエイラの腕を取り、身体ごとぐいと壁に押しつけた。
「な、何するんだサーニャ!?」
手首に食い込むサーニャの爪。痛さよりも先に、サーニャの行動への驚きが出る。
「エイラ、分かってない……」
「な、何を? 私何か変な事言ったカ?」
「違う!」
「じゃあ、一体どうしテ。何でサーニャが怒ってるのかわからな……」
「エイラは黙って!」
サーニャから発せられたいつになくきつい言葉に、エイラは唖然とし、同時に返す言葉を失う。
ごくり、と唾を飲み込む。
「さ、サーニャ……」
それ以上言葉を言わせて貰えなかった。不意に唇を塞がれる。
先程二人で沢山食べたケーキの甘酸っぱさが、唾液に混じって微かに感じる。
ゆっくり唇を離すサーニャ。はあぁ、と熱い溜め息がエイラの頬を撫でる。
「エイラは……」
「う、うん?」
「私だけのものなの。他の人に祝って貰うの、嫌なの」
「な、何で? サーニャも一緒に楽しん……んんっ……」
またも唇を塞がれる。ぷはあっと息切れしたところで、ようやく唇を離す。
「エイラは、私だけのエイラなの。エイラ、私だけを見て?」
「サーニャ、どうしたんだヨ……い、痛い……」
ぐいとエイラの手首を押しつけ、動きを封じる。いつしか耳と尻尾も生やし、力がこもる。
「私を、見て?」
両手首を押さえつけて、顔をじっと見る。
抵抗出来ない。しようと思えば出来るのだが、何故かしてはいけない気がして……。
エイラも真正面からサーニャの顔を、目を見る。
少々の涙で澱んだオラーシャ娘の瞳は、いつもの柔らかな輝きが失せ、エイラの怯える顔を映し出す。
同時に、サーニャのキモチも垣間見る。
狂おしい程の、愛情。
いや、愛が故に狂気に走ったのか。
腕の痛みを忘れ、息を呑むエイラ。
「もっと。ずっと、一生、私だけを、見て?」
「……」
「返事は?」
「う、うん……」
「じゃあ、ご褒美」
エイラにもう一度口づけをすると、耳たぶの後ろに唇を這わせる。
「ひゃうっ……サーニャ……」
「エイラ、ここ、弱いもんね」
「そ、そんな事……」
「震えてる。可愛い」
「サーニャ、おかしいぞ……何か」
「エイラの為なら、何でもするわ」
「するって、私をしたい放題じゃないかー、うわっ……」
サーニャはエイラをそのまま掴まえて、ずるずるとベッドに引きずり込んだ。
エイラは為す術もなかった。
ベッドの上で、疲れ果てて眠るエイラとサーニャ。
何度キスを交わし、身体を重ねたか分からない。
もうひとつエイラに分からない事。それはサーニャの豹変。
重たいまぶたをうっすらと開け、目の前のサーニャを見る。
やっぱり、分からない。
しっかりと抱きつかれ、一時も離してくれない。
でも、こう言う事も、何だか良いかも知れないと、思い始めた自分に気づき、驚く。
だけど。一抹の不安が頭を過ぎる。
ずっとこのままだったら、どうしよう。今のサーニャも魅力的だけど、いつものサーニャに戻って欲しい。
でも、これはきっと何かのきっかけでたまたまこうなっているだけだと、言い聞かせる。
起きたら、いつもの優しいサーニャに戻っている。そうに違いない。
うぅん、と抱き枕みたいにサーニャにぎゅっと抱かれながら、エイラはぼんやりと思う。
そう。夢から醒めれば。
夢から……。
end