tact


 遅めの朝食。殆どの隊員は食事を済ませ既に席を立っている。
 のんびりと食事をしているのは、エーリカとシャーリーのふたり。
 厨房に居る筈の食事係……リーネと芳佳も何処かへ行っており、食堂の中はしんと静まりかえっている。
 もそもそとサラダを食べつつ、シャーリーは斜向かいに座るエーリカに声を掛ける。
「今朝は、ハルトマン一人か?」
「そう言うシャーリーこそ、ルッキーニは?」
 ふかし芋を食べながらのエーリカの答えに、シャーリーは薄く淹れた珈琲を口に付けた後、答えた。
「ルッキーニは昨日から何だかご機嫌斜め四十五度でさ~。今はどっかで寝てるか遊んでるんじゃないか」
「ふーん」
 会話終了。
 二人だけの淡々とした食卓は尚も続く。穏やかな陽射しが窓辺から二人のもとを照らす。
 不意に口を開くシャーリー。
「そういや、バルクホルンは風邪ひいたって聞いたな。大丈夫か?」
「トゥルーデ? 薬飲んで、部屋で寝てる」
「良いのか、看病してやらなくて」
「本人が良いって言うから。『他の連中の面倒を見てやれ~』とか言っちゃってさ。で、私はここでご飯を食べてる」
「そっか……」
 その場に居ない“堅物”の物真似声を交えたエーリカの答えに、シャーリーは相槌を打つ以外に何も出来なかった。

 エーリカは、普段にも増してのんびりと食事を取っている。
 しかし、普段と変わらない様でいて、ペースはいつもよりゆっくり、そして何処か物憂げだ。
 シャーリーは、そんなエーリカをしばし観察した後、呟いた。
「ハルトマンってさ」
「?」
「そうやって、自由気ままに見えて、相手の事すげえ心配してるって言うか気を遣ってるって言うか、そういうとこ有るよな」
 エーリカの表情は変わらない。ただ、一瞬ぴくりと眉が動いたのをシャーリーは見逃さなかった。
 あえて気怠そうな表情のまま、エーリカはシャーリーの方を向いた。
「何が言いたいのさ」
「カールスラント人ってどうしてこう、カタい奴が多いんだろうね」
「リベリオン人だって、勝手気まま過ぎるよ」
「ハルトマンに言われたくはないな」
「私もシャーリーに言われたくないよ」
 二人の視線が交錯する。お互いを見つめてるうちに不意におかしくなり、くすくすと笑う。
「行ってやれよ。きっとあの堅物の事だ、部屋の隅で寂しく泣いてるぞ」
 エーリカをけしかけるシャーリー。
「シャーリーも行ってあげたら? ルッキーニ寂しがってるよ」
「そうだな。あいつの好きなキャンデーが何処かに有った筈だ……ええっと」
 服のポケットを探し始めるシャーリーに、エーリカが何かを差し出した。
「はいこれ」
「おっ、サンキュー。ってこれスオムスのまずい飴じゃないよな?」
「シャーリーの服に入ってたからそれはないと思うよ」
「なるほど……っていつの間に取ったんだよ」
「さあね。スキだらけ~」
 エーリカはさっと立ち上がり、食べ終わった食器を片付けると、シチュー皿にシチューをたんまりと注ぐ。
 それをトレーに載せて、食堂を後にする。恐らくは、部屋で寝込んでる彼女の元へと持って行くつもりだろう。
 シャーリーはそんなエーリカを見て、ふっとため息を漏らす。

 あいつらと来たら……。
 ま、そう言うあたしも同類か。

 そんな事を考えながら、返された飴玉ふたつを、手に取る。
 ルッキーニの居場所は大体分かってる。
 行って声を掛けて……しかし飴玉ふたつで機嫌を直して貰えるだろうか。
 少々の不安か、飴玉の乗る手をじっと見つめる。

「考えるより、動いた方が良いよ。多分待ってる」
 見ていたのか、食堂の入口でエーリカがにやついている。

 ……全く、油断も隙も無い奴だ。

 そんな感想を胸にしまい、わかったわかったと大きめに返事をして、シャーリーは席を立った。

 ハルトマンなりの気遣い……あたしまで受けて、どうするよ。

 参ったね、と呟いて、シャーリーは外へ出た。

 あのウルトラエース二人は、よく分かってる。だからこそ……。
 リベリオン出身の大尉は大きく息を吐くと、ルッキーニの元へと走った。

end



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