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 小春日和のとある日、ローマに赴き、それぞれの所用を済ませたトゥルーデとエーリカ、そしてペリーヌ。
 基地帰還まで少々の暇が出来た三人は、ローマ市内某所の本屋に足を踏み入れた。
「ここは……古書も扱っている様ですわ」
 ペリーヌが辺りを見回し、二人に言う。
「なるほど。ブリタニアの……ロンドン程は揃ってないか」
「まあ、ローマだし~早く済ませてケーキ食べに行こうよ。シャーリーが言ってたあのお店~」
「分かった分かった。とりあえず本だ」
 蔵書をざっと眺めて呟くトゥルーデと、ぴったり寄り添って歩くエーリカ。
「しかし大尉、本屋に何かご用ですか?」
 二人の後を歩くペリーヌがトゥルーデに聞く。
「ん? ああ、基地で読む為に丁度良い本は無いかと思ってな」
「なるほど。ではこちらなど、如何ですか?」
 ペリーヌが棚から探し、差し出したのは、カールスラントの哲学書。
「哲学か……戦闘教本とかそう言うのは」
「無いと思うよ」
「流石に、ここには無いかと」
 エーリカとペリーヌに即答され答えに困るトゥルーデ。
「そ、そうか。普通の本屋だからな……」
 ペリーヌから哲学書を手渡され、ぱらぱらとめくる。
「うーむ。私には、どうもな……」
「私も読んでると寝ちゃうよ」
「お前は何を読んでも寝るだろう」
「何で知ってるの?」
「あのなあ……」

 ペリーヌはひとり、ガリアの文学は無いかと探し、棚のひとつに辿り着く。
「ここには、まだ有るのですね……」
 何故か安堵するペリーヌ。
「ネウロイは、本は食べないからな」
 いつの間にか後ろに立っていたトゥルーデが呟く。
「でも、街ごと焦土に……」
「そうだったな。でも、こうして異国に有る事自体貴重な事じゃないか?」
「確かに……」
「ペリーヌも何か一冊買って行ったらどうだ? 何なら私が出してやるぞ」
「いえ、お金は大丈夫です」
「まあ、ペリーヌは、自分で本を買う金が有ったら、全て復興に回してしまうからな」
「そっそれの何処がいけないんですの!?」
「まあ怒るな。他意は無い。ただ、少し位自分の為になるものを買うのは、悪い事じゃないと思うが」
「それは……」
「そうだな。私はガリアの文学には疎いが……これなんかどうだ?」
 カラフルな表紙の本を一冊、ペリーヌに渡す。
「これは児童向けの童話集ですけど」
「今度、クリスに読んでやってくれないか?」
「えっ? 大尉の、妹さんに?」
「いや、クリスでなくても良い。子供達に夢を与えるのも大事な役割だと、思わないか?」
 しばし本を見つめる。表紙に描かれた無邪気な子供達の顔を見、目の前に立つトゥルーデの顔を見比べる。
「大尉らしいですわね」
 ぽつりと呟くと、ペリーヌは本を手にカウンターに向かった。
 ふと微笑むトゥルーデ。

「ねえ見てトゥルーデ。古書の処分だってさ」
「ほう」
 無造作に積まれた本棚の一角を見やる。
 様々な書物がどどんと積まれ、さながら「知識」のバーゲンセールだ。
 手に取ろうとするも、いささか躊躇われる。
 どの本も、必死の思いで書かれたものの筈なのに……、一山幾らの扱い。
 もし著者がこれを見たらどう思うのか。トゥルーデはそんな事を想いながら、一冊の本を手に取る。

 詩編。
 著者も題名も知らない。
 ページを開く。
 終わりなき、ものがたり。
 軽やかなリズムに乗って、ことばは軽やかに頁の上を飛び回り、何かを訴えかけてくる。
「トゥルーデ、その本が気になったの?」
「う、いや……」
「色々考え過ぎなんじゃない? 今は読む人が居なくても、平和になったらそのうち誰か読むって」
「平和って……。いつだそれは」
「私達が頑張るしかないんじゃない?」
「まあ、な」
「私はこの本買おうかと思って。妖精の話」
「妖精?」
「トントとか言う不思議な妖精の話」
「どっかで聞いた様な……まあいい」
 トゥルーデはさっきから手にしたままの本をどうすべきか考えていた。
 戦闘の役に立つものではない。
 クリスに読ませるには、少し難しい。
 だが……。
「大尉こそ、少しは戦いから離れた内容の本を手に取るのも宜しいんではなくて?」
 先に会計を済ませたペリーヌが、声を掛けてきた。
「お、ペリーヌ結局童話集買ったんだ」
 エーリカが目ざとくペリーヌの手にした本を見る。
「ええ。大尉のお薦めですから」
「そうだな。私もペリーヌに言った事だし。……そうだな」
 トゥルーデは繰り返すと、その本を会計に持って行った。

「トゥルーデの買った本が一番安いなんてねえ」
 ローマ市内のカフェ。シャーリーと芳佳お薦めの店で、エーリカは美味なるケーキを一口食べ、愚痴を続けた。
「私の買った本、トゥルーデの本の二十倍はしたよ」
「この本は古書で処分品だったからな……中身は他と変わらない筈なんだが」
「それ、どう言う意味?」
「どの本も皆著者の懸命なる努力の末に書かれたもの、と言う意味だ」
「トゥルーデらしいね」
「今度ガリアに帰ったら、この本を子供達に読ませますわ」
「そうすると良い。喜ぶと思うぞ」
「ええ」
 ペリーヌは微笑んだ。
「ま、いっか……」
 エーリカは一人呟くと、トゥルーデのケーキに手を伸ばした。
「おい、私のケーキ!」
「スキだらけなんだもん、トゥルーデ」
「スキも何も……って自分の分はもう全部食べてるのか」
「美味しかったよ」
「私は食べてない」
「じゃあもう一皿頼んでよ」
「仕方ない」
 ウェイトレスを呼ぶと、同じものをひとつ、いやふたつ頼むと声を掛ける。
「そんなに頼んで大丈夫ですの?」
 いぶかるペリーヌに、トゥルーデは言った。
「どうせ食べられるんだったら、予防線を張っておかないとな」
「私がひとつ食べると思った?」
「ああ」
「残念。来た分は全部食べるよ」
「こら、私の分も少しは残せ!」
「へへー」
 いつもと変わらぬカールスラントコンビのやり取りを見て、苦笑するペリーヌ。
「まあ、良いですわね」
「? 何が?」
「どうかしたのペリーヌ?」
 きょとんとしたカールスラント娘二人を前に、ガリアの娘はくすっと笑った。

end



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