彼女が制服に着替えたら~エーリカ編~
「ハールートーマァァァン!!!!!!!!」
今日も今日とて、どっかの軍バカ大尉の大声が寝ぼけた頭によく響く。
目の前にいるんだからそんなに大声出さなくても聞こえますって。
あんまり大声出して基地壊しちゃだめだよ、トゥルーデ。
ロマーニャの基地は急ごしらえなんだから。
「あぁ、おはよ。トゥルーデ」
「おはよ、じゃない! 今何時だと思ってるんだ!何時だと!」
エーリカちゃんは今起きたばっかりだから、まだ朝ですよ。
あたり前じゃないですか。
「もう昼食の時間も過ぎてるんだぞ!いい加減にしろ!」
あー。またお昼食べそこねたよ。今日は宮藤とリーネが担当だから、
きっとおいしかったんだろうな。あとで二人に頼んで何かつくってもらおっと。
「どうしていつもいつもそうやってだらしない生活がしていられるんだっ!!!
軍人としてどうこうの前に、カールスラント人として
もうちょっとしっかりできんのか、しっかり!!!」
寝巻き---といってもほとんど下着だけだけど---をだらしなく着崩した私は、
両肩をがっしり掴まれてぐわんぐわんとゆさぶられる。
あぁ、自分の作ったシュトルムに巻き込まれたときってこんな感じだ……。
「お前はっ……!!!それでも人間かっ!!!」
これはひどい。カールスラント軍で一番、ひょっとすると世界中の全ウィッチの中でも
1、2を争うぐらいのスーパー美少女エース、エーリカ・ハルトマンちゃんを捕まえて
その言い方ってないんじゃないだろうか。
さすが、頭の中に軍規と訓練と妹しか入ってない人は見る目がないよ。
「別にいいじゃん、誰が見てるわけでもないんだし」
「そうはいかん! 栄誉あるカールスラント空軍航空歩兵たる我々は、
常に全カールスラント人、ひいては全人類の規範となるべくだな……」
「……トゥルーデ、いつもそんなことばっかり考えてたら胃に穴あくよ……」
「お前はもう少し考えろっ!!!」
わかったわかった。考えます。考えますから耳元で大きな声で叫ぶのはやめてください。
いつかみたいに優しい声で私の名前を呼んでくださいな。
「……ともかく、着衣の乱れは心の乱れ!
ほら、ブラウスにアイロンかけておいてやったから、さっさと制服に着替えろ」
わーい。ちょうどブラウスが見つからないなーって思ってたとこだったんだー。
ありがとう、トゥルーデお姉ちゃん。愛してるよ。
「ふざけたこといっとらんでさっさと着替えんか」
はーい。
……もしもし、ゲルトルート・バルクホルン大尉?
「なんだ?」
どうしてそこにいらっしゃるので?
「お前が二度寝しないか、制服の襟が曲がっていないか、
肩章がきちんと付いているか確認するためだ。まるで訓練生だな」
チェックしてくれるのはありがとうございます。
でもね。私は着替えたいわけですよ。
「だから早く着替えろといってるだろう」
いや、だから。
「なんだ……何が言いたいんだ?」
すいませんけど、着替える間ぐらい、部屋を出ていてもらえませんか?
……何その『なにいってんだこいつ』っていう視線は。
「部屋を出ていったら、二度寝をするかだらしない格好をするか、
いずれにせよひどいことになるだろう。だから見張っているんだ」
……少女のプライバシーを土足で踏みにじるのは感心しませんぜ、大尉。
「何がプライバシーだ。私は上官としてお前を監督する義務と責任があるのだ」
いや、だからそこはいいの。着替えてからチェックすればいいことだから。
……だからその『わかんない』って顔やめてってば。
「だから早く着替えろといってるだろう。それとも、着替えを手伝って欲しいのか?」
「ちがうよっ!」
「だったら早くしろ!」
「だから!……あっち向いててよ、お願いだから」
……なにさ、その呆れたような顔は。
「お前はバカか?下着姿で、ましてやズボンを履かずに基地内を
うろつくような奴がどうして着替えくらいで恥ずかしがるんだ!!」
恥ずかしいよ!年頃の女の子だもん!
下着も替えるし、ズボンも脱ぐんだぞ!
「いつも一緒に風呂に入ってるだろうが!」
「それとこれとは別!」
「今さら恥ずかしがるような間柄じゃないだろ!」
「バカ……!」
トゥルーデだから、恥ずかしいんじゃん。いわせんな。
そりゃ……いつも散々なところ見せてるけど、私にだって、
気になる人には見せたくないものはあるんだよ。
気になる人は特別なんだよ。
戦況を読むのは得意なくせに、こういう気配りができないんじゃ
いまどきの若い子はついてこないよ。この堅物。
「さぁ、くだらんことを言ってないでさっさと着替え……」
「いいから出てけーー!!!」
「おっ、おい!!!」
無理やりに廊下に追い出したら、さっきより少し静かになった。
基地内では静粛を旨とすべし、だもんね。大尉殿。
「……ほんとに、バカ……」
だれかあの大尉に“新人教育”をしてやってくださいな。
きっと私よりも問題児です、あの人。
fin.