ニパのプレゼント


「いや~、今日も3人揃って派手に墜ちたね」
回収班のトラックに、ボロボロになったストライカーユニットを乗せながらクルピンスキー中尉が陽気に言う。
何でこの人は撃墜してもいつも笑っていられるんだろうか。
基地のキューベルワーゲンでわざわざ迎えに来てくれたロスマン先生も同じく疑問に思ったらしく、
いつものように中尉の頭を指示棒でぺしぺしと叩きながら、呆れたように溜息をついた。

「『派手に墜ちたね』じゃないわよ、全く。何であんたはそんなにヘラヘラしていられるの?」
「何事も楽しまないと損だよ先生。ほら、笑おうよ。怒ってたらせっかくの可愛い顔も台無しだよ」
「笑えるわけないでしょ! あなた達、この1週間でストライカーを何機ダメにしたと思ってるの?
大体あなた達は……まぁいいわ、続きは基地に帰ってからにしましょう。さ、3人とも早く乗って」
「はぁ~、こりゃ帰ったらお説教だな」
隣のカンノが憂鬱そうに溜息をつきながら言う。
「また正座しないといけないのか……」
私もカンノと同様に溜息をついてキューベルワーゲンに乗り込む。
それにしてもクルピンスキー中尉、何だか妙に生き生きしてるような……?

「ところで先生、出撃前に話してた件だけど……」
「ええ。それならちゃんと隊長に許可は取ったわ。日が暮れる前に早く行きましょう」
「ん? このまま真っすぐ基地に帰るんじゃないのか?」
「やだなぁ、ナオちゃん。今日はクマさんの誕生日だよ。誕生日プレゼントも買わないでのこのこと基地に戻ったら、
絶対怒られるよ」
「いや、どちみちストライカー壊した件は怒られるわよ」
と、すかさず中尉に突っ込むロスマン先生。
そっか、今日はサーシャ大尉の誕生日だったっけ。
全く、そんな特別な日に3人揃って仲良く撃墜だなんて本当に情けない。

「ところで、プレゼントって何買うんですか?」
私がそう尋ねると、中尉は少し考えるような仕草を取った。
「う~ん、クマさんって機械とかは大好きだけどオシャレには疎そうだしなぁ……ボクとしては
アクセサリーとかがいいと思うんだけど、先生はどう思う?」
「そうね、私もアクセサリーがいいと思うわ。大尉、あんなに綺麗なのにオシャレしないのは勿体ないもの」
「決まりだね。それじゃあ早速、アクセサリショップへしゅっぱーつ!」

――数十分後、街のアクセサリショップ

「ふ~ん、アクセサリショップって色々置いてあるんだな……」
ショーウィンドウに並んでいるアクセサリの数々を見つめながらカンノが呟く。
「カンノはこういう店、来るの初めてなのか?」
「当たり前だろ。オレが好き好んでこういう店に来ると思うか?」
「いや、思わない……ん? これは……」
ショーウィンドウに並んであった金色のネックレスがふと私の目に止まる。
「このネックレス、すごく綺麗だな」
私は、サーシャ大尉がこのネックレスを付けた姿を想像してみる。
うん、上手く言葉に言い表せないけどとても似合いそうな気がした。
「お、ニパ君中々良い物に目をつけたね。先生、このネックレスなんかいいんじゃない?」
「どれどれ……本当、すごく可愛らしくて綺麗なネックレスね……店主さん、これ下さい」
ロスマン先生が財布からお金を取り出し、ネックレスを購入する。
一見子供にしか見えない先生が大金を出すものだから、店主さんはとても驚いていた。
「さすが先生、太っ腹だね」
「あら、今支払ったお金は隊長に頼んで、あなた達の給料を前借りしたものよ」
「へぇ~……って、ええ!? ボク達の給料使っちゃったの?」
「当然でしょ? あなた達が1番大尉に迷惑かけてるんだから」
「うぅ、確かにそれは否定できない……」
「うん」
私とカンノは納得したように頷く。

「ねぇ、そう言えば誰がプレゼントを渡すの?」
帰りの車中、ロスマン先生が不意に私たちにそう尋ねてきた。
「う~ん、ボクが渡したら何か誤解されそうだし……ニパ君がいいんじゃない?」
「ああ。オレもニパがいいと思う」
「そうね。私もニパが一番適任だと思うわ」
「ちょ、ちょっと待って! 何で私なんですか? 別にカンノでもいいじゃないか」
「いや、オレあの人の前だと緊張して上手く喋れないと思うし……
それに、そのネックレスに1番最初に目を付けたのはニパじゃないか」
「それはそうだけど……何だか恥ずかしいよ」
「大丈夫大丈夫。いざとなったらボクがフォローしてあげるから」
私にウインクしながら微笑むクルピンスキー中尉。
かえって不安になるのは何故だろうか。

――十数分後、502基地

「全く、あなた達は何機ストライカーを壊せば気が済むんですか!」
予想通り、基地に帰ってくるや否やサーシャ大尉のお説教タイムが始まった。
私たち3人は冷たい床の上で正座して、大尉のお説教を黙って聴いていた。
「ニパ君、ここいらでプレゼントを渡したほうがいいんじゃないかな」
隣に座っているクルピンスキー中尉が小声でそう囁きかけてきた。
「え? このタイミングでですか?」
「うん。いいかい? プレゼントを渡しながらこう言うんだ……ごにょごにょ」
「こら! 2人とも何をこそこそ話しているんですか?」
「大尉、あの……!」
「何ですか? ニパさん」
私は意を決してポケットの中からネックレスの入った小さな箱を取りだし、それを大尉の前に差し出す。
「大尉、誕生日おめでとうございます! これ、私たちからの誕生日プレゼントでぅっ……です!」
「そこ噛むのかよ……」
後ろでカンノがぼそっと呟く。
だけど、私はそこで挫けずに今中尉に言われた言葉を続ける。
「このネックレス、綺麗で可愛い大尉に絶対似合うと思います!」
……言っちゃった。一瞬、辺りに沈黙が流れる。
サーシャ大尉は驚いたような表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。
「え、えっと……ありがとうございます。私、すごく嬉しいです」
大尉は優しく微笑むと箱からネックレスを取り出し、それを首に付けた。
わぁ、想像以上に似合っててすごく可愛い。
「似合ってるよ、クマさん」
「ありがとうございます。でも、これで今日の件が帳消しになったりはしませんからね。
3人とも夕食までそこで正座していてください」
「あ、やっぱり正座はしてないといけないのね……」

夕食まで正座しているのは辛かったけど、大尉が私の選んだプレゼントを気に入ってくれて本当に良かった。

――――――

「さっきの台詞、中尉に言わされてたんですか?」
夕食後、2人きりになった談話室で大尉が私にそう尋ねてきた。
「えっと、台詞を考えたのは中尉だけど綺麗で可愛い大尉に似合うと思ったのは本心です……」
「ニパさん、ズルいです。そんな事言われたら何も言い返せないじゃないですか……」
大尉が顔を真っ赤にして俯く。
そ、その表情は反則ですよ大尉。
「大尉、ごめん! 私、我慢できないです!」
大尉の仕草と表情があまりにも可愛かったので、気が付けば私は大尉の唇に口付けを落としていた。
「んっ……ニ、ニパさん!? い、いきなり何を……」
「好きだよ、サーシャ」
そう言って私はもう1度サーシャ大尉にキスをする。

――なぁイッル、オラーシャのウィッチって不思議な魅力を持ってるよな。


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